カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第一話 世界の色が変わるとき

第一話 一

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(まぶしい)
 瞼の裏に白い光を感じて、慈乃しのは目を開けた。
 最初に目に入ったのは白い天井。視線のみ横に向ければ白いカーテンに囲まれている。体には白い布団が掛かっていた。
 上半身を起こす。そこで初めて、慈乃は見慣れない、袖口の広い麻色のワンピースを着ていることに気が付いた。
(……ここは?)
 遠くからガチャガチャと慌ただしい物音やにぎやかな笑い声が聞こえてくる。部屋に染み付いた、甘苦い独特の香りが鼻をかすめた。

(そういえば、私あれからどうしたんだっけ……?)
 はたと我にかえって、眠る前のことを思い返す。

 花畑へと赴き、昔を思い出し、柄にもなく感情的になった。
 懐かしい声を聴いて、眠くなって……。
(その先の記憶が、ない)

 アパートに帰った記憶はないが、夢の中という感じもしない。
 多分、死んでもいない、と思う。
 そこに対した安堵感はなかった。
(いっそ、ここが死後の世界ならどんなに……)
 望みもしない一日がまた始まってしまったと、慈乃の心を重たくした。
 そして、そのまま昏い底なし沼のような思考におぼれかけたとき、明るい声が降ってきた。それは闇をも優しく照らし出すような、まるで春の陽光のような声。
「よかったぁ! 目が覚めたんだね!」
 慈乃が顔をあげると、ベッドの足側に置いてあるカーテンから青年が姿を現したところだった。
 青年は慈乃と同じか、やや上かといった年のころである。肩下ほどの長さの、蒲公英色の柔らかそうな髪をうなじで束ね、右肩にちょんと流している。目元は青年にしては愛嬌があり、瞳はまばゆい太陽を思わせるような輝いたマリーゴールド色をたたえている。年相応の体型でありながら、威圧感を感じさせないのは、彼の纏うあたたかな雰囲気故だろう。
 声に違わず、まるで春の陽だまりのようだと思った。
(日本人、のような顔立ちだけど……。不良、でもなさそう……)
 あまりに珍しい風貌に、つい真顔でまじまじと見てしまう。
 悪い感じはしないが、日本人なら滅多にない髪の色に瞳の色。おまけに、ニコニコマークのアップリケやカラフルな刺繍が襟や裾、ポケットにはいった白衣を着ている。
「…………」
 言葉を発せないでいる慈乃を見て、何かを察したのか、その青年は慌てて、「怪しい者ではないからね⁉」と口早に述べた。それから、場を取りなすように一度わざとらしく咳ばらいした。
「色々と聞きたいことはあるんだけど、まずは名前からだよね」
 青年はベッド脇に置いてある椅子に腰かけてから、慈乃と目線を合わせ、「僕はウタセっていうんだ」とにこやかに言った。「君は?」と優しく問われて、慈乃は「……遠藤慈乃、です」と視線を逸らし、小さい声で答える。
 慈乃の態度に特に気を悪くすることもなく、ウタセは話を続けた。
「えーっとね。シノね、昨日、街外れの森で倒れていたんだけど、なんでだか憶えてる?」
「……森?」
 昨日行った花畑のことを思い出してみる。あそこは確かに草花が咲き乱れ、周辺には木も植わっていたが、なにより住宅地のなかに存在する耕作地だ。あれを森とは呼ばないだろう。
 そう結論付けた慈乃は黙って首を横に振った。
 そんな慈乃を見てウタセは一瞬難しい顔をしたが、すぐにもとの様子に戻ると、今度は「自分のことはわかる?」と訊いてきた。
 慈乃はこくんとひとつ頷く。
 ウタセは少しだけ安堵した吐息を漏らした。それから、
「話せる範囲でいいから、シノのことを教えてもらえないかな」
と、ゆっくりと、急かさないように言った。
 全く抵抗がなかったわけではない。
 話すのは苦手だ。自分のことを話すのはもっと苦手。その上、内容が内容だ。信じてもらえないかもしれない。
 しかし、目の前の青年に悪意はなさそうだし、このままでは自分の現状もよくわからないままだと思い、慈乃は思い切って、ここに至るまでの経緯を簡単に説明した。
 花畑に行ったこと。そこで昔を思い出したこと。懐かしい声を聴いたこと。目が覚めたらここにいたこと。
 さすがに、どんな昔を思い出していたのか、何を思っていたのかは話す気にはなれなかったので言わずにおいた。
 ウタセはときどき相槌を打ちながらも、慈乃の話を遮ることなく聞いていた。
 慈乃の話が終わると、ウタセはしばらく考え込む素振りを見せた。やがて、何かが納得いったのか、ひとり大きく頷くと、再度、慈乃の瞳を見つめ、こんなことを言い放った。
「つまり、シノは人間界から来た人間なんだね」
「え……?」
 慈乃の口から、思わず、呆気にとられたといったような呟きがこぼれる。
 ウタセが慈乃の言を微塵も疑うことなく信じたことよりも、ウタセの発言に対する驚きの方がはるかに勝った。
(だって、その言い回しでは、ここは人間界でないどこかで、目の前のこの青年は人間ではない何かだということに……)
 そんな慈乃の表情の変化といえば、ほんの僅かに顔が強張ったくらいのものだろう。
 しかし、ウタセはその些細な変化に気が付いたかのように、あるいは慈乃の胸中を見透かしているかのように、首肯してみせた。
「シノが驚くのも当然だよね。ここからは落ち着いて聞いてほしいんだけど……」
 ウタセが気遣わしげな視線を慈乃に寄越す。
 慈乃は(いつも通りに……)と自らに言って聞かせる。
 慈乃がひとまず落ち着いたのを見計らって、ウタセが話し始めた。
 
