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第一一話 夏のひととき
第一一話 一二
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「で、なんであかりの方が先に寝るんだよ」
秋之介の口調は呆れ交じりのものだったが、声色は優しいものだった。昴は薄い布団を出すとあかりの上にそっとかける。結月は淡く微笑むとあかりの頬にかかった髪を繊細な手つきで払った。
「最近ずっと緊張してたみたいだから、仕方ない。休めるときには、休んでほしい」
「……そうだね」
あかりに自覚があるかは定かではないが、水無月に『葉月の凶事』を司に伝えられてからというもの、あかりの気は張り詰めていることが多くなっていた。現在は文月の終わりだから気にしすぎていても仕方ないのだが、そんな理屈で片づけられるほど易しい事態ではない。そのときが刻一刻と迫ってくること自体がひたひたとあかりの心を追い詰めているようだった。
穏やかな寝顔には、しかし確かな疲れも滲んで見える。
そんな彼女の顔を見つめていたら、ある日の夜のことが結月の脳裏に過った。流れ星に願いをかけるあかりに、自分は何と言ったのだったか。
(あかりにはずっと笑っていてほしい。それは願うんじゃなくて、おれ自身で叶えたい。……そう、誓った)
気丈に振る舞うあかりに追いつきたいなら、思うところがあったとしても自分がここで弱音を吐くべきではない。
代わりに結月の口をついて出たのは、短くも思いのこもった一言だった。
「……守るから」
さして大きな声ではなかったが、秋之介と昴にも聞こえたようだった。二人はそろって結月の言葉に頷いた。
まるで三人の決意があかりの憂いを払ったかのように、次にあかりを見たときには幸せそうな寝顔に変わっていた。
「結月、秋、昴……」
さきほどの昔話の影響で幼い頃の夢でも見ているのかもしれない。
夢が覚めてもあかりが幸せに笑えるように。
それが結月の望みであり、残酷な現実を照らす一条の光だった。
秋之介の口調は呆れ交じりのものだったが、声色は優しいものだった。昴は薄い布団を出すとあかりの上にそっとかける。結月は淡く微笑むとあかりの頬にかかった髪を繊細な手つきで払った。
「最近ずっと緊張してたみたいだから、仕方ない。休めるときには、休んでほしい」
「……そうだね」
あかりに自覚があるかは定かではないが、水無月に『葉月の凶事』を司に伝えられてからというもの、あかりの気は張り詰めていることが多くなっていた。現在は文月の終わりだから気にしすぎていても仕方ないのだが、そんな理屈で片づけられるほど易しい事態ではない。そのときが刻一刻と迫ってくること自体がひたひたとあかりの心を追い詰めているようだった。
穏やかな寝顔には、しかし確かな疲れも滲んで見える。
そんな彼女の顔を見つめていたら、ある日の夜のことが結月の脳裏に過った。流れ星に願いをかけるあかりに、自分は何と言ったのだったか。
(あかりにはずっと笑っていてほしい。それは願うんじゃなくて、おれ自身で叶えたい。……そう、誓った)
気丈に振る舞うあかりに追いつきたいなら、思うところがあったとしても自分がここで弱音を吐くべきではない。
代わりに結月の口をついて出たのは、短くも思いのこもった一言だった。
「……守るから」
さして大きな声ではなかったが、秋之介と昴にも聞こえたようだった。二人はそろって結月の言葉に頷いた。
まるで三人の決意があかりの憂いを払ったかのように、次にあかりを見たときには幸せそうな寝顔に変わっていた。
「結月、秋、昴……」
さきほどの昔話の影響で幼い頃の夢でも見ているのかもしれない。
夢が覚めてもあかりが幸せに笑えるように。
それが結月の望みであり、残酷な現実を照らす一条の光だった。
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