【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一六話 救いのかたち

第一六話 一二

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「ねえ、お父様。一緒に帰ろうよ」
 妖狐からは先ほどのような反応がなかったが、届くまで伝えるだけだ。構わずあかりは言葉を紡ぎ続けた。
「反対する人も非難する人もいると思う。でも、何があったとしてもお父様が私のお父様であることに変わりはないから、私はやっぱり一緒に帰りたい。南の地で残されたのが私だけなんて寂しいよ……」
「……」
「お父様……」
「……ごめ、ん。あ、かり……」
 返ってきたのは謝罪とも拒絶ともとれる一言だった。苦し気な息とともに吐きだされた言葉はひどく辛そうなもので、あかりの胸は締め付けられた。
「どうして?」
 あかりの言葉を無視して、妖狐はふらつきながら緩慢な動作で顔を正面に戻す。
「待って、行かないで!」
「……」
「お父様‼」
 あかりの悲痛な声が静寂の湖畔にこだまする。
 しかし妖狐はあかりに背を向けると、先ほどの辛そうな様子から一変してそのまま駆け出した。それでもときおりよろけそうになっているから、無理をしていると一目で知れる。辛くてたまらないはずなのに無理を押してでも走るその背中はまるで追い縋ろうとあかりが一歩を踏み出すことすら許さないとでもいうように厳しく突き放しているように感じられて、あかりはとうとう後を追うことができなかった。
 湖面を吹き抜けてきた風があかりの身を打つ。凍えるように冷たいそれはあかりの心身を冷やしていくようだった。
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