「それは、花を愛し、花に愛された世界のお話」
 まるで小さい子どもにおとぎ話を読み聞かせるように、ウタセは語る。
「そこは、ひとつの国からなる小さな世界。中央の教会におわす女神が治めるこの世界には、花の妖精が住んでいました」
 慣れた様子でウタセは話し続ける。
「花の妖精は花を愛し、花に愛された存在。その髪の色や瞳の色は、まるで花の色を写しとったかのように美しいものでした。また、花の加護の満ちる空気がなくては生きてはいけないほど純粋な存在でもありました」
 ウタセの心地よい語りに、慈乃もじっと耳を傾けていた。
「彼らは花と共生しながら、独自の文化を発展させていきました。服飾、食料や建造物はもちろんのこと、最大の特徴は『言霊』と『言の葉』です。言霊は、言葉のもつ力は大きく、実際に心身にも影響するという思想のことです。言の葉は、この世界で用いられる言語で、花の加護を受けやすいといわれています」
 
 ウタセはそこで一度区切ると、慈乃を振り返る。
「本当は、僕とシノは違う言語を使ってるから会話が成り立たないはずなんだよね。でも、こうしてなんでもなく話せてるのは、言語の役割以上に、そこに込められた思いを、花の加護が手助けして、相手に届けてくれるからなんだよ」
 俄かには信じがたいが、実際会話は成立しているから、信じざるをえない。
 慈乃は無理やり自分を納得させることにした。
 ウタセが再び語りだした。
「そして、ことさらに花に愛された者を『花守』と呼びます。花守は花の妖精たちのなかでも選ばれた存在です。花が永きにわたり自らの種を守るため、花の妖精を宿主とし、契りを交わしたことが始まりだといわれています。花は妖精を宿主とする代わりに、花言葉の力を貸し与えました。花守はその花の声を聴くことができ、慈しみ、愛し、大事にすることで、その役割を果たしてきました。花もまた、一度花守となった者を特に愛しました。やがて花守が亡くなると、別れを悲しみながらも次の花守を探すのです。こうして、花と花の妖精はお互いを支えあって生きてきたのです。そして、その歴史はこれからも絶えることなく続いていくでしょう。おしまい」

