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第一九話 水無月の狂乱
第一九話 三
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邸内では激戦が繰り広げられていた。
陰の国の術使いに退路を断たれた白古家の家臣たちは逃げることすら許されず、相克の火に囲まれて戦いを余儀なくされている。もっとも白古家の家臣は気骨のある者が多いので逃げるというのは選択肢に入っていないのかもしれないが、この不利な状況下ではそれも時間の問題のように思えた。
秋之介たちを探しに前に進みたい一方で、白古家の家臣たちを見過ごすこともできないあかりの足は僅かに遅くなった。昴が訝しげに振り向く。
「あかりちゃん?」
迷って立ち止まっている場合ではないことは頭ではわかっていたが、気持ちの方が追いつかない。あかりの表情から昴は察したらしい。二度目にあかりの名前を呼ぶ声は厳しさに満ちていた。
「あかりちゃん」
「……わかってるよ。でも……」
苦い気持ちで周囲を見渡す。白古家の家臣はもちろん皆、顔見知りだ。その彼らが傷つき、苦しみながら戦っているのに、見捨てるような真似はできない。いよいよあかりの足が止まりかけたとき、凛とした声が響き渡った。
「水神演舞、急々如律令」
青い光が泡のように弾けると、白糸のような柔らかい雨がさあっと降ってきた。あたりに燃え広がっていた火が静かに鎮められていく。白古家の家臣たちは勢いを取り戻して、陰の国の術使いを押していた。
「良かった。追いついた」
そこには微かに安堵の色を浮かべた結月がいた。
「結月……!」
「他のところでも、青柳家が火を消してる。白古家の人たちは、きっと大丈夫。秋たちは?」
「まだなんだ。急ごう」
昴の早口な返答に、結月は頷きを返して廊下を駆けだした。あかりも遅れないように彼らの後についていく。
青柳家のおかげで火の勢いは弱まっており、先ほどよりも先へ進みやすかった。ときおり陰の国の術使いが進路を遮ることもあったが、あかりたちは瞬時に倒すと邸の最奥に向かってひた駆けた。
陰の国の術使いに退路を断たれた白古家の家臣たちは逃げることすら許されず、相克の火に囲まれて戦いを余儀なくされている。もっとも白古家の家臣は気骨のある者が多いので逃げるというのは選択肢に入っていないのかもしれないが、この不利な状況下ではそれも時間の問題のように思えた。
秋之介たちを探しに前に進みたい一方で、白古家の家臣たちを見過ごすこともできないあかりの足は僅かに遅くなった。昴が訝しげに振り向く。
「あかりちゃん?」
迷って立ち止まっている場合ではないことは頭ではわかっていたが、気持ちの方が追いつかない。あかりの表情から昴は察したらしい。二度目にあかりの名前を呼ぶ声は厳しさに満ちていた。
「あかりちゃん」
「……わかってるよ。でも……」
苦い気持ちで周囲を見渡す。白古家の家臣はもちろん皆、顔見知りだ。その彼らが傷つき、苦しみながら戦っているのに、見捨てるような真似はできない。いよいよあかりの足が止まりかけたとき、凛とした声が響き渡った。
「水神演舞、急々如律令」
青い光が泡のように弾けると、白糸のような柔らかい雨がさあっと降ってきた。あたりに燃え広がっていた火が静かに鎮められていく。白古家の家臣たちは勢いを取り戻して、陰の国の術使いを押していた。
「良かった。追いついた」
そこには微かに安堵の色を浮かべた結月がいた。
「結月……!」
「他のところでも、青柳家が火を消してる。白古家の人たちは、きっと大丈夫。秋たちは?」
「まだなんだ。急ごう」
昴の早口な返答に、結月は頷きを返して廊下を駆けだした。あかりも遅れないように彼らの後についていく。
青柳家のおかげで火の勢いは弱まっており、先ほどよりも先へ進みやすかった。ときおり陰の国の術使いが進路を遮ることもあったが、あかりたちは瞬時に倒すと邸の最奥に向かってひた駆けた。
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