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第一二話 葉月の凶事
第一二話 八
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以来、必要最低限の執務や任務を除き、昴はあかりの側について、身を削るように治療に注力していた。
(僕のせいだ……)
仲間想いのあかりのことだから、昴が押されていると知れば援助にくるだろうことは容易に想像できたはずだった。
(僕が弱いから。……守るって約束したのに)
結局昴はあかりを守るのではなく、あかりに守られた。もしあのときあかりが昴の身を突き飛ばさなかったら、妖狐の牙は確実に昴に刺さっていただろう。最悪死んでいたかもしれない。
それでも昴は自分を許せなかった。大切な幼なじみの女の子ひとりすら守りきれないというのなら、玄舞の守護の力は何のためにあるというのだろう。
悔恨の念で胸がいっぱいになる。昴はかろうじて涙を堪えながら、震える声であかりに語りかけた。それはほとんど懺悔に近かった。
「ごめんね、あかりちゃん……」
「……」
「何があっても僕が守るよって言ったのに。君を守れなくて、約束を破って、ごめんね……」
「……」
あれから一二日。司の予言した凶事の起こる葉月は終わって、暦は長月に入った。
瘴気を払い、傷口も完全に塞いだにも関わらず、あかりが目覚める気配はなく、彼女は今日も静かに眠っていた。
「早く君の笑顔が見たいよ……」
困難な試練と厳しい現実に惑わされる運命だが、あかりが笑っていてくれるから昴は諦めずにこの運命に立ち向かえた。あかりの笑顔は昴にとって希望の光そのものだった。
こんなときこそあかりのあたたかな笑顔がほしかった。心を支えていた柱の一本がへし折られた昴からはいつもの彼らしさは感じ取れない。
昴はあかりの手を取った。冷たくはないが自分よりも低い手の温度に、不安がかきたてられた。
そのとき、二つの足音が近づいてきて、あかりの部屋のふすまがそっと開かれた。
「昴」
「あかりはどうだ?」
遠慮がちに結月と秋之介が声をかける。昴は振り返ることもせず、首を振った。
「そっか……」
結月はあかりの寝顔を見た。青い瞳が悲しげに揺れる。
秋之介はあかりをちらと見ると、昴と結月に視線を移した。そして、手に持っていた盆を畳に置くと、どっかりと腰を下ろした。
「とりあえず飯にしようぜ。ここの料理番が昴のこと心配してたぞ。なんでもいいからとりあえず食べてほしいってさ」
「……いらない。食べる気がしないんだ」
昴はうつむいたまま答えた。秋之介は「言うと思ったぜ」とため息を吐いた。
「無理強いはしないけどな。でも、食べねえと霊力も体力も回復しねえぞ? あかりの治療は続けたいんだろ?」
「……わかったよ」
昴はのろのろと盆の上のおにぎりに手を伸ばした。結月と秋之介の分ももらってきたので、二人もおにぎりを食べ始める。
食事中、三人の間に会話はなかった。
あかりがいないことでこんなにも静かになってしまうことを、昴は否が応でも意識してしまった。そして三年前のことも思い出される。
(あかりちゃん……。早く戻ってきてよ……)
昴が見つめた先で、あかりは身じろぎひとつしなかった。
(僕のせいだ……)
仲間想いのあかりのことだから、昴が押されていると知れば援助にくるだろうことは容易に想像できたはずだった。
(僕が弱いから。……守るって約束したのに)
結局昴はあかりを守るのではなく、あかりに守られた。もしあのときあかりが昴の身を突き飛ばさなかったら、妖狐の牙は確実に昴に刺さっていただろう。最悪死んでいたかもしれない。
それでも昴は自分を許せなかった。大切な幼なじみの女の子ひとりすら守りきれないというのなら、玄舞の守護の力は何のためにあるというのだろう。
悔恨の念で胸がいっぱいになる。昴はかろうじて涙を堪えながら、震える声であかりに語りかけた。それはほとんど懺悔に近かった。
「ごめんね、あかりちゃん……」
「……」
「何があっても僕が守るよって言ったのに。君を守れなくて、約束を破って、ごめんね……」
「……」
あれから一二日。司の予言した凶事の起こる葉月は終わって、暦は長月に入った。
瘴気を払い、傷口も完全に塞いだにも関わらず、あかりが目覚める気配はなく、彼女は今日も静かに眠っていた。
「早く君の笑顔が見たいよ……」
困難な試練と厳しい現実に惑わされる運命だが、あかりが笑っていてくれるから昴は諦めずにこの運命に立ち向かえた。あかりの笑顔は昴にとって希望の光そのものだった。
こんなときこそあかりのあたたかな笑顔がほしかった。心を支えていた柱の一本がへし折られた昴からはいつもの彼らしさは感じ取れない。
昴はあかりの手を取った。冷たくはないが自分よりも低い手の温度に、不安がかきたてられた。
そのとき、二つの足音が近づいてきて、あかりの部屋のふすまがそっと開かれた。
「昴」
「あかりはどうだ?」
遠慮がちに結月と秋之介が声をかける。昴は振り返ることもせず、首を振った。
「そっか……」
結月はあかりの寝顔を見た。青い瞳が悲しげに揺れる。
秋之介はあかりをちらと見ると、昴と結月に視線を移した。そして、手に持っていた盆を畳に置くと、どっかりと腰を下ろした。
「とりあえず飯にしようぜ。ここの料理番が昴のこと心配してたぞ。なんでもいいからとりあえず食べてほしいってさ」
「……いらない。食べる気がしないんだ」
昴はうつむいたまま答えた。秋之介は「言うと思ったぜ」とため息を吐いた。
「無理強いはしないけどな。でも、食べねえと霊力も体力も回復しねえぞ? あかりの治療は続けたいんだろ?」
「……わかったよ」
昴はのろのろと盆の上のおにぎりに手を伸ばした。結月と秋之介の分ももらってきたので、二人もおにぎりを食べ始める。
食事中、三人の間に会話はなかった。
あかりがいないことでこんなにも静かになってしまうことを、昴は否が応でも意識してしまった。そして三年前のことも思い出される。
(あかりちゃん……。早く戻ってきてよ……)
昴が見つめた先で、あかりは身じろぎひとつしなかった。
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