(花の声を聴き……)
 このとき慈乃の脳裏に浮かんだのは、生前の母の姿。それから、この世界に来る直前の自分の姿。
(あのときは気に留める余裕がなかったけれど、あの声はカモミールだと言っていたような……)
 急に考え込み始めた慈乃に、ウタセが目を向ける。
「どうしたの?」
「……私の母は、花守だった、かも、しれません」
 慈乃は自信無げに答えたのだが、一方のウタセは一瞬目を瞠ると、「そういうことか」と何かを得心したように呟いた。
「シノの母親が花守だとするなら、色々とつじつまがあうよ」
 どういうことだろうと首を傾げる慈乃に、ウタセは「これは仮説だけど」と前置きして、説明をした。
「シノの母親は花守だった、ということは、もう……」
 言い淀むウタセの言いたいことを察し、慈乃は頷く。
「と、するなら、人間界で花守の器となれるのは限られてくるよね。身近にいる、花の妖精の血を継いだ者。それがシノだった」
 慈乃は相槌を打った。
(それなら……、私は、花守になった、ということ?)
 突然、ウタセが慈乃をじっと見つめてきた。そして、首を傾げた。
「でも、なんか、花守とも違うような……?」
 ウタセのあいまいな物言いに、慈乃もつられて首を傾ける。
「あぁ、ごめんね。花守って、花の加護が強いせいか、取り巻く気が特別でわかりやすいんだけどさ。シノの場合、その気がなんとなく感じられるような、なんともいえない感じなんだよね。花守になりかけてるっていうのかな」
 ウタセは困り顔でそんなことを言った。
 一方で、慈乃は少し納得していた。
 ここにやってくる直前に、カモミールは『声が届かなくなっても』などと言っていた。母の死後しばらくは聴こえていた声も、成長するにつれ、いつしか聴こえなくなっていた。つい十数時間前に急に聴こえた声もまた、この世界に来て以来は一度も耳にしていない。
 その不安定さが、ウタセの推測を裏付けているように思えてならなかった。
 ウタセの「とりあえず、先に進めるね」という声に、慈乃は我に返る。
「シノが多分花守になりかけていたこと。それに、門の開くタイミングがぴったり合ってしまったことが、シノがここに招かれた要因の一つだと思うんだ」
「門……?」
「ちょっと待ってね」
 ウタセはそう言い置くと、立ち上がり、カーテンの向こうへと行ってしまう。しばらく物を動かす音を立てていたが、「あったあった」という呟きを漏らすと、そのまま戻ってきて、再度椅子に腰かけた。
「これを見てほしいんだけどね」
 そう言ってウタセが慈乃に見せたのは、方位記号と時計のような円が描かれた紙だった。
「これは……?」
「これはね、この世界、つまりこの国の地図だよ」
 その地図は、大きな円が十二等分されていて、それぞれの区域に時計のように番号がふられていた。円の中央にはさらに小さな円が描かれており、そのなかに家と思わしき簡易な絵と家を中心に十字に橋らしきものが四本描かれていた。それらの円の外の左上に、北を上にした方位記号が置かれている。大きな円の北側には〈冬〉、東側には〈春〉、南側には〈夏〉、西側には〈秋〉と、おそらく言の葉だろう文様のような記号のような文字が綴られていた。
 ウタセは円の三時にあたる部分を指さして、「ここ、三番地が僕らの現在地だよ」と教えてくれた。そのまま指を右に滑らせ、大きな円のすぐ外側で滑らせた指を止めた。
「ここがシノの倒れていたところ、つまりは門だね」
「……えっと……」
 位置はとりあえず把握できたが、それが一体どうしたというのだろう。
「この地図は一年の始まりの位置、『正位』と呼ぶんだけど、その正位で描かれてるんだ。それで、季節は、中央の教会を軸にしてこうやって回るんだ」
 ウタセが地図上に置いた指を反時計回りに動かす。
「土地が回ることで、季節を運んでくるってわけだね。三六〇日かけて一周して、正位に戻ると、また新たな一年が始まる」
 ここで、ウタセは神妙な顔つきになった。
「こんな風に季節が巡っているから、当然、人間界とは時間の流れも違う。それでも、この世界と人間界の時季が一致することはある。そのときに、門は開きやすくなるんだ。シノの話から察するに人間界にある門付近は春先みたいだし、いま時分はここ三番地の加護が最も強いんだ。そして、最大の要因が」
 ウタセが、今までにはない、悲しそうな瞳を慈乃に向けてきた。
「シノ、君だよ」
 どうしてそんな瞳を向けられるのかわからず、居心地の悪さにさっと視線を外した。
「純粋な気は妖精に近づくといわれていてね。例えば、生きたいというまっすぐな願いも。例えば…………死にたいという心からの祈りも」
 どきりと、胸が瞬間冷えた。
 怖くなって、無意識に両手を重ね合わせて、握る。
 ウタセは、それをちらと見遣るも特に何も言わずに、それまでの憂うような雰囲気から一転、もとの柔らかな雰囲気に戻った。
「とにかく、いくつかある条件が偶然にも一致して、シノはここにきたってことなんだよ」
 動揺から、慈乃は声も発せず、小さく頷くことしかできなかった。

