【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二〇話 青の光

第二〇話 九

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全力の反閇だったにも関わらず結月は苦戦を強いられているようだった。何か力になりたいと願いはするもののあかりには霊力があまり残っておらず、立っているのもやっとの状態で、大した援護はできそうにない。
(どうするの、結月……)
そのとき、目を焼くような青の光が上空で閃いた。
はっとしてあかりは光源の方へ目を向ける。そしてじわりと大きく目を見開いた。
「ゆ、づき……っ」
 大きな青龍が雨とともに降り落ちる。
 下には東の地の町や青柳家の邸がある。このままいけば結月は怪我を負うだろうし、町にも被害が出かねない。
 あかりの隣にいた秋之介が焦りを滲ませた声で呟いた。
「ゆづのやつ、変化できないほど力を使ったのか……!」
 代わりに先ほどまで猛威を振るっていた邪気はきれいに清められていた。
 しかし今はそのことに安堵している場合ではない。
「このまま、行けば」
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
 あかりの言葉を攫ったのは昴の九字を切る声だった。
 別の場所で新しい結界を張り直していた昴があかりと秋之介のもとに駆け戻りながら黒の結界を展開させ、落下する結月をその小さな結界に閉じ込めたのだ。
「昴! 結月は⁉」
 あかりと秋之介もまた昴に駆け寄りながら、昴の手中にある小さな結界の中を覗き込んだ。中には意識を失った青い龍姿のままの結月がいた。
「霊力の使いすぎだろうね。しばらく休めばもとに戻るよ」
「そ、っか……」
 命に別状はないとわかって安心はしたものの、素直に喜ぶことはできなかった。
(私にもっと力があれば、何か違ったかな。しばらく休めばって昴は言うけど、それってどれくらいなの)
 悔しさと情けなさがあかりの胸を支配する。
(私が意識を失っていたとき、結月は……)
 こんな風に思い悩んだのだろうか。
 あかりはずきずきと痛む胸に手を当て、きつく拳を握った。
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