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第一二話 葉月の凶事
第一二話 五
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そこであかりは気づいてしまった。
「昴……っ!」
結界の一部が綻んでいる。もちろん昴はそれには気づいているだろうが、結界の張り直しが追いついていない。
あかりは迷わず昴の前に躍り出ると、正面から妖狐の攻撃を受け止めた。
昴は目を瞠って、あかりの名を呼んだ。
「あかりちゃん、だめだ!」
「だって、このままじゃ昴が……!」
負けじとあかりも叫び返す。あたりは火が燃え上がるごうごうという音に支配されていて、声を張らなければ届かない。
「さっきのは助かったけど……。でも、いくら火を司る朱咲様の血を引いていたとしても、こんなところに飛び込んでくるなんて無謀だ! 僕は大丈夫だから、あかりちゃんはここから離れて……っ!」
あかりは妖狐の攻撃を霊剣でいなすと、ちらりと肩越しに昴を見た。
「何が大丈夫なの⁉ 結界だって張るのには限界があるのに、離れて見てろっていうの? 私にはそんな真似できない!」
「あかりちゃん、お願いだから聞き分けて。御上様に言われたことがここで起きないとも限らないんだよ!」
昴は攻撃の隙をついてあかりの腕を引くと、自身と一緒に結界の中に閉じ込めた。結界の中には外の熱気や煙が入ってこない。咳き込むあかりを、昴は厳しい目で見遣った。
「だから言ったでしょう。僕なら大丈夫。あかりちゃんはゆづくんと秋くんのところに行って。玄舞家の術使いもそろそろやってくる頃合いだ」
「でも……っ」
「お願いだよ、あかりちゃん。あかりちゃんは確かに強い。だけど、できることなら戦いになんか巻き込まれてほしくないんだ」
昴は痛切な表情であかりに訴えた。そんな顔を見せられてしまっては、あかりにはもう何も言えなかった。ここは大人しく昴の言うことに従うしかないと、あかりが踵を返しかけたそのときだった。
「昴、危ない……っ‼」
「……⁉」
結界の綻びを抜けて、妖狐が突っ込んできた。鋭い牙で穿とうと大口を開けている。
あかりの悲鳴と同時に昴も気づいたようだが対処が間に合わない。あかりは昴に駆け寄ると、身体を突き飛ばした。昴と一緒になって倒れこみかけたあかりは、喉に熱いものを感じた。
「……っ‼」
「あかりちゃん‼」
昴は受け身をとり、素早く体勢を整えると、あかりを抱きとめた。
「……」
(昴、大丈夫……?)
そう言いたいのに声が出ない。急速に体温も奪われているようで、昴の結界が破られた今、炎に囲まれているというのに寒くなってきた。
ぼやけ始めた視界の端で、妖狐が取り乱しているのを見た気がした。
「時人くん達は妖狐を確保して! ……あかりちゃん……!」
「あかり……っ‼」
「昴! 一体何が……⁉」
聞きなじんだ結月と秋之介の声が側に聞こえる。しかし、次第に言葉は拾えなくなり、音すらも遠のいていく。
(寒いの、嫌、だな……)
暗くなっていく視界。消えていく音。感覚を失っていく冷たい四肢。
あかりは無音の暗闇の世界に意識を落とした。
「昴……っ!」
結界の一部が綻んでいる。もちろん昴はそれには気づいているだろうが、結界の張り直しが追いついていない。
あかりは迷わず昴の前に躍り出ると、正面から妖狐の攻撃を受け止めた。
昴は目を瞠って、あかりの名を呼んだ。
「あかりちゃん、だめだ!」
「だって、このままじゃ昴が……!」
負けじとあかりも叫び返す。あたりは火が燃え上がるごうごうという音に支配されていて、声を張らなければ届かない。
「さっきのは助かったけど……。でも、いくら火を司る朱咲様の血を引いていたとしても、こんなところに飛び込んでくるなんて無謀だ! 僕は大丈夫だから、あかりちゃんはここから離れて……っ!」
あかりは妖狐の攻撃を霊剣でいなすと、ちらりと肩越しに昴を見た。
「何が大丈夫なの⁉ 結界だって張るのには限界があるのに、離れて見てろっていうの? 私にはそんな真似できない!」
「あかりちゃん、お願いだから聞き分けて。御上様に言われたことがここで起きないとも限らないんだよ!」
昴は攻撃の隙をついてあかりの腕を引くと、自身と一緒に結界の中に閉じ込めた。結界の中には外の熱気や煙が入ってこない。咳き込むあかりを、昴は厳しい目で見遣った。
「だから言ったでしょう。僕なら大丈夫。あかりちゃんはゆづくんと秋くんのところに行って。玄舞家の術使いもそろそろやってくる頃合いだ」
「でも……っ」
「お願いだよ、あかりちゃん。あかりちゃんは確かに強い。だけど、できることなら戦いになんか巻き込まれてほしくないんだ」
昴は痛切な表情であかりに訴えた。そんな顔を見せられてしまっては、あかりにはもう何も言えなかった。ここは大人しく昴の言うことに従うしかないと、あかりが踵を返しかけたそのときだった。
「昴、危ない……っ‼」
「……⁉」
結界の綻びを抜けて、妖狐が突っ込んできた。鋭い牙で穿とうと大口を開けている。
あかりの悲鳴と同時に昴も気づいたようだが対処が間に合わない。あかりは昴に駆け寄ると、身体を突き飛ばした。昴と一緒になって倒れこみかけたあかりは、喉に熱いものを感じた。
「……っ‼」
「あかりちゃん‼」
昴は受け身をとり、素早く体勢を整えると、あかりを抱きとめた。
「……」
(昴、大丈夫……?)
そう言いたいのに声が出ない。急速に体温も奪われているようで、昴の結界が破られた今、炎に囲まれているというのに寒くなってきた。
ぼやけ始めた視界の端で、妖狐が取り乱しているのを見た気がした。
「時人くん達は妖狐を確保して! ……あかりちゃん……!」
「あかり……っ‼」
「昴! 一体何が……⁉」
聞きなじんだ結月と秋之介の声が側に聞こえる。しかし、次第に言葉は拾えなくなり、音すらも遠のいていく。
(寒いの、嫌、だな……)
暗くなっていく視界。消えていく音。感覚を失っていく冷たい四肢。
あかりは無音の暗闇の世界に意識を落とした。
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