 話が一段落したのか、ウタセは閉口した。
 その場を、沈黙が支配する。
 ふっと、叔父一家に厄介になっていたころの沈黙が思い出される。あの沈黙は、まるで無言の圧力のようで、苦しかった。
(けれど、この沈黙は、違う)
 先ほどは動揺して、彼を困らせるような態度をとってしまったが、少し冷静になった今なら、あの発言に害意はないのだと判断できた。
 慈乃に向けてきた悲しそうな瞳といい、気遣うような話し方といい、彼はむしろ慈乃のことを案じているのではとさえ思う。
(……なんて、そんなわけない)
 出会って間もない人間を、そこまで気にかける心理がわからない。
 未だに甘さを捨てきれない自分に、嫌気が差した。

「……あのさ!」
 唐突に、ウタセが沈黙を破った。
 まだ何か言い忘れたことでもあるのだろうか。そう思い、ちらと声の方に視線だけ向ける。
 声をかけたものの、なんといえばよいか考えていなかったのだろう。ウタセは、数秒、逡巡する素振りを見せてから、慎重に言葉を選ぶように口を開く。
「……シノは、」
「ウター? 今いいかーい?」
「あっ」
 しかし、部屋の前からウタセを呼ぶ声に、続くはずだった彼の言葉はさらわれた。
 ウタセは迷うように、慈乃と部屋の出入り口を交互に見ていた。
「私のことは、いいので……」
 感情のこもらない声音で慈乃が促すと、ウタセは困った表情で「ごめんね、ちょっと行ってくるよ」とカーテンの向こう側へと姿を消した。次いで、扉の開閉音がし、二人分の足音が遠ざかっていくのが、微かに聞こえた。
 
ひとりになったとたん、どっと身体が重くなった気がした。
(熱、出したかな……)
 ここにきて疲れが出たのか、それとも、先ほどまでの緊張状態から解放されたからか。
 不調を意識しだしたら、急に悪化したような錯覚に陥る。
 意識までもが朦朧としてくる。
(なさけ、ない)
 ここまで来ても変われない弱い自分を、心の中で罵る。
(こんなわたしに、居場所も価値もあるはずない。わたしがいちばんわかってるじゃない)
 意識も、思考も、闇に飲まれていく。
(わたしは、なんのためにいかされているの? これから、どうやっていきていかなければならないの?)
 慈乃はその先を考え続けることもなく、ただ意識を手放した。


