191 / 390
第一四話 交わす約束
第一四話 九
しおりを挟む
昼食前に薬を渡されて、ご飯もそこそこ食べた後、あかりは再び休むことにした。そのおかげか夜には怠さも軽減していた。熱で体温が上がっているからか少し涼みたいと思い、あかりはそっと縁側から中庭に降りた。
見上げた空には皓々とした光を湛える月と無数に散り輝く星々が浮かんでいる。空気が澄んでいるからだろう、それらの光は他のどの季節よりも一際美しく見えた。その美しさがあかりに感傷を呼び起こさせる。
両親や亡き南の地の民にもう一度会いたい。早く声を取り戻して皆とともに戦いたい。本当は戦いなんかなく穏やかで楽しい日々を過ごしたい。
考えれば考えるほどに、弱音と一緒になった願望が胸の奥から湧き出てくる。
ちりんと胸の中で微かな鈴音が鳴った気がした。そして、中庭に敷き詰められた黒い石を踏みしめる音がする。音のした方を振り向くと結月が佇んでいた。
(どうして、結月がここに……?)
時刻は亥の刻を回っているはずだ。それでもここにいるということは今夜は玄舞家に泊まっていくのだろう。心優しい結月のことだからあかりのことが心配で泊まることにしたのかもしれない。
「あかりが寂しそうだって、朱咲様が教えてくださった。大丈夫?」
「っ……!」
常なら『大丈夫だよ』と笑顔で答えられるところが、心身ともに参っている今ばかりは違った。風邪の時にひとりきり、その心細さは牢生活で嫌というほど身に沁みている。
(結月……!)
あかりはばっと結月の胸に飛び込んだ。結月はとっさに体勢を取り直すと、あかりの身をふわりと受け止めた。
「大丈夫じゃない?」
あかりは顔を上げないまま、結月の胸の中でこくこく頷いた。
「いいんだよ、弱音を言ったって。それに前に言ったよね、頼ってほしいって。あかりの思い、ちゃんと聴くから」
亡き者たちに会いたい。本当は戦いたくなんてない。
結月の優しい相槌に、あかりの弱音がぽろぽろと剥がれ落ちていく。
何より今一番危惧していることは声が戻らないことだ。昴のことは信頼しているし、治療も続けていくつもりだが、本当に声が戻る日が来るのか不安で不安で仕方なかった。声がなければあかりは戦えない。好きな歌も謡えなければ、会話にだって厄介さがつきまとう。
あかりが吐き出す不安や不満を、結月は遮ることなくただ聞いてくれた。安っぽい答えなんてもとより望んでいない。あかりの気持ちの機微に気づいて、話を聞いてくれるだけで十分だった。
見上げた空には皓々とした光を湛える月と無数に散り輝く星々が浮かんでいる。空気が澄んでいるからだろう、それらの光は他のどの季節よりも一際美しく見えた。その美しさがあかりに感傷を呼び起こさせる。
両親や亡き南の地の民にもう一度会いたい。早く声を取り戻して皆とともに戦いたい。本当は戦いなんかなく穏やかで楽しい日々を過ごしたい。
考えれば考えるほどに、弱音と一緒になった願望が胸の奥から湧き出てくる。
ちりんと胸の中で微かな鈴音が鳴った気がした。そして、中庭に敷き詰められた黒い石を踏みしめる音がする。音のした方を振り向くと結月が佇んでいた。
(どうして、結月がここに……?)
時刻は亥の刻を回っているはずだ。それでもここにいるということは今夜は玄舞家に泊まっていくのだろう。心優しい結月のことだからあかりのことが心配で泊まることにしたのかもしれない。
「あかりが寂しそうだって、朱咲様が教えてくださった。大丈夫?」
「っ……!」
常なら『大丈夫だよ』と笑顔で答えられるところが、心身ともに参っている今ばかりは違った。風邪の時にひとりきり、その心細さは牢生活で嫌というほど身に沁みている。
(結月……!)
あかりはばっと結月の胸に飛び込んだ。結月はとっさに体勢を取り直すと、あかりの身をふわりと受け止めた。
「大丈夫じゃない?」
あかりは顔を上げないまま、結月の胸の中でこくこく頷いた。
「いいんだよ、弱音を言ったって。それに前に言ったよね、頼ってほしいって。あかりの思い、ちゃんと聴くから」
亡き者たちに会いたい。本当は戦いたくなんてない。
結月の優しい相槌に、あかりの弱音がぽろぽろと剥がれ落ちていく。
何より今一番危惧していることは声が戻らないことだ。昴のことは信頼しているし、治療も続けていくつもりだが、本当に声が戻る日が来るのか不安で不安で仕方なかった。声がなければあかりは戦えない。好きな歌も謡えなければ、会話にだって厄介さがつきまとう。
あかりが吐き出す不安や不満を、結月は遮ることなくただ聞いてくれた。安っぽい答えなんてもとより望んでいない。あかりの気持ちの機微に気づいて、話を聞いてくれるだけで十分だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
《完結》悪役聖女
ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる