【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一四話 交わす約束

第一四話 九

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 昼食前に薬を渡されて、ご飯もそこそこ食べた後、あかりは再び休むことにした。そのおかげか夜には怠さも軽減していた。熱で体温が上がっているからか少し涼みたいと思い、あかりはそっと縁側から中庭に降りた。
 見上げた空には皓々とした光を湛える月と無数に散り輝く星々が浮かんでいる。空気が澄んでいるからだろう、それらの光は他のどの季節よりも一際美しく見えた。その美しさがあかりに感傷を呼び起こさせる。
 両親や亡き南の地の民にもう一度会いたい。早く声を取り戻して皆とともに戦いたい。本当は戦いなんかなく穏やかで楽しい日々を過ごしたい。
 考えれば考えるほどに、弱音と一緒になった願望が胸の奥から湧き出てくる。
ちりんと胸の中で微かな鈴音が鳴った気がした。そして、中庭に敷き詰められた黒い石を踏みしめる音がする。音のした方を振り向くと結月が佇んでいた。
(どうして、結月がここに……?)
 時刻は亥の刻を回っているはずだ。それでもここにいるということは今夜は玄舞家に泊まっていくのだろう。心優しい結月のことだからあかりのことが心配で泊まることにしたのかもしれない。
「あかりが寂しそうだって、朱咲様が教えてくださった。大丈夫?」
「っ……!」
 常なら『大丈夫だよ』と笑顔で答えられるところが、心身ともに参っている今ばかりは違った。風邪の時にひとりきり、その心細さは牢生活で嫌というほど身に沁みている。
(結月……!)
 あかりはばっと結月の胸に飛び込んだ。結月はとっさに体勢を取り直すと、あかりの身をふわりと受け止めた。
「大丈夫じゃない?」
 あかりは顔を上げないまま、結月の胸の中でこくこく頷いた。
「いいんだよ、弱音を言ったって。それに前に言ったよね、頼ってほしいって。あかりの思い、ちゃんと聴くから」
 亡き者たちに会いたい。本当は戦いたくなんてない。
 結月の優しい相槌に、あかりの弱音がぽろぽろと剥がれ落ちていく。
 何より今一番危惧していることは声が戻らないことだ。昴のことは信頼しているし、治療も続けていくつもりだが、本当に声が戻る日が来るのか不安で不安で仕方なかった。声がなければあかりは戦えない。好きな歌も謡えなければ、会話にだって厄介さがつきまとう。
 あかりが吐き出す不安や不満を、結月は遮ることなくただ聞いてくれた。安っぽい答えなんてもとより望んでいない。あかりの気持ちの機微に気づいて、話を聞いてくれるだけで十分だった。
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