【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一九話 水無月の狂乱

第一九話 五

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 幼い頃、あかりは秋之介に憑依させて戦った方が効率的ではないかと訊いたことがある。しかし秋之介は苦い表情をして言った。確かに効率はいいが反面危険性が増すのだと。憑依は他人の魂を自身の制御下に置けているうちはいいが、自我を失ったときは自分の身を失うことになりかねないのだと。だからあまり頻繁に憑依を用いての戦闘に頼りたくないと秋之介は言っていた。
(まさか、自我を失いかけてるの……⁉)
 あかりの背に熱気による汗とは異なる、冷たい汗が伝う。あかりがさっと結月を仰ぎ見ると、彼は厳しい面持ちであかりに頷き返した。結月もあかりと同じ結論に至ったのだろう。
「ねえ、秋‼」
 あかりが必死に呼びとめても、秋之介は一顧だにせず、目の前の敵をひたすらに斬りつけていく。あかりの視界の隅で結月が首を振った。
「とにかく、敵を倒した方が早い。あかり、遠当法できる?」
「うん……!」
 結月があかりと秋之介の援護をする間に、あかりは素早く遠当法の咒言を唱えた。
「安足遠、即滅息、平離乎平離、即滅名、斬斬鬼命、斬鬼精、斬足火温、志緩式神、新雲、遠是蘇、斬斬平離、阿吽、絶命、即絶、雲、斬斬足、斬足反!」
 あかりが霊剣を振り切ると赤い光が振りまかれ、それに当てられた陰の国の術使いが気を失って倒れていった。
「秋!」
 あかりが振り返った先で秋之介は虚ろな瞳をして突っ立っていた。
 あかりがもう一度秋之介の名前を呼びかけようとしたとき、秋之介のさらに後ろで悲痛な叫び声があがった。
「菊助……っ!」
 その声に秋之介は正気を取り戻したようで、はっと我に返ると勢いよく声の方へ振り向いた。
「親父っ!」
 秋之介の異常な様子や目の前の戦いに意識が持っていかれていたため、あかりは菊助や梓、昴が何をしているかまで気が回っていなかった。だから、眼前の光景に言葉をなくした。
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