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第二二話 重ねる約束
第二二話 七
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それから四半刻後、昴が帰宅した。
「ただい、ま……?」
客間に顔を出した昴は、瞬時に状況を察せずに間抜けな声で挨拶をした。
それもそのはず、客間ではあかりが結月にくっつき、結月は僅かに頬を染めながら秋之介と会話をしていたからだ。
「どういう状況なのかな、これは?」
「よう、おかえり、昴」
「お邪魔してます」
「あー、昴だー。おかえりなさーい」
目をぱちくりさせる昴に秋之介が事のあらましを伝えると、昴はようやく納得してくれた。
「確かに風邪じゃなくて、酔ってるだけだね」
念のためにと昴はあかりを診たが、心配することはないと苦笑を浮かべる。
「酔いなら時間が経てば醒めるだろうけど、どうする? 一応、軽い酔い醒ましはできるよ」
「んーん、大丈夫だよー」
昴に答えるあかりはいかにも眠そうで、目をしぱしぱさせている。この分ではすぐに眠ってしまうだろうからと、昴は術を使う必要はないと判断したらしく「じゃあいっか」と卓の前に座り直した。秋之介が淹れてくれたお茶を口にして、昴はふふっと笑った。
「それにしても、ゆづくんは役得だね」
「昴まで、そういうこと言う……」
結月は気恥ずかしいのか呆れているのか、昴をじとりとした目で見返した。しかし昴はどこ吹く風で、くすくす笑いながら続ける。
「だって僕たちのお姫様にこんなにも好かれてるんだもの。羨ましいねぇ。ね、秋くん」
「そうだよなぁ。俺なんて、馬鹿って言われて肩をはたかれてばっかなのにな」
「それは、秋が悪い」
「そうだよー? 秋は余計なことばっかり言うから」
まぶたを重そうにしてはいたが、あかりの受け答えは存外はっきりしている。口調こそふわふわとしているが、その一言一言には力が宿っていた。
「でもね、秋とのそういうやりとりは嫌いじゃないんだよ? だって秋のことも好きだもん。もちろん昴のことも好きだよ」
普段のあかりの態度からわかりきったことではあったが、それをここまではっきりと言葉にすることは珍しい。昴は口をつぐみ、秋之介は茶化すことなくあかりの言葉に耳を傾けていた。
「ただい、ま……?」
客間に顔を出した昴は、瞬時に状況を察せずに間抜けな声で挨拶をした。
それもそのはず、客間ではあかりが結月にくっつき、結月は僅かに頬を染めながら秋之介と会話をしていたからだ。
「どういう状況なのかな、これは?」
「よう、おかえり、昴」
「お邪魔してます」
「あー、昴だー。おかえりなさーい」
目をぱちくりさせる昴に秋之介が事のあらましを伝えると、昴はようやく納得してくれた。
「確かに風邪じゃなくて、酔ってるだけだね」
念のためにと昴はあかりを診たが、心配することはないと苦笑を浮かべる。
「酔いなら時間が経てば醒めるだろうけど、どうする? 一応、軽い酔い醒ましはできるよ」
「んーん、大丈夫だよー」
昴に答えるあかりはいかにも眠そうで、目をしぱしぱさせている。この分ではすぐに眠ってしまうだろうからと、昴は術を使う必要はないと判断したらしく「じゃあいっか」と卓の前に座り直した。秋之介が淹れてくれたお茶を口にして、昴はふふっと笑った。
「それにしても、ゆづくんは役得だね」
「昴まで、そういうこと言う……」
結月は気恥ずかしいのか呆れているのか、昴をじとりとした目で見返した。しかし昴はどこ吹く風で、くすくす笑いながら続ける。
「だって僕たちのお姫様にこんなにも好かれてるんだもの。羨ましいねぇ。ね、秋くん」
「そうだよなぁ。俺なんて、馬鹿って言われて肩をはたかれてばっかなのにな」
「それは、秋が悪い」
「そうだよー? 秋は余計なことばっかり言うから」
まぶたを重そうにしてはいたが、あかりの受け答えは存外はっきりしている。口調こそふわふわとしているが、その一言一言には力が宿っていた。
「でもね、秋とのそういうやりとりは嫌いじゃないんだよ? だって秋のことも好きだもん。もちろん昴のことも好きだよ」
普段のあかりの態度からわかりきったことではあったが、それをここまではっきりと言葉にすることは珍しい。昴は口をつぐみ、秋之介は茶化すことなくあかりの言葉に耳を傾けていた。
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