【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第九話 訪れる転機

第九話 八

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するとあかりの背後から第三者の気配がした。結月が背後に護符を放った。
「誰?」
 結月の鋭い声に、少女の声が答えた。
「あなた方に協力したいのです」
「……協力?」
 今度は少年の声が答える。
「そうです。我々はあの妖狐を助けたい」
 正直すぐには頷けなかったが、現状を打破するにはこれしかないようにも思えた。結月の目配せに気づいたあかりも攻撃の隙間で首肯した。
「よかった、ありがとうございます」
 結月と少年少女は素早く打ち合わせを終えると、前に向き直った。隙を見て、結月があかりと妖狐の間に霊符を放った。
「恐鬼怨雷、急々如律令!」
 すさまじい轟音と閃光が視界を覆いつくす。あかりは事前に結月からもらった護符があるからなんともなかったが、相手はひとたまりもないはずだ。
一瞬の隙に、結月はあかりの手を引いて退路を駆けた。振り返ると少年少女は逃げる妖狐を追いかけていたが、すでに式神使いの姿はなかった。
林道を走りながら、あかりと結月はまず、昴たちのもとへ向かった。
「よかった、ちゃんと合流できて」
 こちらは術使いが多く配備されていたため、すぐに戦いは収まったらしい。
「さっそくで悪いんだけど、あかりちゃんには捕えた式神の邪気を払ってほしいんだ」
「もちろん」
 先ほどの妖狐との戦闘と疾駆とであかりの体力は残りわずかだったが、妖を救えるのなら全く気にならなかった。
 霊剣を正面に突きつけ、四縦五横に宙を斬る。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」
 真っ赤な光が式神を覆う。光が弾けるように散るとそこには何の姿も残ってはいなかった。しかし、魂が浄化され、持ち主のもとへ還っていくのは感じられた。
「さすが、あかりちゃん」
 結界の修復も終わったようで、それを見届けると秋之介と昴があかりと結月を振り返った。
「つーか、おまえらどこにいたんだよ」
「なかなか来ないから心配したんだよ」
 あかりと結月は顔を見合わせた。一体どこから話したものかとそろって考え込んでいるときに、あの声がした。
「それは、私たちからお話しさせていただきます」
 少年少女は、ばっと一斉にその場の皆の視線を集めた。
「陰の国の者じゃないか……⁉」
「なんだってこんなところに!」
 ざわつく皆を制したのは、この場で最も地位の高い昴だった。その顔は厳しい。
「君たちは陰の国の者だよね? 何をしに来たの?」
「待って、昴」
 いてもたってもいられず、あかりは昴と少年少女の間に立った。
「この子たちは私と結月を助けてくれたんだよ」
「……どういうこと?」
 あかりは妖狐と再会したこと、不気味な式神使いに遭遇したこと、そして少年少女が退避に力を貸してくれたことを順に説明した。
 話を聞き終えると、昴は「なるほどね」と頷いた。先ほどより穏やかな表情ではあったが、まだ少年少女を警戒しているようだった。
「それで、君たちが話したいことって?」
「陰の国の実情をお教えに参りました」
 周囲は再びざわついた。さすがの昴もこれには驚きを隠せなかったようで目を見開いていた。
「決して危害は加えないとお約束いたします」
「どうか我々の話を聞いていただけませんか」
 昴は少年少女を見てから、あかりと結月に視線を移した。信用していいのかどうか決めかねているのだろう。だからあかりは頷いた。
 昴は大きく息を吐くとその場の皆に「解散」と言い渡した。そして昴自身も踵を返す。
「話は僕の邸で聞くよ」
「あ、ありがとうございます!」
 そして、あかりたち一行は玄舞家へと向かった。
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