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第一二話 葉月の凶事
第一二話 四
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するとそこに鋭い殺気が走った。いちはやく反応したあかりが霊剣で飛んできた攻撃を弾き返す。
「みんな、気を付けて!」
あかりが言い終わるよりも早く、結月は霊符を構え、秋之介は白虎姿に変じ、昴は結界を張った。
四人が見つめる先には探していた妖狐と、頭から黒い布を被ったひとりの式神使いがいた。数の上ではあかりたちの方が有利なはずなのに、相手は悠然としていて重苦しい気を放っている。男の側に侍る妖狐の瞳からは何も感じ取れなかった。
「男三人を殺ったら、娘だけは見逃してやる」
あかりには聞き取れなかったが、耳のいい秋之介には聞き取れたらしく険しい顔つきになる。
「何を……」
「娘の名はあかり。さあ、行け」
短く命令だけ言い置くと式神使いは卑怯にも姿を消した。対して妖狐はあかりの名を聞くと目の色を変えた。何も感じられなかった瞳に次第に確かな害意を滲ませる。妖狐は前衛のあかりたちを抜き、素早く後衛の昴目がけて跳んだ。
「させるかよっ!」
秋之介は昴と妖狐の間に割って入ると、鋭い爪を振るった。妖狐はそれを後退してかわす。
「いきなり昴を襲うってどういうこと⁉」
霊剣を構え、前を見据えたままあかりは叫んだ。秋之介は先ほど耳にした言葉を繰り返した。
「どうやら狙いは俺たちの方みたいだぜ。あかりを助けたければ俺たち三人を始末しろとさ!」
「なんで私を助けたいの?」
黒い妖狐には知り合いだった憶えがない。あかりは戸惑ったが、妖狐は再び昴を襲おうとしたのでそれどころではない。
「どうやったら落ち着かせられる……⁉」
むやみやたらに消滅させるのはこの場の誰もが望んでいないことだ。殺さずに落ち着けることがどんなに難しいことかはわかっているが、自我が残っているかもしれないのならなおのこと、どうにかしたかった。
妖狐は昴に一点集中で攻撃を仕掛けている。昴も攻撃で結界が綻ぶ度に、何度も張り直す。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
「心身護神、青柳護神、急々如律令」
「白古護神、急々如律令!」
結月と秋之介が昴から気を逸らそうとするが、妖狐はまったく取り合わない。あかりはというと、この隙に秘咒を唱えていた。
「東地の神、名は青柳、西地の神、名は白古、南地の神、名は朱咲、北地の神、名は玄舞、四地の大神、百鬼を退け、凶災を蕩う。急々如律令!」
妖狐の背に向かって霊剣を斬り払う。しかし、妖狐は鋭くそれに気づいて攻撃をかわした。体勢を整えると妖狐は再び昴に向かっていった。
「なんで昴にこだわる、のっ……!」
あかりが妖狐に霊剣を振るうも、やはり攻撃は当たらない。
妖狐の猛攻にさすがの昴も押され始める。
妖狐から放たれた狐火があたりの下草を燃やして、炎と煙が立ち上った。相克の関係で火が苦手な秋之介の攻撃の手が緩むが、反対にあかりの力は増す。気が高まり、研ぎ澄まされたあかりには火と煙の向こうの景色までもがよく見えた。
「みんな、気を付けて!」
あかりが言い終わるよりも早く、結月は霊符を構え、秋之介は白虎姿に変じ、昴は結界を張った。
四人が見つめる先には探していた妖狐と、頭から黒い布を被ったひとりの式神使いがいた。数の上ではあかりたちの方が有利なはずなのに、相手は悠然としていて重苦しい気を放っている。男の側に侍る妖狐の瞳からは何も感じ取れなかった。
「男三人を殺ったら、娘だけは見逃してやる」
あかりには聞き取れなかったが、耳のいい秋之介には聞き取れたらしく険しい顔つきになる。
「何を……」
「娘の名はあかり。さあ、行け」
短く命令だけ言い置くと式神使いは卑怯にも姿を消した。対して妖狐はあかりの名を聞くと目の色を変えた。何も感じられなかった瞳に次第に確かな害意を滲ませる。妖狐は前衛のあかりたちを抜き、素早く後衛の昴目がけて跳んだ。
「させるかよっ!」
秋之介は昴と妖狐の間に割って入ると、鋭い爪を振るった。妖狐はそれを後退してかわす。
「いきなり昴を襲うってどういうこと⁉」
霊剣を構え、前を見据えたままあかりは叫んだ。秋之介は先ほど耳にした言葉を繰り返した。
「どうやら狙いは俺たちの方みたいだぜ。あかりを助けたければ俺たち三人を始末しろとさ!」
「なんで私を助けたいの?」
黒い妖狐には知り合いだった憶えがない。あかりは戸惑ったが、妖狐は再び昴を襲おうとしたのでそれどころではない。
「どうやったら落ち着かせられる……⁉」
むやみやたらに消滅させるのはこの場の誰もが望んでいないことだ。殺さずに落ち着けることがどんなに難しいことかはわかっているが、自我が残っているかもしれないのならなおのこと、どうにかしたかった。
妖狐は昴に一点集中で攻撃を仕掛けている。昴も攻撃で結界が綻ぶ度に、何度も張り直す。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
「心身護神、青柳護神、急々如律令」
「白古護神、急々如律令!」
結月と秋之介が昴から気を逸らそうとするが、妖狐はまったく取り合わない。あかりはというと、この隙に秘咒を唱えていた。
「東地の神、名は青柳、西地の神、名は白古、南地の神、名は朱咲、北地の神、名は玄舞、四地の大神、百鬼を退け、凶災を蕩う。急々如律令!」
妖狐の背に向かって霊剣を斬り払う。しかし、妖狐は鋭くそれに気づいて攻撃をかわした。体勢を整えると妖狐は再び昴に向かっていった。
「なんで昴にこだわる、のっ……!」
あかりが妖狐に霊剣を振るうも、やはり攻撃は当たらない。
妖狐の猛攻にさすがの昴も押され始める。
妖狐から放たれた狐火があたりの下草を燃やして、炎と煙が立ち上った。相克の関係で火が苦手な秋之介の攻撃の手が緩むが、反対にあかりの力は増す。気が高まり、研ぎ澄まされたあかりには火と煙の向こうの景色までもがよく見えた。
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