【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一六話 救いのかたち

第一六話 一八

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 ようやくの思いで戦場である離の結界付近に飛びこみ、あかりは目を大きく見開いた。
 南朱湖の裏手に広がる雑木林の中に離の結界はある。あたりは燃えるものが多く、一帯は火の海と化していて、その中心で妖狐が狐火を振りまきながら暴れているのが目に入った。
「お父様っ‼」
 炎の音にかき消されないように叫ぶあかりの声は悲痛の色を帯びていた。妖狐と対峙する陽の国の仲間たちはあかりの声にはっと振り向いたが、肝心の妖狐には届いていないようだった。
「妖狐の相手は僕たちがするから、皆は周囲の式神たちをお願い」
「はい……っ」
 昴の指示に従って、仲間は方々に散って他の仲間の応援に向かった。その場に残ったのはあかり、結月、秋之介、昴と妖狐のみだった。未だに式神使いの現帝の姿は見えない。
 ざり、とあかりが一歩を踏み出し、妖狐に近づく。
 昴はあかりと妖狐を注視しながら結界を張る。結月と秋之介も緊張の面持ちで彼女たちの動きを観察していた。
「お父様、なんでしょう? 私、あかりだよ」
 振り向いた妖狐の動きが一瞬だけ止まる。しかしすぐに攻撃態勢をとり、身を低くして今にも飛びかからんとばかりに構えをとった。
「お父様っ‼」
「あかり、駄目……!」
 とっさに結月があかりの腕を引くことで、あかりは焦りと不安に我を失いかけていたことに気がついた。
(そうだ。ここで考えもなく飛び出していったらあのときと同じことが繰り返される。それだけは駄目)
 脳裏に蘇るのは葉月の凶事。一連の出来事がどれだけ幼なじみたちに負担をかけていたのか忘れるはずがない。
 あかりは深呼吸をすると、顔だけ結月を振り返って頷いた。
「ごめんね。止めてくれてありがとう、結月」
「ううん」
「それにしても、あかりの話の妖狐とはまるで別人みたいだな」
 結月はあかりの腕から手を離さないまま、じっと妖狐を見つめた。
「それも式神に下された影響、かも」
「前にもそんなこと言ってたよな」
「うん。……式神に下された部分で無理矢理従わされて、下しきれなかった僅かな残りの部分で抵抗してる、感じ。すごく、心身に負担がかかってる、はず」
 結月は痛ましそうにまぶたを軽く伏せ、長いまつ毛を震わせた。
 一方であかりは瞳に力強い光を宿す。
「でも、それが本当ならまだ望みはあるってことだよね。残されたお父様の心に私の言葉が届け、ば……っ⁉」
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