【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二二話 重ねる約束

第二二話 二

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  結月はやんわりと千夜との会話を終わらせると自ら気配の方へ歩み寄った。廊下の角をのぞきこみながら「あかり?」と声をかける。
  そこには結月の予想通りあかりがいた。あかりは目を丸くした後、強張った笑みを見せた。
「あ、気づいてた……?」
  結月は迷いなく頷いた。
「おれが、あかりの気配を間違えるわけ、ない」
「そ、そっか」
  どこかよそよそしいあかりの態度にひっかかりを覚えながらも結月は「何か用、あるんだよね?」と尋ねた。あかりは誤魔化すように結月の話に乗る。
「そ、そう! 昴の代わりにおつかいを頼まれて来たの!」
「もしかして、清めの水?」
「うん。今日くらいに加持祈祷が終わるだろうから持ってきてほしいって言われて」
「ちょうど良かった。今朝できたばっかりのものがあるから、それ、持っていこう」
  結月の言い回しにあかりは慌てて遠慮する。
「私だけで大丈夫だよ? 結月、ここのところ疲れてるでしょ?」
  しかし結月はなんてことないように緩やかに首を振った。
「大丈夫。ついでに昴に届けたいものもあるし」
「届けたいもの?」
「うん。できればお神酒もって言われてたから、それも持っていこうと思う。あかり一人だと重くて大変だろうから、二人で行こう」
 結月の言う通り、腕で抱えて運ぶ瓶が二つもあるとなると一人で運ぶのは大変だろう。かといって二往復するのも面倒だ。あかりは結局、結月の厚意に甘えることにした。
「うん。じゃあ一緒に行こう」
「そうしよう。今から準備する」
 結月は微かに嬉しそうにして廊下を進み始める。あかりもその後についていった。
 廊下の途中で、半歩後ろを歩くあかりを結月は訝しげにちらりと目だけで振り返った。
「あかり、どうしたの?」
「え?」
 なぜ問われたのか分からずに、あかりは小さく首を傾げる。結月はゆっくりと足を止めて、あかりに向き直った。
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