【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一九話 水無月の狂乱

第一九話 一六

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「……私も、秋とおんなじだよ。お母様を突然に失って、お父様を救うことはできたけど守ることはできなくて……悲しくて、痛くて、悔しくて……」
 秋之介はあかりの独り言のような言葉には反応を示さなかったが、しっかりと聞いているだろうと思ったあかりは話を続ける。
「だけどね、いろんな人が私に寄り添ってくれたから、私は救われたんだと思うの。そのいろんな人の中には、秋もいるんだよ」
 あかりはちらりと秋之介の様子を横目でうかがった。俯く彼は僅かに身動ぎしていた。
「ねえ、秋。秋がそうしてくれたように、今度は私が秋に寄り添いたいよ。それで、少しは元気になってくれる? 私たちのところにまた帰ってきてくれる?」
 あかりの素直な思いが自然と言霊に変わる。柔らかな赤い光が秋之介を包み込むのをあかりが見届けるのと同時に秋之介がぽつりと呟いた。
「……本当は、わかってるんだ。昴やゆづの言うことが正しいってことも、俺のことを心配してくれてるってことも」
「……」
「でも、それだけじゃやっぱり駄目なんだよ……! こんな体たらくだから親父たちはああなっちまった。また同じようにあかりたちまで失うんじゃねえかって、怖いんだ……!」
「秋……」
 戦いに赴く以上絶対はない。けれども秋之介にどうしても伝えたい思いがあった。あかりは決意を固めるとともに小さく息を吸い込んだ。
「秋、約束しよう?」
「約、束……?」
 ようやく顔を上げた秋之介はきょとんと目を丸くしていて、それがなんだか可笑しくてあかりは微笑んで頷いた。
「そう、約束。私は秋之介の側からいなくならない。だから焦らないで一緒に強くなろうよ」
「な、んだよ、それ。保証なんてできねえだろ」
 秋之介は呆然とも困惑ともつかない表情をしていたが、言葉に棘はなかった。あかりは正直に首肯した。
「そうだね。私を信じてとしか言えない」
「……そんなのが、約束かよ」
「そうだよ。悪い?」
 あかりがぐっと秋之介の顔をのぞき見ると、秋之介は長いため息をついた。そしてにっといたずらっぽく歯を見せて笑った。
「いいぜ、乗った」
「秋……!」
「あかりのことは信じてるけど、俺もこれまで以上に力を尽くす。大切なおまえたちを守るために、一緒に強くなりたい」
「うん! 約束だよ!」
 満面の笑みを見せるあかりに、秋之介もつられたように笑みを深くする。
 雲間から顔を出した太陽が、あかりと秋之介を眩しく照らした。
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