【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一六話 救いのかたち

第一六話 一四

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「あの妖狐に、会ったの」
 身を乗り出しかけた秋之介を結月が目線で制した。昴も目を細めただけで口出ししない。あかりは続けた。
「少し前に春朝おじ様と話したことはみんなも知ってるよね。それがずっと引っかかってて、私思わず『お父様なの?』って訊いちゃったの。そしたら、妖狐は動揺したみたいで、その隙に見えた赤い目はお父様のものにそっくりで……」
 そのときのことを思い出すと胸が引き絞られるように痛んだ。あかりは小さく呼吸を整えた。
「その後私が『一緒に帰ろう』って言ったら、妖狐は私の名前を呼んで、『ごめん』って苦しそうに答えた。妖狐は走って行っちゃったけど、私は後を追えなかった……」
 あかりが話し終えて一拍後に昴が尋ねてきた。
「あかりちゃんは妖狐に何かされたわけではないんだね?」
「うん」
「そう。ならひとまずは良かった……」
 昴が詰めていた息を吐きだす傍らで、結月と秋之介も同じように安堵の表情を浮かべている。しかしあかりの顏だけは晴れないままだった。結月が案じるように問う。
「あかりが暗い顔してるのは、妖狐を救えなかったから?」
「な、んで……」
 そこまでは話していないはずなのに、結月はあかりの心情を的確に言い当ててきた。驚きに声を震わせるあかりを、結月はそっと見遣った。
「前に妖狐を救いたいって、言ってたから。もし、本当に妖狐が天翔様なら、なおさらそう思うはず」
「そう、だね。……無謀だって思う?」
 妖狐を、父を救いたいと強く願う。しかしただ救うには妖狐は罪を背負いすぎた。それでもあかりは諦めきれないのだ。少しでも可能性があるならそれに賭けたいと思う。
 顔を上げていられずあかりが畳に目を落とすと、大きなため息が降ってきて、あかりは肩を跳ねさせた。
「あかりちゃん」
 昴の鋭く、もの言いたげな視線が突き刺さる。視線を彷徨わせてから、あかりは戦々恐々と顔を上げた。厳しい眼差しをした昴と目が合った。
「やっぱり僕は諸手を挙げて賛成はできないよ。あかりちゃんとゆづくん、秋くんの命が最優先だって思ってる。わざわざ危ない橋を渡ってほしくなんかないんだよ」
「で、でもね」
 あかりが反論しようと言いかけた言葉を昴は首を振って制した。
「そう、だけどね、あかりちゃん」
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