【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二〇話 青の光

第二〇話 二

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 あかりの予想通り、夕方になる頃には強雨になっていた。雨粒が地面を穿つように降り注ぐ音の中に、遠く雷の音も聞こえる。
玄舞家の邸の中は夜のように暗く、灯りがなければ不便するほどだった。灯り油の節約のため、あかりは秋之介とともに昴の部屋に身を寄せていた。
しかし、集まった理由はきっとそれだけではない。
「結月……」
 この場にいない幼なじみの姿を思い浮かべる。あかりが不安な時、決まって側に寄り添い安心をくれる結月はこのときばかりはいない。
 不安の滲むあかりの声に秋之介が顔を上げる。
「不安か?」
「……うん。だって……」
 水無月はもうあと数日で終わろうとしている。そして外には激しい雨が打ちつけていて、ともすれば河川は水で溢れてしまうだろう。司の卜占はこの時のことを指しているのではないかと思えてならないのだ。
 秋之介もあかりの言わんとしていることを察しているのか「そうだよな……」と言葉少なに答え、それきり黙ってしまった。
(こんなとき、結月が側にいてくれたら……)
 彼のいない右隣が寒々しく感じられ、あかりは無意識に身震いした。
 すると向かいからすっと温かい緑茶の入った湯飲みが差し出された。
「寒いの?」
 お茶を淹れてくれたのは昴だった。あかりはお礼を言って湯飲みを受け取ると両手で包み込むようにして持った。いつの間にか冷え切っていた指先にじんわりと熱が広がっていく。その温かさに現実が伴ってきて、あかりはようやくほっと息を吐いた。
「ちょっと考えすぎて不安に思ってただけみたい。もう大丈……」
 言いかけたあかりだったが、先ほどとは異なる明らかな悪寒に続く言葉を失った。それは秋之介も昴も同様で、秋之介はきっと東の方角を睨みつけ、昴は「結界術……⁉」と驚きながら呟きを漏らしていた。
 三人は誘われるように揃って縁側を降り、中庭から東の空を見上げた。
暮れかけの夕空は暗く、天にはどんよりとした黒い雨雲が垂れこめており、そこからけぶるような雨が白い線を描いている。
その中にはっとするほど美しい、けれども見慣れた青の輝きを見つける。
「結月⁉」
 青の輝きの正体は、結月の本性である妖姿の青い龍だった。
 妖も半妖も、人間姿に化けることが慣習の陽の国において、彼らが本性の姿に戻ることは非常に稀なことだ。それこそ化ける力が不足しているときか、化ける余裕がないほどに霊力を必要としているときくらいのもので、いずれにせよ非常時には違いない。
 東の上空に昇る青い龍に弱った様子は見られないので、今回は後者だろう。
 一刻を争う事態に、あかりたちはすぐさま動き出した。
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