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第二三話 昇る朝陽と舞う朱咲
第二三話 五
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「駄目です! 来てはいけません‼」
司の悲鳴じみた制止の声と真っ黒な式神が突っ込んでくるのは同時だった。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
反射的に昴が結界を張ることで事なきを得たが、あかりは霊剣を構えたまま混乱していた。
(御上様を助けたいのに、来てはいけないとご本人はおっしゃっている……。一体どういうこと……?)
するとあかりの沈思を破るかのように、司の叫び声が響き渡った。
「これは罠です! 余を人質に、あかりさんをおびき出すための……っ、ぐっ!」
司の苦しげな呻き声を聞いてじっとしていられるあかりではなかった。司の制止を振り切り、あかりは謁見の間に飛び込んだ。
「御上様……!」
「くくっ。本当に来るとはな……」
畳敷きの床の上にみぞおちを押さえてうずくまる司の前に悠然と佇むのは、黒ずくめの男だった。上衣も袴も真っ黒で、羽織る黒の外套についた帽子を目深にかぶっているため顔はわからないが、声からして四、五〇歳代だろうか。
男は笑っているはずなのに、漂う空気は重苦しく、あかりの背に嫌な汗が伝った。
(この気配、忘れるはずもないわ。……現帝……!)
この戦いにおける全ての元凶。彼の支配欲が陰の国の帝位争いを引き起こし、恐怖心が陽の国までもを巻き込む戦いを生んだ。その結果、あかりは大切なものをいくつも失った。
あかりの怒りと悲しみに呼応するように、手にした霊剣がまとう炎が勢いを増す。
何が可笑しいのか、現帝はくつくつと喉を鳴らして笑った。
「あれにそっくりだな、馬鹿なところも狐火も。陰の国の天狐と陽の国の四家の女が結ばれるなど滑稽だと思っていたが……ああ、可笑しい」
あかりはすぐに両親を馬鹿にされていることに気がついた。目の前が真っ赤に染まるような錯覚を起こすが、あかりの手に添えられたややひんやりとした温度に我を取り戻す。
「あかり……、今は、抑えて……」
そういう結月も悔しさを堪えている様子で、それを目にしたあかりの頭はいくらか冷えた。しかし、すぐにぞわりと肌が粟立つ感覚に襲われる。現帝があかりを憎悪のこもった眼差しで睨みつけていたのだ。
「ああ、忌まわしい。お前のような存在など消えてなくなってしまえばいいのに」
「何を……」
「人間と妖、両の血をひく半妖の子など、不吉なことこの上ない。なぜ高等な我ら人間が下劣な妖どもと結ばれる? 恐ろしいではないか!」
陽の国と陰の国が相容れない原因のひとつに、この価値観の相違があった。陽の国は人間も妖も対等で、半妖など珍しくもない。一方で陰の国では妖は人間よりも劣った存在とされ、式神に見るようにまるで物のように考えられている節がある。
現帝はそんな陽の国の在り方に恐怖を抱いていた。いつか陰の国が陽の国に侵される日が来るのではないかと。だから権力を笠に着て、陽の国に侵攻するようになったのだ。
「お前がいる限り、我は恐怖に怯え続けなければならない。妖をたぶらかして勝手な大義名分を掲げて我の国に進行してくるのではないかと。陽の国で最強の力をもつ半妖のお前がいる限り、ずっと……。……だから」
司の悲鳴じみた制止の声と真っ黒な式神が突っ込んでくるのは同時だった。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
反射的に昴が結界を張ることで事なきを得たが、あかりは霊剣を構えたまま混乱していた。
(御上様を助けたいのに、来てはいけないとご本人はおっしゃっている……。一体どういうこと……?)
するとあかりの沈思を破るかのように、司の叫び声が響き渡った。
「これは罠です! 余を人質に、あかりさんをおびき出すための……っ、ぐっ!」
司の苦しげな呻き声を聞いてじっとしていられるあかりではなかった。司の制止を振り切り、あかりは謁見の間に飛び込んだ。
「御上様……!」
「くくっ。本当に来るとはな……」
畳敷きの床の上にみぞおちを押さえてうずくまる司の前に悠然と佇むのは、黒ずくめの男だった。上衣も袴も真っ黒で、羽織る黒の外套についた帽子を目深にかぶっているため顔はわからないが、声からして四、五〇歳代だろうか。
男は笑っているはずなのに、漂う空気は重苦しく、あかりの背に嫌な汗が伝った。
(この気配、忘れるはずもないわ。……現帝……!)
この戦いにおける全ての元凶。彼の支配欲が陰の国の帝位争いを引き起こし、恐怖心が陽の国までもを巻き込む戦いを生んだ。その結果、あかりは大切なものをいくつも失った。
あかりの怒りと悲しみに呼応するように、手にした霊剣がまとう炎が勢いを増す。
何が可笑しいのか、現帝はくつくつと喉を鳴らして笑った。
「あれにそっくりだな、馬鹿なところも狐火も。陰の国の天狐と陽の国の四家の女が結ばれるなど滑稽だと思っていたが……ああ、可笑しい」
あかりはすぐに両親を馬鹿にされていることに気がついた。目の前が真っ赤に染まるような錯覚を起こすが、あかりの手に添えられたややひんやりとした温度に我を取り戻す。
「あかり……、今は、抑えて……」
そういう結月も悔しさを堪えている様子で、それを目にしたあかりの頭はいくらか冷えた。しかし、すぐにぞわりと肌が粟立つ感覚に襲われる。現帝があかりを憎悪のこもった眼差しで睨みつけていたのだ。
「ああ、忌まわしい。お前のような存在など消えてなくなってしまえばいいのに」
「何を……」
「人間と妖、両の血をひく半妖の子など、不吉なことこの上ない。なぜ高等な我ら人間が下劣な妖どもと結ばれる? 恐ろしいではないか!」
陽の国と陰の国が相容れない原因のひとつに、この価値観の相違があった。陽の国は人間も妖も対等で、半妖など珍しくもない。一方で陰の国では妖は人間よりも劣った存在とされ、式神に見るようにまるで物のように考えられている節がある。
現帝はそんな陽の国の在り方に恐怖を抱いていた。いつか陰の国が陽の国に侵される日が来るのではないかと。だから権力を笠に着て、陽の国に侵攻するようになったのだ。
「お前がいる限り、我は恐怖に怯え続けなければならない。妖をたぶらかして勝手な大義名分を掲げて我の国に進行してくるのではないかと。陽の国で最強の力をもつ半妖のお前がいる限り、ずっと……。……だから」
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