【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二三話 昇る朝陽と舞う朱咲

第二三話 一五

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『あかり』
 涼やかで可憐な少女の声が落とされる。あかりははっと我に返った。
(朱咲様……)
『大丈夫じゃ。そなたの声は、祈りは、ちゃんと妾に届いたぞ。力が、足りないのだろう? ならば妾の神の力をそなたに分け与えよう。ただし……』
 あかりは胸の内に棲む朱咲と交感しながら、口と手足を動かし続けた。
「乾尊燿霊、坤順内営、二儀交泰、六合利貞、配天享地、永寧粛清、応感玄黄、上衣下裳、震離艮巽、虎歩龍翔、今日行算、玉女侍傍、追吾者死、捕吾者亡、牽牛織女、化成江河、急急如律令」
『……それでもなお、そなたは妾の手をとれるか?』
 ほんの一瞬、脳裏に過ったのは幼なじみ三人の顔だったが、あかりはすぐに(はい)ときっぱり答えた。
 迷ってはいけない。躊躇ってもいけない。この選択は正しいものではないかもしれないが、ここで朱咲の手をとらなければ望む未来へは進めない。たとえ一か八かの賭けになったとしても。
 あかりの答えをきいた朱咲はどこか哀しげな微笑みの吐息をこぼした。
『そうか。そなたの決意は固いのだな。ならば妾もそれに応えるまでじゃ』
(朱咲様、ありがとうございます)
 霊剣を持つ手に温かな体温がふっと触れた気がした。
 直後、霊剣のまとう狐火がごうっと音を立てて燃え盛り、目を焼くような赤の光が閃いた。
「南上玉女、速来護我、無令邪鬼侵我。敵人莫見我。見者以為束柴。独開我門而閉他人門」
 邪気がみるみるうちに清められていく。
 邪気を力に換えて戦っていた現帝がいよいよ苦しそうにし始める。それに伴って式神や呪符の動きも鈍くなっていくのが気配で知れた。
 すると白、黒、青の眩い光が三方で弾けた。同時に現帝たちの動きがぴたりと封じられる。
(今よ!)
 疲れも痛みも感じさせないほどしっかりとした声であかりは歌を紡ぐ。
「天神の母、玉女。南地の母、朱咲。我を護り、我を保けよ。我に侍えて行き、某郷里に至れ。杳杳冥冥、我を見、声を聞く者はなく、その情を覩る鬼神なし。我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ」
(この一声で戦いを終わらせる!)
 空しいだけの哀しみの連鎖を止める。そしてこれからの未来に幸せと笑顔が満ち溢れるように心から祈る。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」
 九字を切り、あかりは霊剣を振りぬいた。この世の全ての邪気が祓われるように、明るい未来が切り拓かれるように。
「急々如律令‼」
 闇夜を切り裂いて照らすような強く明るい赤の光は、まるで昇りたての朝の太陽のようだった。
その光の向こうで少女は舞う。
瑞鳥と云われる鳳凰である朱咲が出現するとき、天下泰平がもたらされるという。
優雅に、雄大に舞う少女の姿はまさしく澄んだ朝の空に舞い飛ぶ鳳凰を想起させるもので。
それは待ち望んでいたこの世の平和の始まりだった。
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