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第一四話 交わす約束
第一四話 七
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「さて、僕は政務に戻ろうかな。あかりちゃんはどうするの?」
『ここで稽古でもしてようと思う』
「そっか、わかったよ。じゃあ、またお昼ご飯の時にね」
『うん。昴も頑張ってね』
稽古場を出て昴の後姿が見えなくなるまであかりは手を振り、見送った。
稽古場に一人きりになるとどっと疲れが襲ってきた。
昴のいた手前なるべく明るく振る舞おうとしていたが、やはり一人になると不安や焦燥が募る。
声はいつ戻るのか。そもそも戻る保証なんてどこにもない。四か月もそんな状態が続けばさすがのあかりでも堪えるものがあった。
(いけない。今日は弱気になり過ぎよ……)
雑念を振り払うためにも舞稽古に集中しようしたが、いまひとつ稽古に身が入らなかった。集中力を欠いているせいか動きにいつもの切れがなく、体力だけが奪われていく。不覚にも膝が折れてしまい、あかりはその場に倒れるように座り込んだ。
こんなとき母がいたらなんと言われて注意されただろう。ふと、そんな考えが頭を過った。
母だけではない。未だ生死も行方も不明の父がもし今ここにいたら、なんと言って慰めてくれただろう。
(お母様、お父様……)
ああ、やっぱり今日の調子は思わしくない。普段ならこんな弱音など吐かないでいられるのに。
(みんなの隣で戦いたい。おしゃべりだってしたいし、謡いたい。届けたい思いはいっぱいあるのに、どうしてこうもままならないんだろう)
座り込み俯いたあかりは、稽古場でひとりため息を吐いた。
『ここで稽古でもしてようと思う』
「そっか、わかったよ。じゃあ、またお昼ご飯の時にね」
『うん。昴も頑張ってね』
稽古場を出て昴の後姿が見えなくなるまであかりは手を振り、見送った。
稽古場に一人きりになるとどっと疲れが襲ってきた。
昴のいた手前なるべく明るく振る舞おうとしていたが、やはり一人になると不安や焦燥が募る。
声はいつ戻るのか。そもそも戻る保証なんてどこにもない。四か月もそんな状態が続けばさすがのあかりでも堪えるものがあった。
(いけない。今日は弱気になり過ぎよ……)
雑念を振り払うためにも舞稽古に集中しようしたが、いまひとつ稽古に身が入らなかった。集中力を欠いているせいか動きにいつもの切れがなく、体力だけが奪われていく。不覚にも膝が折れてしまい、あかりはその場に倒れるように座り込んだ。
こんなとき母がいたらなんと言われて注意されただろう。ふと、そんな考えが頭を過った。
母だけではない。未だ生死も行方も不明の父がもし今ここにいたら、なんと言って慰めてくれただろう。
(お母様、お父様……)
ああ、やっぱり今日の調子は思わしくない。普段ならこんな弱音など吐かないでいられるのに。
(みんなの隣で戦いたい。おしゃべりだってしたいし、謡いたい。届けたい思いはいっぱいあるのに、どうしてこうもままならないんだろう)
座り込み俯いたあかりは、稽古場でひとりため息を吐いた。
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