【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一〇話 夢幻のような

第一〇話 六

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「あ……」
 新しい紗の着物をまじまじと見たのは初めてのことだったので、今さらながらに気づいた。
(これ、私が気に入ってた着物に似てる)
 紗は盛夏の時季の着物なのでおよそ二か月と短い期間しか着られない。だからなのだろうか。結月たちはその着物を目にするなりあかりによく似合っていると褒めてくれ、それゆえあかりのお気に入りの着物になったのだった。あのときの着物はもう戻らないものだとがっかりしていたのだが、昴はそのことにまで心を配ってくれたのかもしれない。
 紗の着物は落ち着いた赤の地で、美しいびん型模様が一面に描かれている。そこに透け感のある黒茶の帯を締める。帯は一見シンプルだが、胴回りとお太鼓部分にそれぞれワンポイントの大輪の花が咲いている。着物に散らばる色のひとつを選び、帯揚げと帯締めを合わせた。帯締めは三分紐で、帯留めには涼やかな細長いガラス玉を通した。
 さすがにお嬢様結びは暑いので、今日は団子にまとめることにした。最後に先端にガラス玉のついたかんざしを飾るように挿して完成だ。
 紗の着物とは少し色味が異なる赤の薄物の羽織を身に着け、あかりは姿見の前でくるりと一回転した。
(おかしなところは……なし、と)
 最終確認を済ませ、あかりは鏡に向かって笑いかけると、手提げを持って部屋を出た。
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