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第二四話 失われたもの
第二四話 一
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「急々如律令‼」
赤の光の奔流が一帯に満ちていた邪気を清め、祓っていく。
明度の低かった世界が元の色彩を取り戻し、ひと月近く雨を降らせていた雨雲が流れ、雲間から光の梯子が降りる。
「反閇……、成功、したのね……」
乱れた呼吸の合間に呟きながら、あかりは窓外から現帝のいた方へと視線を移した。
現帝の四肢の先からは光が舞い、肉体が消えかけていた。邪気に満ちていた魂までもが浄化され、初めてはっきりと目にしたその顔は無垢という表現がぴったりくるほどに穏やかなものだった。
「我は……誰かに止めてほしかったのだろうか。全てを失くそうとしている今、こんなにも心安らかでいられるのだから……」
「……」
「いつも恐怖に駆り立てられていた。……もう疲れていたのだ。……ようやく、終われる」
現帝の姿はさらさらとまるで砂のように流れる風にのって消えていく。そうして「有難う」という一言を最後に、彼がいたことを示す物は式神も呪符も含めて何一つなくなった。
「戦いが……終わった……」
緊張の糸がぷつりと途切れ、安堵から全身の力が抜け落ちかけるが、どさりと重い音がしてあかりはふっと音のした方を見た。そして目を大きく見開く。
「秋……!」
距離はあるが秋之介が傷を負っているのがあかりにも視認できた。それほどまでに白一色の彼にできた赤い染みは目立つものだった。
「秋くん!」
ふらりとよろけながらも真っ先に駆け寄ったのは昴で、即座に秋之介の傷の具合を診る。
「今になって、すっげぇ痛ぇ……」
「こんなに深い傷を負って戦ったんだ。出血も多いし、意識があるのが不思議なくらいだよ。もう力が残ってないから最低限の応急処置しかできないけど……」
昴が「玄舞護神、急々如律令」と囁くと淡い黒の光が滲んだ。光が収束すると秋之介の傷は残ったままだったが、出血は止まったようだった。
この場にいる四人ともが満身創痍の状態だったが、誰一人として欠けることなくこうして生きている。
過酷な運命の中、四人ともが生き抜くことができた。
戦いがない平和の中、笑顔溢れる未来を生きようとしている。
(本当に、奇跡のよう)
あかりはその幸運を噛みしめながら、目の前の光景を愛おしげに見つめた。
昴と結月が、秋之介の肩を支えながら立ち上がる。そして結月は昴に秋之介を預けると、左手を差し出してあかりを呼んだ。
「あかり、帰ろう」
もう辛く哀しい戦いの日々はない。帰ったらよく休んで、それからは穏やかな時間があかりたちを待っているはずだ。
「うん」
あかりはそう信じて、結月の手をとるために右手を伸ばした。
赤の光の奔流が一帯に満ちていた邪気を清め、祓っていく。
明度の低かった世界が元の色彩を取り戻し、ひと月近く雨を降らせていた雨雲が流れ、雲間から光の梯子が降りる。
「反閇……、成功、したのね……」
乱れた呼吸の合間に呟きながら、あかりは窓外から現帝のいた方へと視線を移した。
現帝の四肢の先からは光が舞い、肉体が消えかけていた。邪気に満ちていた魂までもが浄化され、初めてはっきりと目にしたその顔は無垢という表現がぴったりくるほどに穏やかなものだった。
「我は……誰かに止めてほしかったのだろうか。全てを失くそうとしている今、こんなにも心安らかでいられるのだから……」
「……」
「いつも恐怖に駆り立てられていた。……もう疲れていたのだ。……ようやく、終われる」
現帝の姿はさらさらとまるで砂のように流れる風にのって消えていく。そうして「有難う」という一言を最後に、彼がいたことを示す物は式神も呪符も含めて何一つなくなった。
「戦いが……終わった……」
緊張の糸がぷつりと途切れ、安堵から全身の力が抜け落ちかけるが、どさりと重い音がしてあかりはふっと音のした方を見た。そして目を大きく見開く。
「秋……!」
距離はあるが秋之介が傷を負っているのがあかりにも視認できた。それほどまでに白一色の彼にできた赤い染みは目立つものだった。
「秋くん!」
ふらりとよろけながらも真っ先に駆け寄ったのは昴で、即座に秋之介の傷の具合を診る。
「今になって、すっげぇ痛ぇ……」
「こんなに深い傷を負って戦ったんだ。出血も多いし、意識があるのが不思議なくらいだよ。もう力が残ってないから最低限の応急処置しかできないけど……」
昴が「玄舞護神、急々如律令」と囁くと淡い黒の光が滲んだ。光が収束すると秋之介の傷は残ったままだったが、出血は止まったようだった。
この場にいる四人ともが満身創痍の状態だったが、誰一人として欠けることなくこうして生きている。
過酷な運命の中、四人ともが生き抜くことができた。
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(本当に、奇跡のよう)
あかりはその幸運を噛みしめながら、目の前の光景を愛おしげに見つめた。
昴と結月が、秋之介の肩を支えながら立ち上がる。そして結月は昴に秋之介を預けると、左手を差し出してあかりを呼んだ。
「あかり、帰ろう」
もう辛く哀しい戦いの日々はない。帰ったらよく休んで、それからは穏やかな時間があかりたちを待っているはずだ。
「うん」
あかりはそう信じて、結月の手をとるために右手を伸ばした。
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