190 / 388
第一四話 交わす約束
第一四話 八
しおりを挟む
「……あかり?」
ちょうどそこに結月がやって来た。
(もしかして、今の見られてた……?)
「……」
結月は最初こそ不思議そうな顔をしていたが、あかりと目が合うなりじっと観察するようにあかりを見つめた。
「ちょっとごめんね」
断りを入れて、結月はあかりの額に左手をあてると「やっぱり……」と呟いた。結月の手はひんやりとしているように感じられ、あかりにとっては何故だが心地が良かった。
「あかり、この後の予定は?」
突然何の話だろうとは思ったが、あかりは素直に答えることにした。
『今日はもう急務はないよ。だからここで稽古でもしてようと思って』
「じゃあ休んで」
結月にしては珍しく語気が強めだった。あかりは『どうしたの?』と訊く代わりに首を傾げて結月を見上げた。結月は一瞬たじろぐような素振りを見せたが、すぐにいつもの淡々とした調子に戻って言った。
「あかり、熱あるの、自覚ない?」
(熱?)
指摘されてそういえば動きが鈍っていること、妙に気弱な思考に振り回されていることに気がついた。四か月声が出せないままの落胆と疲弊が原因とばかり思っていたが、どうやら体調を崩しているからというのも理由の一端だったらしい。
結局あかりは結月に部屋へ連れ戻されることになった。
『病は気から』とはよく言ったもので、体調が悪いと自覚した途端、あかりの動きはさらに鈍化した。部屋の片隅であかりは座って、結月が布団を用意してくれている様子をぼんやりと眺めていた。結月は布団を敷き終わると内廊下の方へ踵を返した。
「昴と、多分秋も来てるから二人に伝えてくる。あかりは休んでて」
頷くあかりを心配そうに見遣ってから、結月は部屋を出て行った。
言われた通りあかりが布団で横になっていると、いくらも経たないうちに昴と秋之介を連れて結月が戻って来た。
「ただいま、あかり」
「だから無理すんなって言ったのに」
「気づかなくてごめんね。具合はどう?」
『熱っぽくて怠いくらい』
「この頃寒いし、風邪かな。ちょっと診せてね」
昴は上半身を起こしたあかりの正面に座ると両手をとった。
「玄舞護神、急々如律令」
黒い光の粒があかりを取り囲むようにふわふわと舞う。その間、昴はじっとあかりの瞳をのぞきこんでいた。やがて昴は手を離した。
「やっぱり風邪みたい。疲れてたから免疫力が落ちてたのかもね」
昴の言う通り、最近のあかりは町の淀んだ空気をしきりに気にして疲弊していた。それくらいに町には今、不穏な気配が漂っている。
昼餉前には薬を作って持ってくると言い残し、昴たちは部屋を後にした。
生活空間からはやや離れたところに位置するあかりの部屋は、ひっそりと静まり返ってしまった。余計な思考に振り回されるかとも思ったが、それ以上に身体は疲弊していたらしく、すぐに睡魔が襲ってきた。
頭の片隅でぼんやりと寂しいとは思ったものの、その思考も長くは続かずあかりは眠りについた。
ちょうどそこに結月がやって来た。
(もしかして、今の見られてた……?)
「……」
結月は最初こそ不思議そうな顔をしていたが、あかりと目が合うなりじっと観察するようにあかりを見つめた。
「ちょっとごめんね」
断りを入れて、結月はあかりの額に左手をあてると「やっぱり……」と呟いた。結月の手はひんやりとしているように感じられ、あかりにとっては何故だが心地が良かった。
「あかり、この後の予定は?」
突然何の話だろうとは思ったが、あかりは素直に答えることにした。
『今日はもう急務はないよ。だからここで稽古でもしてようと思って』
「じゃあ休んで」
結月にしては珍しく語気が強めだった。あかりは『どうしたの?』と訊く代わりに首を傾げて結月を見上げた。結月は一瞬たじろぐような素振りを見せたが、すぐにいつもの淡々とした調子に戻って言った。
「あかり、熱あるの、自覚ない?」
(熱?)
指摘されてそういえば動きが鈍っていること、妙に気弱な思考に振り回されていることに気がついた。四か月声が出せないままの落胆と疲弊が原因とばかり思っていたが、どうやら体調を崩しているからというのも理由の一端だったらしい。
結局あかりは結月に部屋へ連れ戻されることになった。
『病は気から』とはよく言ったもので、体調が悪いと自覚した途端、あかりの動きはさらに鈍化した。部屋の片隅であかりは座って、結月が布団を用意してくれている様子をぼんやりと眺めていた。結月は布団を敷き終わると内廊下の方へ踵を返した。
「昴と、多分秋も来てるから二人に伝えてくる。あかりは休んでて」
頷くあかりを心配そうに見遣ってから、結月は部屋を出て行った。
言われた通りあかりが布団で横になっていると、いくらも経たないうちに昴と秋之介を連れて結月が戻って来た。
「ただいま、あかり」
「だから無理すんなって言ったのに」
「気づかなくてごめんね。具合はどう?」
『熱っぽくて怠いくらい』
「この頃寒いし、風邪かな。ちょっと診せてね」
昴は上半身を起こしたあかりの正面に座ると両手をとった。
「玄舞護神、急々如律令」
黒い光の粒があかりを取り囲むようにふわふわと舞う。その間、昴はじっとあかりの瞳をのぞきこんでいた。やがて昴は手を離した。
「やっぱり風邪みたい。疲れてたから免疫力が落ちてたのかもね」
昴の言う通り、最近のあかりは町の淀んだ空気をしきりに気にして疲弊していた。それくらいに町には今、不穏な気配が漂っている。
昼餉前には薬を作って持ってくると言い残し、昴たちは部屋を後にした。
生活空間からはやや離れたところに位置するあかりの部屋は、ひっそりと静まり返ってしまった。余計な思考に振り回されるかとも思ったが、それ以上に身体は疲弊していたらしく、すぐに睡魔が襲ってきた。
頭の片隅でぼんやりと寂しいとは思ったものの、その思考も長くは続かずあかりは眠りについた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる