【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一〇話 夢幻のような

第一〇話 一六

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邸に帰りつく頃には日も暮れていて、群青色の空には月が浮かんでいた。
 あかりたちは邸に着くなり大広間に案内された。そこには八つの豪華なお膳が整えられていて、そのうち四つの席は埋まっていた。
「よっ、あかり」
「あかりちゃん、お誕生日おめでとう」
「菊助おじ様に、春朝おじ様。梓おば様と香澄おば様も……!」
 あかりがうんと小さい頃は結月たちを連れて彼らの両親もお祝いにと朱咲家へやって来たものだが、ある程度の年齢になると両親たちは子ども達を朱咲家へ向かわせるだけとなった。
だから、こうして春朝たちが誕生日に一堂に会することは十数年ぶりのことで、あかりは嬉しくなった。足取りは弾むように軽く、あかりは春朝たちの元へ駆け寄った。
「来てくれたんだね。ありがとう!」
「昴くんが呼んでくれたのよ」
「日中は秋たちと町に出かけたんだって? どこに行ってきたんだい?」
 梓の質問にあかりが答えるのに、春朝たちも耳を傾けていた。
 話の区切りがついたのを見計らって、昴が「そろそろ始めようか」とあかりの肩をちょんとつつく。あかりは返事をすると席に着いた。
 昴が音頭をとり、夕食会が始まった。
 お膳にはあかりの好物ばかりが並んでいて、あかりはひとつひとつの料理を味わって食べた。
 そのうちに菊助たち大人組は酒の酔いが回ってきたらしい。楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「昴たちはお酒飲まないの?」
 この国には飲酒に年齢制限はないが、昴たちあたりならもう飲酒していてもおかしくはない。改めてあかりが問うと、昴からは苦笑が返ってきた。
「僕はいいかな。あかりちゃんもいることだし」
「私のことなら気にしなくていいのに」
「そうは言うけどお酒の香りだけで酔っちゃうんじゃ心配にもなるよ」
 昴の指摘した通りあかりは酒には滅法弱く、香りを嗅いだだけで酩酊状態に陥ってしまう。その間の記憶はあったりなかったりとその時々によるが、酒癖が悪いとは思わない。しかし、幼なじみたちはそんなあかりを心配しているのだった。
 昴に同意するように、結月と秋之介もうんうんと頷いていた。本人たちがそういうならあかりとしても無理に勧めるつもりはない。
 あかりたちはあかりたちなりにこの夕食会の時間を楽しむことにしたのだった。
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