【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一六話 救いのかたち

第一六話 六

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 結月は頷くと、持っていた湯飲みを机に置いていった。
その間にあかりたちは定位置に座る。春朝と香澄が隣り合って座る向かいにあかりとお茶を配り終えた結月が腰を下ろす。
緑茶の甘く爽やかな香りとまろやかで上品な味をあかりが楽しんでいると、湯飲みを置いた春朝が話を振ってきた。
「伝え聞いていた時間より到着が遅かったけれど、道中何かあったのかい?」
「町の人に話しかけられて困ってたの。結月が助けてくれたけどね」
「あら、話しかけられて困るなんて軟派な方にでもあったのかしら。あかりちゃんは可愛いものね。気をつけるのよ、結月」
「気をつけるのは結月じゃなくて私じゃないの?」
「……。それに、遅くなったのはそれだけが原因じゃない」
 香澄の『気をつける』の意味も、結月の返答の微妙な間も不可思議ではあったが、結月のまとう雰囲気がぴんと張りつめたものに変わったことであかりは居住まいを正した。
「そうなの。あの妖狐の気配がしたの」
 『妖狐』の一言に、春朝の表情は厳しいものに変わった。
「妖狐というと、あかりちゃんを襲ったという、あの妖狐のこと?」
「姿は確認できなかったけど気配はそうだった。だよね、結月」
「うん。印象的な気だから、よく覚えてる。まず間違いない」
 あかりと結月が確信的に頷くと、春朝はますます眉間のしわを濃くした。
「容姿は毛が黒くて、赤い瞳ということだったね。……ううん……」
「おじ様?」
 腕を組み唸っていた春朝だったが、あかりに呼びかけられて顔を上げた。春朝は視線だけ畳に落としてから、意を決したようにあかりと目を合わせた。
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