【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
284 / 390
第二〇話 青の光

第二〇話 三

しおりを挟む
 昴が玄舞家の家臣と仮の住まいを提供している白古家の家臣に指示を出している間に、あかりは白い虎姿の秋之介の背に乗って青柳家の邸を目指して駆けていた。
北玄山を抜けると東青川の上流に出る。川はまだ氾濫していなかったが、一刻の猶予もなさそうだった。
「結月、聞こえる⁉」
 激しい濁流と雨の音にかき消されないようにあかりは叫ぶ。あかりの言霊は赤い光に変わり、天へと昇っていった。そして青い龍の側でぱっと弾け散る。同時に龍ははっと地上に目を遣り、駆け続けるあかりと秋之介の姿を捉えた。龍は地上に向かって勢いよく下降すると途中で人間姿に変じ、危なげなく着地した。そしてあかりとこちらも人間姿に変化した秋之介と合流した。
「結月、大丈夫だった⁉」
「あかり、秋も……。来てくれて、良かった」
「一体何があったんだ? ゆづが本性に戻るなんて」
 結月に余裕はないらしく、張り詰めた表情で口早に現状を説明した。
「邸の周辺に結界術が張られてる。式神を生け贄にしてるせいで結界の質が逆転していて、昴が扱うような守りの結界じゃなくて、破壊の結界になってるみたい。かなり強力で危険な符を使ってるようだけど、五枚の符のうち二枚はおれが無効化した」
 そこまで聞いてあかりは、異変を察知したときに昴が『結界術……⁉』と呟いたこと、結月が本性に戻っていたことの理由に納得がいった。
 結月の説明は続く。
「おれは霊符の扱いに慣れてるし、昴も結界術には明るいから多分一人でもなんとかなると思う。だけどあかりと秋は一緒に行動した方がいい。残りの三つのうちの一つの符を、これで無効化してきてほしい」
 そう言って結月が袂から取り出したのは青い霊符だった。雨に打たれているにも関わらず、紙でできた霊符は一切濡れていない。あかりが慎重に受け取ると、霊符から神威に近い神聖で強力な気と馴染みある結月の気が感じられた。
「場所は上から確認した。二人は兌の方角へ行って。昴には後から坎の符をお願いする」
「結月は?」
 結月は一層厳しい顔つきになると青柳家の邸のある方を睨み据えた。
「今回布陣された符の中央。……一番強力で厄介なところに行く」
「向かわせるだけ危険だからって家臣はそっちに行かせてないんだろ? 一人で大丈夫なのか?」
 結月は邸の方から視線を移すと秋之介を横目に見た。結月はいつも以上に真剣な瞳に覚悟を決めたような顔つきをしていて、あかりは傍らで密かに息をのんでいた。
「できるできないの問題じゃない。おれが、やらないといけない」
 結月の決意は固く、現状他に打つ手が浮かばないことから秋之介も同意するしかなかったのだろう。吐き出しそうになったため息を飲みこんで、秋之介は頷いた。
「……わかったよ。俺たちも無効化出来次第、結月のところに向かう」
「うん。気をつけて」
「結月もね」
 結月は頷くと瞬時に龍の姿に戻って、雨に逆らうように空へ昇っていった。
「私たちも急ごう」
「ああ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...