【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一八話 凶星の瞬き

第一八話 一

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 土砂降りの雨だった。土の地面はぬかるみ、ところによっては浸水している。無数の雨粒が地面や水面を激しく叩く音だけが世界に満ちる。
それでも声を張り上げて、豪雨によってけぶった視界にあかりは人影を探していた。
「お母様、お父様、みんな! 誰かいないの⁉」
 あかりは雨に打たれながら、朱咲家の広大な中庭に一人で立っていた。
天から勢いよく降り落ちてくる雨粒が体を打ち、痛みを覚える。四肢の先端から体温が奪われていき、あかりは寒さに身を震わせた。最も身を震わせたのは寒さだけのせいでなく、苦手な水に対する恐怖心もあったからかもしれない。
それでもあかりは邸に上がらず、その場で叫び続けた。
「ねえ、みんな!」
 体力と気力が体温とともに雨に流れていく。
いよいよ喉が痛み出し、咳き込んだ。あまりの疲労感に声を出すこともままならなくなってきた。
「お母様、お父様……」
 あかりの呟きはいとも簡単に雨にかき消された。
 途方に暮れかけたとき、あかりは視界の端に一つの影を捉えた。はっとしてあかりがそちらに顔を向けると、中庭に面した廊下の片隅に金の毛色の狐が佇んでいた。
「お父様!」
 父の本来の姿である天狐の姿を見ることなど滅多にないが、それでもあかりにはその金色の狐が間違いなく父であることがわかった。
 天翔はじっとあかりを見つめた後、音もなく身を翻し廊下の奥へと消えてしまった。
「ま、待って!」
 あかりは咄嗟に天翔の後を追いかけた。廊下が濡れるのも構わずに、あかりは中庭から邸内に上がる。
邸には部屋がたくさんあるのに、人の気配はとんと感じられない。住み慣れた自邸だというのに気味が悪く思え、自然と早足になる。
廊下の角を曲がったところで、次の廊下の角を曲がる天翔の背が見えた。あかりはさらに歩調を速めて天翔の後に続いた。
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