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第一九話 水無月の狂乱
第一九話 七
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青柳家による鎮火や玄舞家によるいち早い援護のおかげで、白古家の関係者への被害はそこまで大きくならずに済んだ。とはいえ怪我人は多数おり、死者もいないわけではない。その中には菊助も含まれていた。また、大部分が燃焼した邸は炭化してぼろぼろに崩れていた。
夜明けとともに白む空の下で、昴を含む玄舞家の者は怪我人の治療に当たり、結月を含む青柳家の者もまた邸周辺を警戒していた。秋之介は生き残り無事だった家臣たちにまともな指示を送れないほどに悄然とし、ぼんやりと立ち尽くしながら見るも無残な邸の跡を目に映していた。
あかりはしばらく青柳家の者たちと行動を共にしていたが、どうしても秋之介のことが気になって秋之介から離れたところで彼の背中を不安げな瞳で見つめていた。秋之介はいい加減で細かいことには執着しない質に見られがちだが、本当は繊細な心の持ち主であることをあかりは知っている。
そのまま食い入るようにあかりが秋之介の背に視線を注いでいると、秋之介は振り向くことなく小さな声を発した。
「……何だよ」
周囲の喧騒に掻き消されてしまいそうなほどの囁き声を聞き逃すまいと、あかりは秋之介の隣に並び立った。
「今はひとりにしておいてほしいんだろうけど……でも、私心配なんだよ、秋」
余計なお世話だと言い返されることも想定していたあかりだったが、秋之介から返ってきたのは力ない「……ああ」の声だけだった。あかりが見上げた秋之介の横顔は俯きがちで、怒っているようでも悲しんでいるようでもあった。
しばらく二人の間に沈黙が流れたが、やがて秋之介がぽつりと呟きをこぼした。
「……俺が親父たちのところにたどり着いたのと親父が殺されるのは同時だった」
呟きは次第に呻き声に変わる。歯を食いしばり、喉の奥で唸るように秋之介は言った。
「親父はお袋を守って、陰の国の術使いに斬り殺された。……なんで、なんだよ……」
消え入りそうな声は悔しさ、怒り、憤り、悲しみなど複雑な色を帯びていた。
「御上様の卜占によれば、親父だって助かったかもしれないのに、そうはならなかった」
秋之介の拳は固く握られており、掌に爪が食い込んでいた。あかりは痛ましげにそれを眺めることしかできない。
夜明けとともに白む空の下で、昴を含む玄舞家の者は怪我人の治療に当たり、結月を含む青柳家の者もまた邸周辺を警戒していた。秋之介は生き残り無事だった家臣たちにまともな指示を送れないほどに悄然とし、ぼんやりと立ち尽くしながら見るも無残な邸の跡を目に映していた。
あかりはしばらく青柳家の者たちと行動を共にしていたが、どうしても秋之介のことが気になって秋之介から離れたところで彼の背中を不安げな瞳で見つめていた。秋之介はいい加減で細かいことには執着しない質に見られがちだが、本当は繊細な心の持ち主であることをあかりは知っている。
そのまま食い入るようにあかりが秋之介の背に視線を注いでいると、秋之介は振り向くことなく小さな声を発した。
「……何だよ」
周囲の喧騒に掻き消されてしまいそうなほどの囁き声を聞き逃すまいと、あかりは秋之介の隣に並び立った。
「今はひとりにしておいてほしいんだろうけど……でも、私心配なんだよ、秋」
余計なお世話だと言い返されることも想定していたあかりだったが、秋之介から返ってきたのは力ない「……ああ」の声だけだった。あかりが見上げた秋之介の横顔は俯きがちで、怒っているようでも悲しんでいるようでもあった。
しばらく二人の間に沈黙が流れたが、やがて秋之介がぽつりと呟きをこぼした。
「……俺が親父たちのところにたどり着いたのと親父が殺されるのは同時だった」
呟きは次第に呻き声に変わる。歯を食いしばり、喉の奥で唸るように秋之介は言った。
「親父はお袋を守って、陰の国の術使いに斬り殺された。……なんで、なんだよ……」
消え入りそうな声は悔しさ、怒り、憤り、悲しみなど複雑な色を帯びていた。
「御上様の卜占によれば、親父だって助かったかもしれないのに、そうはならなかった」
秋之介の拳は固く握られており、掌に爪が食い込んでいた。あかりは痛ましげにそれを眺めることしかできない。
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