【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
213 / 390
第一五話 希望の声

第一五話 一五

しおりを挟む
 注がれる生温かい視線にいよいよ耐えられなくなったあかりは、場をごまかすようにぱんと手を叩いて声を張った。
「あ、秋と昴は⁉ 二人は大丈夫⁉」
 秋之介と昴も大概ぼろぼろだったが、ぱっと見た限りでは結月のような目立った外傷はない。だからといって油断はできない。見えないところに傷を負っているかもしれないし、呪詛も疑わなければならないからだ。
「俺? まあ、ところどころ痛みはするけど、んな心配するほどじゃねえよ」
「僕も大丈夫だよ。怪我よりも妖力が尽きかけてることで疲れてるだけ」
「そ、そっか……」
「僕たちよりもあかりちゃんは何ともないの?」
「あ、うん。私は大丈夫だよ」
 あかりは自身がつくりだした浄化の炎をまとっていたおかげで傷ひとつつかなかった。声に関しても、五か月間発声が困難だったことがまるで嘘のように違和感はない。
 あかりがあっさり頷くと、昴はようやく「良かった」と呟いた。その昴のたった一言が、あかりにはとても重いものに感じられた。
 あかりが声を失ったことに責任感の強い彼はきっと己を責め続けたことだろう。なかなか治療の効果が得られないことに焦りを感じていたかもしれない。しかし、昴はあかりを戦いから遠ざけたいと思いながらも、最後にはあかりの意志を尊重してくれた。
 そういった複雑な思いが「良かった」の一言に集約されているのだと思った。
 思い返せばこの五か月の間にも様々なことがあった。
 戦いに倒れてようやく目覚めたと思ったら声を失っていた。なかなか声が戻らないことで不安に苛まれた。皆を守る力がないことにひどく落胆した。
 おそらくひとりだったらとうに挫けて、諦めていたかもしれない。
 けれど幸運なことに、あかりには支えてくれる人がたくさんいた。結月に秋之介、昴の幼なじみ三人は側で助けてくれた。司はあかりのことを気にかけてくれていたし、民はあかりが町で働くために惜しまず協力してくれた。
 それに辛いことばかりではなかった。こうなったからこそ民の笑顔の尊さを実感することができた。それはあかりの『民の笑顔を守りたい』という思いを一層強めた。
父と何度も繰り返した『何があっても最後まで諦めない』という教えの言葉も、『諦めない限りは希望を信じていい』という結月の言葉も本当だった。
そしてそれが成せたのは側に大事な人たちがいたから。だから頑張ろうと思えたのだ。
「ありがとう」
 支えてくれた数えきれないほどの人々にきっと届くように、あかりは万感の思いを言霊にのせた。
 その言葉は、声は、皆に希望をもたらすことだろう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...