【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一九話 水無月の狂乱

第一九話 八

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「そうなったのは俺が……俺たちが……」
 秋之介はちらりとあかりを横目で見下ろした。剣呑な光を帯びた瞳にあかりの背がすっと冷える。
「あ、き……?」
 幼なじみに対して滅多に抱かない恐怖の感情に、あかりの声は怯えて震えていた。秋之介もあかりの様子に気づいたらしく、ばつが悪そうに目を逸らした。
「……悪ぃ、ちょっと放っておいてくれ。……多分、今話してもおまえたちを傷つけちまいそうだから」
「……うん」
 あかりは静かに頷くと、踵を返して結月と昴のもとへ戻ることにした。彼らはちょうど白古門の側で話し込んでいたが、あかりがとぼとぼとした足取りでやってくることに気がつくと揃って顔を上げた。
「あかりちゃん」
「あかり。……どうしたの? 元気、ない」
「……さっき、秋とちょっと話してたの」
 秋之介が飲みこんだ続くはずだった言葉と恨みがましそうな白の瞳があかりの胸に重くのしかかる。そのどちらもが秋之介の勝手な願いであり、八つ当たりじみていると本人も分かっているからこそ話を打ち切ったのだろうことは容易に察せられた。
 先ほどのあかりと秋之介のやりとりを、結月と昴に簡単に伝えると、彼らもまた沈痛な面持ちになった。
(私がもっと早くに火の気に気づいていれば、結月と昴がもっと早くに援護していたら、秋がもっと強ければ……。私たちがこんなにも弱くなければ……もしかしたら菊助おじ様だって亡くならなかったかもしれない)
 秋之介の言いたいことはきっとこういったことだろう。味方の内に誰が悪いというのはないが、きっぱり否定もできないことがもどかしかった。
 白古門からは窺うことのできない秋之介の後ろ姿を想って、あかりは彼のいる方向を悲しげな瞳で見つめるのだった。
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