【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一六話 救いのかたち

第一六話 一一

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それまであかりの問いかけが届いているのか定かではないくらいに反応を見せなかった妖狐だったが、最後の問いかけにゆっくりと顔だけ振り返った。
「え……?」
 ほんの一瞬だったが、まるで無色透明のようだった妖狐の赤い瞳が揺れていた。妖狐の感情らしい感情を初めて垣間見たあかりは目を疑った。
「お父様、なの……?」
 繰り返すあかりの小さな声は震えていた。天翔だと肯定されても否定されても、苦しくて辛いことに変わりはなかったからだ。
 妖狐は揺らぎを抑えた瞳であかりをじっと見つめていた。あかりはそこに他の感情が滲んでいないかと必死になって見つめ返す。
 すると、動揺の間に懐かしい灯りを見つけた気がした。
 思い出すのは火を灯したように優しい赤。それはそっくりそのまま記憶の中の父の瞳と重なった。
「お父様……っ」
 いてもたってもいられず、ほとんど衝動的にあかりは大きな声をあげていた。やや離れた位置にいる妖狐に声が届くように、父にあかりの想いが届くように。
 あかりの強い想いをのせた言霊が妖狐をその場に縫いとめる。同時に囁きほどの小さな声があかりの耳をかすめた。
「……あ、かり……」
「っ……!」
 ひゅっとあかりは息をのんだ。
呻くような苦し気な息づかいとともに発された声はか細く弱々しいものだったが、あかりにとってはそれだけで十分にわかってしまった。
(聞き間違うはずがない! あの声は確かにお父様の声だった……!)
 時を経るにつれて非情にも薄れてしまう思い出はあったが、一四年間毎日のように聞いていた父の声は忘れていない。
疑念が確信に変わり、胸中を様々な思いが交錯する。
 行方不明だった父は生きていた。それ自体は喜ばしいが、彼は陰の国の現帝の式神として使われている。陽の国を、そこに住まう大事な人々を何人も何人も傷つけた。あかりだって攻撃を受け、重傷を負った。
 単純な歓喜では片付けられないが、怒りや悲しみ、恨み、そのどれとも違うようなあるいはそれらを一緒くたにしたような複雑な心境だった。
 それでも変わらず、はっきりとした思いがひとつだけある。
(私は妖狐を……お父様を、救いたい)
 たったひとつの確かな思いを胸に、あかりは口を開く。
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