135 / 388
第一〇話 夢幻のような
第一〇話 一五
しおりを挟む
「紫さんまでおば様たちみたいなこと言うのやめてよね。今はそれどころじゃないんだからいるわけないじゃない」
「ごめんなさい、つい」
紫は穏やかに微笑んだままだったが、心なしかいたずらっぽく笑っているようにも見えた。似たような笑顔で昴はあかりを見て言った。
「それにしてもあかりちゃんの晴れ姿かぁ。僕も見てみたいな」
「何言ってるの、昴。昴の方が年上なんだよ?」
「でも僕は男だから」
「そうだけどー」
不満げにあかりは頬を膨らませると「それに」と続けた。
「この中の誰かひとりでも結婚したら今みたいには過ごせなくなりそうじゃない。そんなの嫌だよ」
もしかしたら幼い考えだと一笑に付されるかもしれない。しかし、あかりはこの幼なじみ四人で過ごす時間が大好きで大切だった。それが奪われるくらいなら結婚なんてしたくないししてほしくないというのが本音だ。
昴が困ったように笑いながら、あかりの頭を撫でた。
「もう。いつまでもこのままってわけにはいかないんだよ?」
「それは……わかってるよ」
四家の血を絶やさないことはあかりたちにとって義務でもある。あかりたちには兄弟姉妹はいないので、四人ともにいずれかは結婚し、子を生さなければならない。
頭ではわかっていても今はまだこのままでいたかった。
あかりがあまりにしんみりした顔をするものだから、秋之介はわざと場を茶化した。
「そもそも、あかりみたいな女に付き合いきれる男なんているか?」
「またそういうこというんだからっ」
あかりが軽く睨み上げると、秋之介は「おー、怖っ」とおどけて笑った。この際、秋之介のことは放っておくことにし、あかりは先ほどから妙に静かな結月に声をかけた。元より口数少ない結月だが、静観しているというより沈黙しているといった表現の方が近いように思え、それが気にかかったからだ。
「結月、大丈夫? 疲れちゃった?」
「……ううん、大丈夫。……」
「結月?」
結月が何か言いたげに口を開閉していたので、あかりは促すように名前を呼んだ。すると結月は意を決したように息を吸い込み、ぽつりと呟いた。
「あかりには……側に、いてほしい」
「さっきも言ったように、みんなの側にいたいのは私も同じだよ?」
「…………そういう意味じゃない」
最後の結月の呟きはよく聞き取れず、あかりは首を傾げるばかりだった。
その後は反物を見繕ったり、身体にあてたりして楽しんだ。
ふと外を見れば青かった空はやや橙色がかっていた。夏の日は長くてうっかりしそうになるが、時刻でいえば酉の刻前だろう。そろそろ玄舞の邸に戻った方が良さそうだ。あかりたちは紫にお礼を告げると、店を後にした。
「ごめんなさい、つい」
紫は穏やかに微笑んだままだったが、心なしかいたずらっぽく笑っているようにも見えた。似たような笑顔で昴はあかりを見て言った。
「それにしてもあかりちゃんの晴れ姿かぁ。僕も見てみたいな」
「何言ってるの、昴。昴の方が年上なんだよ?」
「でも僕は男だから」
「そうだけどー」
不満げにあかりは頬を膨らませると「それに」と続けた。
「この中の誰かひとりでも結婚したら今みたいには過ごせなくなりそうじゃない。そんなの嫌だよ」
もしかしたら幼い考えだと一笑に付されるかもしれない。しかし、あかりはこの幼なじみ四人で過ごす時間が大好きで大切だった。それが奪われるくらいなら結婚なんてしたくないししてほしくないというのが本音だ。
昴が困ったように笑いながら、あかりの頭を撫でた。
「もう。いつまでもこのままってわけにはいかないんだよ?」
「それは……わかってるよ」
四家の血を絶やさないことはあかりたちにとって義務でもある。あかりたちには兄弟姉妹はいないので、四人ともにいずれかは結婚し、子を生さなければならない。
頭ではわかっていても今はまだこのままでいたかった。
あかりがあまりにしんみりした顔をするものだから、秋之介はわざと場を茶化した。
「そもそも、あかりみたいな女に付き合いきれる男なんているか?」
「またそういうこというんだからっ」
あかりが軽く睨み上げると、秋之介は「おー、怖っ」とおどけて笑った。この際、秋之介のことは放っておくことにし、あかりは先ほどから妙に静かな結月に声をかけた。元より口数少ない結月だが、静観しているというより沈黙しているといった表現の方が近いように思え、それが気にかかったからだ。
「結月、大丈夫? 疲れちゃった?」
「……ううん、大丈夫。……」
「結月?」
結月が何か言いたげに口を開閉していたので、あかりは促すように名前を呼んだ。すると結月は意を決したように息を吸い込み、ぽつりと呟いた。
「あかりには……側に、いてほしい」
「さっきも言ったように、みんなの側にいたいのは私も同じだよ?」
「…………そういう意味じゃない」
最後の結月の呟きはよく聞き取れず、あかりは首を傾げるばかりだった。
その後は反物を見繕ったり、身体にあてたりして楽しんだ。
ふと外を見れば青かった空はやや橙色がかっていた。夏の日は長くてうっかりしそうになるが、時刻でいえば酉の刻前だろう。そろそろ玄舞の邸に戻った方が良さそうだ。あかりたちは紫にお礼を告げると、店を後にした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる