134 / 388
第一〇話 夢幻のような
第一〇話 一四
しおりを挟む
「それにしても、あかりが小間物屋に行きたがるなんて珍しいよな」
茶化すでもなく秋之介が呟く。純粋に疑問に思っているようだった。
あかりは後ろを歩く秋之介をちらりと振り返った。
「たまには可愛いものを眺めたくなるの」
「そういうもんか?」
「そういうものなの」
秋之介はわからないという顔をしていた。
ほどなくして、あかりたちは小間物屋に到着した。店先から奥にまで手鏡や巾着袋、かんざしなど可愛らしい小物がいっぱいに陳列されている。
特に欲しいものは考えていなかったが、見ているだけでもあかりの気分は上がった。
昴はあかりの戯れによく付き合ってくれた。
「これなんかあかりちゃんに似合いそうじゃない?」
「えー、そうかな?」
くすくすと笑い合いながら、品物をあれこれ見ていった。その様子を馴染みの店主が微笑ましそうに見守っている。
結局何も買わなかったが店主は「またおいで」と笑って送り出してくれた。
「最後は反物屋だな」
「うん。このあたりだったよね」
「あそこ」
結月が指し示した先に件の反物屋はあった。
着物については昴が整えてくれていたので別段何かが足りなくて困っているわけではない。しかし、小間物屋同様に見ているだけでも楽しめるとあかりは思っていた。
店の暖簾を潜ると店主の女性が「いらっしゃいませ」と品の良い笑顔で出迎えてくれた。
「こんにちは、紫さん」
「これはまあ、あかり様ではございませんか。それに当主様たちも」
あかりが遊びにやってきたことを伝えると、紫は嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、ぜひ。お買い上げにならなくとも反物を当てていくだけでもしていってくださいな」
「ありがとう!」
陳列棚に積まれた反物を順に見ていく。ふと試着できる空間に目が向いた。そこには大きな白が広がっていた。
「わあ、白無垢!」
「来週、お式を挙げるお客様のものですの。ちょうどあかり様くらいか、少し年下くらいのお嬢様ですのよ」
「そうなんだ」
自分とそう年の変わらない女子が結婚するなんてすごいな、とあかりは感心した。あかりは今日で一七歳だから適齢期後半といったところだが、結婚など考えたこともない。そもそも現実がそれを許さないのもある。
紫はちらとあかりの後ろを見た。結月たちはあかりに似合いそうな反物を探していた。こちらの話が聞こえているかはわからないが、紫は気になっていることをそっと尋ねた。
「あかり様には好いお方はいらっしゃいませんの?」
「ええ?」
あかりが声をあげるのと、その背後で物音がしたのは同時だった。あかりも思わず振り返る。
「何、どうしたの?」
「なんでもないよ」
昴が苦笑いを浮かべて答える。その隣では結月が反物を元の位置に戻していた。秋之介は何故だかにやにや笑って結月を横目で見ていた。
大事ではなかったらしい。あかりは紫に向き直った。
茶化すでもなく秋之介が呟く。純粋に疑問に思っているようだった。
あかりは後ろを歩く秋之介をちらりと振り返った。
「たまには可愛いものを眺めたくなるの」
「そういうもんか?」
「そういうものなの」
秋之介はわからないという顔をしていた。
ほどなくして、あかりたちは小間物屋に到着した。店先から奥にまで手鏡や巾着袋、かんざしなど可愛らしい小物がいっぱいに陳列されている。
特に欲しいものは考えていなかったが、見ているだけでもあかりの気分は上がった。
昴はあかりの戯れによく付き合ってくれた。
「これなんかあかりちゃんに似合いそうじゃない?」
「えー、そうかな?」
くすくすと笑い合いながら、品物をあれこれ見ていった。その様子を馴染みの店主が微笑ましそうに見守っている。
結局何も買わなかったが店主は「またおいで」と笑って送り出してくれた。
「最後は反物屋だな」
「うん。このあたりだったよね」
「あそこ」
結月が指し示した先に件の反物屋はあった。
着物については昴が整えてくれていたので別段何かが足りなくて困っているわけではない。しかし、小間物屋同様に見ているだけでも楽しめるとあかりは思っていた。
店の暖簾を潜ると店主の女性が「いらっしゃいませ」と品の良い笑顔で出迎えてくれた。
「こんにちは、紫さん」
「これはまあ、あかり様ではございませんか。それに当主様たちも」
あかりが遊びにやってきたことを伝えると、紫は嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、ぜひ。お買い上げにならなくとも反物を当てていくだけでもしていってくださいな」
「ありがとう!」
陳列棚に積まれた反物を順に見ていく。ふと試着できる空間に目が向いた。そこには大きな白が広がっていた。
「わあ、白無垢!」
「来週、お式を挙げるお客様のものですの。ちょうどあかり様くらいか、少し年下くらいのお嬢様ですのよ」
「そうなんだ」
自分とそう年の変わらない女子が結婚するなんてすごいな、とあかりは感心した。あかりは今日で一七歳だから適齢期後半といったところだが、結婚など考えたこともない。そもそも現実がそれを許さないのもある。
紫はちらとあかりの後ろを見た。結月たちはあかりに似合いそうな反物を探していた。こちらの話が聞こえているかはわからないが、紫は気になっていることをそっと尋ねた。
「あかり様には好いお方はいらっしゃいませんの?」
「ええ?」
あかりが声をあげるのと、その背後で物音がしたのは同時だった。あかりも思わず振り返る。
「何、どうしたの?」
「なんでもないよ」
昴が苦笑いを浮かべて答える。その隣では結月が反物を元の位置に戻していた。秋之介は何故だかにやにや笑って結月を横目で見ていた。
大事ではなかったらしい。あかりは紫に向き直った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる