【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一二話 葉月の凶事

第一二話 一三

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一刻後。急ごしらえの金物を織り交ぜた特製の護符を携え、あかりを連れた結月と昴は秋之介のもとへと向かった。白砂の庭の中央には、きっちりと着物の衿を合わせた秋之介がすでに待機していた。儀式に使う道具の配置も済んでいるようだった。
「秋くん、これ」
「ああ、ありがとな」
 結月が抱えていたあかりの身を定位置に横たえる傍らで、昴はこの儀式の要ともなる護符を秋之介に手渡した。
 これで準備は整った。秋之介は定位置につき、結月と昴は少し離れたところで儀式の進行を見守る。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」
 儀式が始まった。
「一心奉請、東神青柳、南神朱咲、中央神黄麟、西神白古、北神玄舞。一心奉請、東神青柳、南神朱咲、中央神黄麟、西神白古、北神玄舞。一心奉請、東神青柳、南神朱咲、中央神黄麟、西神白古、北神玄舞。急々如律令」
秋之介の凛とした声が庭中に響き渡る。
「依代を以て彼の身に霊魂を降ろし給え」
 その後五行行事を執り行い、最後に祈念する。
「冀くば祈主白古秋之介、心上護神、除災与楽、胸霧自消、心月澄明、祈願円満、円満成就。急々如律令」
 白い光が辺りを覆う。光は依り代の護符に収束したかに思えたが、次の瞬間ぱっと光を散らせた。あまりに眩しい光にその場の誰もが目を瞑る。次に目を開けたとき、彼らは我が目を疑った。
「……」
「あかり!」
「あかりちゃん!」
 あれほど何の反応も示してこなかったあかりが、うっすらと目を開けていたからだ。結月たちは瞬時にあかりに駆け寄った。
「あかりちゃん、僕のことわかる⁉」
「―」
 『昴』と名を呼ぼうとしたのに、声が出なかった。それが信じられなくてあかりはもう一度息を吸い込んだが、やはり声にならない。
 異変を察したのか、昴の顔つきが険しくなる。
 迷った末あかりは起き上がろうとしたが上手く力が入らなかった。それを側にいた結月が支えてくれて、ようやく上半身を起き上がらせる。そして昴を手招くと彼の右手をとった。あかりは昴の手のひらにゆっくりと指で文字を書いた。
『こ、え、で、な、い』
 昴は瞠目して、言葉を失った。秋之介が横から尋ねる。
「なんて?」
「……声が出ないって言いたいみたい」
 結月は心配そうにあかりの顔を覗き込んだ。
「他におかしなところは、ない?」
 声が出ないことと長時間の眠りから覚めた不快感を除けばいたって正常だった。あかりは結月に向かってこくりと頷いた。
「そっか。……」
 結月は安心したような、それでいて困惑したような複雑な表情を浮かべて黙り込んでしまった。
 ひとまずは儀式を締めくくろうということになって、秋之介は祭壇の正面に向き直った。
「一心奉送上所請、一切尊神、一切霊等、各々本宮に還り給え、向後請じ奉らば、即ち慈悲捨てず、急に須く光降を垂れ給え」
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