294 / 388
第二一話 祈りの言霊
第二一話 二
しおりを挟む
残されたあかりだったが、ひとつ気になっていたことがあるのを思い出し、結月に尋ねることにした。
「そういえば、さっき結月は私に喚ばれたって言ってたよね。あれってどういうことだったの?」
結月はぱちりと瞬きをすると、少し考える素振りを見せてからゆっくりと話し出した。
「ずっと、夢を見てた」
「夢?」
「そう。暗闇の中をひたすら歩き続ける夢」
結月が言うことには、暗闇の世界には物がなく、音もなかったという。それでも不思議と歩いているという感覚だけがあって、結月は出口を求めて真っ直ぐ歩いていたらしい。
「そしたら、あかりの声が聞こえて」
最初は水中で聞くような不明瞭な音として聞こえたらしいのだが、次第に音は声となり、結月に言葉を届けた。
「あかりがごめんねって泣いてるってわかったから、おれ、行かなくちゃって思って」
あかりの声を頼りに歩みを進めていくうちに、闇の中に優しい赤の光が一条射した。結月がその光に手を伸ばすと同時に、意識が浮上するのを感じたという。
「あかりの声は特別だから」
「私が言霊使いだからってこと?」
「それだけじゃ、ない。おれにとっても、あかりの声は特別ってこと。おれのせいで泣いてるならなおのこと、放っておけない」
幼い顔に浮かぶのはそれに見合わないほどの真剣な表情だった。
「ごめんね、あかり」
「え?」
あかりが瞬きした後には、真剣だった結月の顔が曇っていた。
あかりには結月に謝られる心当たりも、結月がそんな顔をする理由も分からない。
あかりが思わず聞き返すと結月はしゅんと肩を落として、ぽつりぽつりと語り出した。
「さっきも少し話した、けど……。あのときは選択肢がなかったとはいえ、おれの下した判断が、あかりを泣かせることになった」
『あのとき』とは言わずもがな先日の戦いのことだ。結月は霊力を限界寸前まで使うことでしかあの状況を打破できなかったことに、他に方法がなかったとはいえ後悔しているようだった。
「あんなことしたらあかりが不安になるってわかってたのに。……おれが、頼りないから、守るためにはああするしかなくて。本当は、あかりを泣かせたくなんて、なかったのに」
そう言う結月の方が泣きそうな顔をしていた。見た目には小さな男の子が目を潤ませている光景に、あかりはいてもたってもいられなくてふわりと結月を抱きしめた。
「あ、あかり……?」
あかりの肩口で結月が戸惑った声をあげる。それでもあかりは身を離さなかった。
「結月はやっぱり優しいね。私ならもう大丈夫だよ。だからそんな思い詰めた顔しないで」
「でも……」
「だって、結月は私の声を聞いて、こうしてちゃんと戻ってきてくれた。それだけで十分だよ」
「……うん。ありがとう、あかり」
『ごめんね』が『ありがとう』に変わったことにあかりはほっと胸を撫でおろすと、結月を解放した。正面から捉えた結月の顔は先ほどよりも穏やかだった。
「そういえば、さっき結月は私に喚ばれたって言ってたよね。あれってどういうことだったの?」
結月はぱちりと瞬きをすると、少し考える素振りを見せてからゆっくりと話し出した。
「ずっと、夢を見てた」
「夢?」
「そう。暗闇の中をひたすら歩き続ける夢」
結月が言うことには、暗闇の世界には物がなく、音もなかったという。それでも不思議と歩いているという感覚だけがあって、結月は出口を求めて真っ直ぐ歩いていたらしい。
「そしたら、あかりの声が聞こえて」
最初は水中で聞くような不明瞭な音として聞こえたらしいのだが、次第に音は声となり、結月に言葉を届けた。
「あかりがごめんねって泣いてるってわかったから、おれ、行かなくちゃって思って」
あかりの声を頼りに歩みを進めていくうちに、闇の中に優しい赤の光が一条射した。結月がその光に手を伸ばすと同時に、意識が浮上するのを感じたという。
「あかりの声は特別だから」
「私が言霊使いだからってこと?」
「それだけじゃ、ない。おれにとっても、あかりの声は特別ってこと。おれのせいで泣いてるならなおのこと、放っておけない」
幼い顔に浮かぶのはそれに見合わないほどの真剣な表情だった。
「ごめんね、あかり」
「え?」
あかりが瞬きした後には、真剣だった結月の顔が曇っていた。
あかりには結月に謝られる心当たりも、結月がそんな顔をする理由も分からない。
あかりが思わず聞き返すと結月はしゅんと肩を落として、ぽつりぽつりと語り出した。
「さっきも少し話した、けど……。あのときは選択肢がなかったとはいえ、おれの下した判断が、あかりを泣かせることになった」
『あのとき』とは言わずもがな先日の戦いのことだ。結月は霊力を限界寸前まで使うことでしかあの状況を打破できなかったことに、他に方法がなかったとはいえ後悔しているようだった。
「あんなことしたらあかりが不安になるってわかってたのに。……おれが、頼りないから、守るためにはああするしかなくて。本当は、あかりを泣かせたくなんて、なかったのに」
そう言う結月の方が泣きそうな顔をしていた。見た目には小さな男の子が目を潤ませている光景に、あかりはいてもたってもいられなくてふわりと結月を抱きしめた。
「あ、あかり……?」
あかりの肩口で結月が戸惑った声をあげる。それでもあかりは身を離さなかった。
「結月はやっぱり優しいね。私ならもう大丈夫だよ。だからそんな思い詰めた顔しないで」
「でも……」
「だって、結月は私の声を聞いて、こうしてちゃんと戻ってきてくれた。それだけで十分だよ」
「……うん。ありがとう、あかり」
『ごめんね』が『ありがとう』に変わったことにあかりはほっと胸を撫でおろすと、結月を解放した。正面から捉えた結月の顔は先ほどよりも穏やかだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる