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第一七話 諦めない未来
第一七話 九
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「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女。急々……」
「あかりっ‼」
突如、霊剣を持っていない方の腕を強く引かれた。反閇の儀式に集中しきっていたため、あかりは予想だにしない出来事にろくな対応ができなかった。とり落とした霊剣が地面にぶつかると同時に音もなく霧散していく。均衡を崩したあかりは結月と一緒に地面に倒れこんだが、結月がかばってくれたのであかりに痛みはなかった。
一秒にも満たない後に、あかりたちの頭上を一羽の烏が凄まじい速さで通りすぎていった。見上げた烏はくちばしに紙をくわえていた。
結月は地面から起き上がるとあかりに手を差し伸べてくれた。その手を取りながら、あかりも立ち上がる。
「あかり、なんともない?」
「うん、びっくりしたけど……。一体何が?」
結月が鋭い視線で烏のくわえる紙を睨んだ。
「あの符の気……」
結月の呟きに従って、あかりは烏のくわえる紙に気を集中させた。途端にぶわりと肌が粟立つ。この感覚は忘れられるはずもない。あかりは目を大きく見開いた。
「式神に降す符……⁉」
「そう。妖狐の呪詛も厄介だけど、あの符には絶対に当たっちゃいけない」
「……うん」
以前にあの符に当たったとき、酷い幻覚を見せられたことが思い出される。母や幼なじみたちの甘く毒々しい誘惑の声、仕草はそっくりなのに無機質な青い瞳をもつ結月の姿が蘇り、あかりの胸は不快感にざわついた。
「あかりちゃん、ゆづくん!」
昴の叫び声にあかりははっと我に返った。先ほどの烏の式神が旋回して、再びあかりに向かって襲いかかる。
「狙いはあかりか……⁉」
「心上護神、身上護神、急々如律令!」
あかりの側にいた結月がすかさず護符を発動させる。青い光を避けるように烏は空高くに舞い上がると、あかりたちの頭上を円を描くように飛んだ。
あかりと結月のもとに秋之介と昴が駆け寄る。昴は周囲に結界を張り直すと、厳しい目をして烏を見上げた。
「あの霊符って……」
「だよな。南朱湖で拾った霊符と同じ気配がする」
霊符に明るい結月が頷くことで、昴と秋之介の予想が正しいことを裏付ける。
「どうしたら……」
あかりが言いきらないうちに、頭上から烏が、前方からは妖狐が飛びかかってくる。昴の結界を力業で破って同時に襲い掛かってくるものの、瞬間顕現させた霊剣で「朱咲護神、急々如律令!」の声とともにあかりは霊剣を払った。式神たちは後退して、再度距離をとる。
「このままじゃ埒が明かねえな」
秋之介が苛立たしげに舌打ちする。
一方で結月は冷静に何かを考えているようだった。思案気にあかりをちらりと見てから結月が口を開く。
「霊符にはおれが応戦した方が、いいと思う。あかりのこと、心配だけど、きっと天翔様を救えるって、信じてるから」
あかりは結月が寄せてくれた信頼に応えるように力強く頷いた。
「うん、必ずお父様を救ってみせるよ」
「その作戦でいくか。じゃあ、俺はあかりとゆづの支援だな」
「僕はみんなの後方支援かな」
自然と各々の役割が決まっていく。皆が構えをとるのを見計らって、あかりは大きく息を吸い込んだ。
「行こう!」
「あかりっ‼」
突如、霊剣を持っていない方の腕を強く引かれた。反閇の儀式に集中しきっていたため、あかりは予想だにしない出来事にろくな対応ができなかった。とり落とした霊剣が地面にぶつかると同時に音もなく霧散していく。均衡を崩したあかりは結月と一緒に地面に倒れこんだが、結月がかばってくれたのであかりに痛みはなかった。
一秒にも満たない後に、あかりたちの頭上を一羽の烏が凄まじい速さで通りすぎていった。見上げた烏はくちばしに紙をくわえていた。
結月は地面から起き上がるとあかりに手を差し伸べてくれた。その手を取りながら、あかりも立ち上がる。
「あかり、なんともない?」
「うん、びっくりしたけど……。一体何が?」
結月が鋭い視線で烏のくわえる紙を睨んだ。
「あの符の気……」
結月の呟きに従って、あかりは烏のくわえる紙に気を集中させた。途端にぶわりと肌が粟立つ。この感覚は忘れられるはずもない。あかりは目を大きく見開いた。
「式神に降す符……⁉」
「そう。妖狐の呪詛も厄介だけど、あの符には絶対に当たっちゃいけない」
「……うん」
以前にあの符に当たったとき、酷い幻覚を見せられたことが思い出される。母や幼なじみたちの甘く毒々しい誘惑の声、仕草はそっくりなのに無機質な青い瞳をもつ結月の姿が蘇り、あかりの胸は不快感にざわついた。
「あかりちゃん、ゆづくん!」
昴の叫び声にあかりははっと我に返った。先ほどの烏の式神が旋回して、再びあかりに向かって襲いかかる。
「狙いはあかりか……⁉」
「心上護神、身上護神、急々如律令!」
あかりの側にいた結月がすかさず護符を発動させる。青い光を避けるように烏は空高くに舞い上がると、あかりたちの頭上を円を描くように飛んだ。
あかりと結月のもとに秋之介と昴が駆け寄る。昴は周囲に結界を張り直すと、厳しい目をして烏を見上げた。
「あの霊符って……」
「だよな。南朱湖で拾った霊符と同じ気配がする」
霊符に明るい結月が頷くことで、昴と秋之介の予想が正しいことを裏付ける。
「どうしたら……」
あかりが言いきらないうちに、頭上から烏が、前方からは妖狐が飛びかかってくる。昴の結界を力業で破って同時に襲い掛かってくるものの、瞬間顕現させた霊剣で「朱咲護神、急々如律令!」の声とともにあかりは霊剣を払った。式神たちは後退して、再度距離をとる。
「このままじゃ埒が明かねえな」
秋之介が苛立たしげに舌打ちする。
一方で結月は冷静に何かを考えているようだった。思案気にあかりをちらりと見てから結月が口を開く。
「霊符にはおれが応戦した方が、いいと思う。あかりのこと、心配だけど、きっと天翔様を救えるって、信じてるから」
あかりは結月が寄せてくれた信頼に応えるように力強く頷いた。
「うん、必ずお父様を救ってみせるよ」
「その作戦でいくか。じゃあ、俺はあかりとゆづの支援だな」
「僕はみんなの後方支援かな」
自然と各々の役割が決まっていく。皆が構えをとるのを見計らって、あかりは大きく息を吸い込んだ。
「行こう!」
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