【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一一話 夏のひととき

第一一話 一〇

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時折気が散りそうになりながらもあかりはなんとか政務を続けていた。
 ちょうど一区切りついたところで結月と秋之介が姿を現した。昴のことは予め話を聞いていたようで、先に様子も見てきたようだ。彼らに慌てた様子はなかった。
 玄舞家の家臣が用意してくれたお茶に口をつけるのも忘れて、あかりは結月と秋之介に昴の容態を尋ねた。
「昴はどうだった?」
「疲れてたんだろ。俺たちが行っても寝てたぜ」
 同意を示すように結月も軽く頷く。
 あかりはほっと小さく息を吐いた。
「そう。昴が休めてるなら良かった……」
「ああ。そういや、あかりは珍しく昴の側にいないんだな」
「眠る直前に昴に言われたの。私は私のやるべきことをちゃんとやるようにって。それが昴のためになるし、早く終わらせれば看病に時間を割けるでしょう?」
 秋之介はさも意外そうに目を丸くした。
「へえ。あかりもちゃんと考えてたんだな」
「何よう。私だって物の分別くらいつくわよ」
「拗ねるなって。素直に感心したんだよ」
 ふくれっ面をするあかりを見て、秋之介はからからと笑う。いつも通りのやり取りに結月はふっと小さな笑みをこぼすと、あかりに訊いた。
「それで、政務は片付いたの?」
 秋之介とじゃれるようににらみ合いをしていたあかりだったが、結月の声にぱっと顔を向けた。
「あと少しかな。午後には昴のところに行けると思うよ」
「なら、おれも、一緒に行く。手伝えること、ある?」
「いいの?」
 結月は静かに頷く。その顔はどこか心配そうだった。
「やっぱり、結月も昴のこと心配だよね」
「……それもある、けど。おれは、あかりのことも、心配してる」
「え、私?」
 司が占った凶事についてはまだ葉月ではない。健康体そのもののあかりにとっては何が結月を心配させているのか見当がつかなかった。
「私、そんなに危なっかしい……?」
 困ったようにあかりが問うも、結月は肯定も否定も示さない。見かねた秋之介が助け舟を出した。
「それだよ」
 それ、と言って秋之介が指し示したのは文机に山と積まれた紙の束だった。
「あかりが無理しないかって心配してるんだろ、ゆづは」
 そう言う秋之介の声にも普段のようなからかいの色が見られず、真剣だった。
 そこまで指摘されて、あかりは初めて彼らの気持ちに気がついた。何度か目を瞬かせた後、あかりはにっこりと二人に笑いかけた。
「……ありがとう」
 そうして結月の申し出には素直に甘えることにして、あかりは休憩もそこそこに政務を片付けにかかった。
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