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第一四話 交わす約束
第一四話 一
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あかりが町で働きだすようになって二週間ほどが経過し、暦は霜月に入っていた。本業に支障を来さないため数日おきではあったが、町で働く様は板についてきたように思う。とはいっても毎回同じ仕事をしているわけではなく、ある日は店番、ある日は畑仕事とその日によってやる仕事も異なっていた。
この日のあかりは東の地の住民の畑仕事を手伝っていた。午前中に始めた作業は夕暮れと同時に切り上げとなった。去り際、畑の持ち主である男主人に何度も頭を下げられ、お礼にと今日大量に収穫できた野菜を持たせてもらった。
「あかりちゃん、また遊びにおいでね」
『私、遊びに来たんじゃなくてお仕事しに来たんだけど』
男主人の隣で彼の妻がからからと笑う。
「どっちだっていいじゃない。あかりちゃんが来てくれるってことが大事なのさ」
「そういうこった。おっと、お迎えが来たよ」
(お迎え?)
特にそう言った話は聞かされていない。不思議に思いながらあかりが振り返ると、夕闇の中にぼんやりと濃い青が浮かび上がっていた。
(結月……!)
あかりは小走りに結月のもとへ向かうと、『どうしたの?』と問う代わりに小さく首を傾げた。結月はふわりと目元を綻ばせた。
「近所だったから、来てみた。あかり、これから帰るんでしょう? 一緒に帰ろう」
『ありがとう』という気持ちをこめてあかりは大きく頷いた。結月はそれを見届けると、夫婦の方へ向き直り、ぺこりと小さく頭を下げた。
「大介さんと百合子さんも、あかりがお世話になりました。おれもまた、時間ある時に顔出します」
「二人ならいつでも歓迎さ。それじゃあ、またね」
ときおりあかりも振り返っていたが、家の角に遮られるまで大介と百合子は手を大きく振って見送ってくれた。
「野菜、重いでしょう? おれ、持つよ」
あかりが答える前に、結月はさっと荷物を受け取る。正直、夫妻は結構な量を持たせてくれたので、結月の手伝いはありがたかった。
あかりがにこりと笑めば、薄闇の中でもきちんと伝わったらしく、結月の微笑む息づかいが聞こえた。
本当は話したいことはたくさんあったが、夕暮れの中を歩きながら筆談というのは難しい。自然沈黙が降りるが、路地に響く二人分の足音には何故だか安心感があった。特に気まずさを感じることもなく、二人は玄舞家に着いた。
この日のあかりは東の地の住民の畑仕事を手伝っていた。午前中に始めた作業は夕暮れと同時に切り上げとなった。去り際、畑の持ち主である男主人に何度も頭を下げられ、お礼にと今日大量に収穫できた野菜を持たせてもらった。
「あかりちゃん、また遊びにおいでね」
『私、遊びに来たんじゃなくてお仕事しに来たんだけど』
男主人の隣で彼の妻がからからと笑う。
「どっちだっていいじゃない。あかりちゃんが来てくれるってことが大事なのさ」
「そういうこった。おっと、お迎えが来たよ」
(お迎え?)
特にそう言った話は聞かされていない。不思議に思いながらあかりが振り返ると、夕闇の中にぼんやりと濃い青が浮かび上がっていた。
(結月……!)
あかりは小走りに結月のもとへ向かうと、『どうしたの?』と問う代わりに小さく首を傾げた。結月はふわりと目元を綻ばせた。
「近所だったから、来てみた。あかり、これから帰るんでしょう? 一緒に帰ろう」
『ありがとう』という気持ちをこめてあかりは大きく頷いた。結月はそれを見届けると、夫婦の方へ向き直り、ぺこりと小さく頭を下げた。
「大介さんと百合子さんも、あかりがお世話になりました。おれもまた、時間ある時に顔出します」
「二人ならいつでも歓迎さ。それじゃあ、またね」
ときおりあかりも振り返っていたが、家の角に遮られるまで大介と百合子は手を大きく振って見送ってくれた。
「野菜、重いでしょう? おれ、持つよ」
あかりが答える前に、結月はさっと荷物を受け取る。正直、夫妻は結構な量を持たせてくれたので、結月の手伝いはありがたかった。
あかりがにこりと笑めば、薄闇の中でもきちんと伝わったらしく、結月の微笑む息づかいが聞こえた。
本当は話したいことはたくさんあったが、夕暮れの中を歩きながら筆談というのは難しい。自然沈黙が降りるが、路地に響く二人分の足音には何故だか安心感があった。特に気まずさを感じることもなく、二人は玄舞家に着いた。
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