【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一七話 諦めない未来

第一七話 八

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「天地の父母たる六甲六旬十二時神・青柳・蓬星・天上玉女・六戊・蔵形之神、我が母神たる朱咲に願い奉る」
 あかりの言霊に呼応するように霊剣が赤い光を帯び始める。
 あかりに向けられた本気に身を震わせた妖狐は、上体を低くすると後ろ足で強く地面を蹴った。あかりより前方に構える秋之介と結月の攻撃を受けるのもお構いなしに、妖狐は真っ直ぐに反閇に集中するあかりに向かって駆けていく。
「行かせるかよっ!」
 素早く反転した秋之介はすぐに妖狐を追い抜き、呪詛に用心しながらも鋭い爪を振りかぶった。耳にかすめたものの痛がる素振りも見せずに妖狐は秋之介を無視して走り続ける。
「くそっ!」
 悪態をつきながらも、秋之介は妖狐と並走して牽制する。
 まもなくあかりの元へ辿り着くといった直前で結月が霊符と護符を同時に放った。
「水神演舞、動静緊縛、青柳護神、急々如律令」
 青い光が広がり、妖狐の下にだけざあっと雨が降る。かつて朱咲の加護を受けていただけあって妖狐は水に弱いらしく、痛みには反応を見せなかったのに雨には怯んでいるようだった。その一瞬の隙に動きを止める霊符が発動するがこちらは咄嗟に対応した妖狐が食い破ってしまった。
 妖狐は緩みかけた速度をもとに戻すと、再びあかり目がけて突っ込んだ。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
 それを昴があかりの周囲に新たに結界を張ることで阻止する。妖狐は見えない壁に弾かれ、宙返りをして後方に着地した。
 三人が奮戦している間も、あかりの祝詞は朗々と紡がれていた。
「乾尊燿霊、坤順内営、二儀交泰、六合利貞、配天享地、永寧粛清、応感玄黄、上衣下裳、震離艮巽、虎歩龍翔、今日行算、玉女侍傍、追吾者死、捕吾者亡、牽牛織女、化成江河、急急如律令」
 禹歩の足運びで円を描きながら霊剣を片手に大きく堂々と舞い踊る。反閇の儀式は順調だった。
「天神の母、玉女。南地の母、朱咲。我を護り、我を保けよ。我に侍えて行き、某郷里に至れ。杳杳冥冥、我を見、声を聞く者はなく、その情を覩る鬼神なし。我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ」
 儀式はいよいよ終局を迎えようとしていた。
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