『これからも生きたいって思う?』
 それは、傷つき、何もかもを諦めたかのような少女に投げかけようとした問い。
 結局、訊くことはできなかったが、果たしてそれは単にタイミングを逃したからか、それとも、返される答えを聞くことが辛いと思ってしまったからか。
「浮かない顔をしているね。ウタにしては珍しいじゃないか」
 隣を歩く、ウタセより六つ年上の、彼が兄と慕う青年の穏やかな声が廊下に響く。
 彼は名をミトドリという。
 身長はウタセよりも高く、細身ながらもしっかりとした体格をしている。なにより、同性のウタセから見ても、ミトドリは美人だと思う。事実、通った鼻梁に、薄い唇、切れ長の涼しげな目元、と整った顔立ちをしている。瞳は宝石をはめ込んだかのような美しいエメラルドグリーン色。左耳より下で束ねた、胸下まであるさらさらの長い髪は艶めく蠟色。
 もともと穏やかで大人っぽいミトドリに、さらに理知的な雰囲気を加える眼鏡は彼によく似合っている。それでも決して冷たく見えないのは、ミトドリの生来持つ優しさが、彼の所作や雰囲気に滲み出ているからだろう。
 血はつながらないが、家族同然に大事で、頼りになる兄にそんなふうに言われてしまったものだから、ウタセは知らず胸の内を吐露した。
「ミト兄……。彼女ね、シノっていうんだけど、どうにも苦しそうなんだ」
 ウタセは仕事柄、そういう子どもたちを見かけることもしばしばだった。それでも、慈乃のもつ危うさに、薄ら寒いものを感じた。
「ほとんど無表情で、ひとを怖がってて。一番気になったのは、自分のことをどうでもいいみたいに扱ってたことなんだけど……」
 みるみる沈痛な面持ちになっていくウタセに、ミトドリがふわりと肩に手をのせる。
「ウタがそう思うということは、そういうことなんだろう。ただ、だからといってウタまで暗い顔をしていてはいけないよ」
 諭すようなミトドリの言葉に、ウタセがはっとして顔を上げる。
「『笑顔が一番』がウタの信条だろう? 君が笑っていないとみんなが心配してしまうし、そのシノという子も変えられないままだ」
「そう……、そう、だよね……!」
 ウタセがぱっと笑顔を取り戻す。
 その様を見て、くすりと微笑んでから、ミトドリが「そうそう。本題なんだけれど」と話しだした。
「フロリアには話を通してきたよ。彼女としても歓迎していたし、好きにしてもらって構わないと言っていた。教会の方で面倒を見てもいいとも」
 フロリアとは、この世界、この国を統治する女神の名である。
 美しく、神々しさすら湛えているが、偉ぶったところがなく、むしろ敬称をつけるな、敬語はやめろと命令してくるくらいである。茶目っ気があり、好奇心旺盛な女神は民からも愛されている。また彼女も民を大切に思い、愛しているのだった。
「人間かもしれないと伝えたら、友達になれないか、とか目を輝かせていたよ」
 ミトドリが苦笑気味に語る。ウタセにもフロリアの反応がありありと想像できた。
「教会で……かぁ」
 フロリアのことだ。決して悪いようにはしないだろう。
(けど……)
 痛みに気が付けないほど傷ついた、生きることに希望を見出せなくなった、自分を見失ってしまった、そんな女の子を、シノを、このまま見放すような真似ができるだろうか。
 ウタセの葛藤を感じ取ったのだろう。ミトドリは、さりげなく提案する。
「あとで彼女に訊いてみるといい。周りが何を言ったところで、決めるのは本人なのだから」
「うん、そうするよ」
 異論もなく、素直に頷く。それから、気持ちを切り替える。
「とりあえず、調理場を借りてくるよ」
「ニアなら、まだ食堂にいたよ」
「僕は保健室にいたし、ミト兄も借り出しちゃったから、人手が足りないのかも。ご飯と薬を作ったら、今朝の分まで頑張らないと!」
「元気なのはいいけれど、廊下は走らないように!」
 ミトドリの注意を背に受けて、ウタセはそのまま廊下を小走りで進み、左手に見える扉のない大広間、食堂に入る。
 食堂には、若い女性を中心に四、五歳くらいの子供たちが五人集まっていた。
「おはよう、ニア姉、みんなも! 調理場借りるね!」
「ウタお兄ちゃんだ」
「おはよう、ウタ兄」
「おはよーっ! どこ行ってたの?」
「ウタ兄、あそぼ?」
 ウタの挨拶に、ニアよりも先に子どもたちの方が反応する。
 そこにニアの声が割って入る。
「こーら! 食べ終わってからでしょ。それにウタは今忙しいんだから、遊ぶのはまたあとで。」
「えーっ!」
「朝ごはんをちゃんと食べたら、あたしが遊んであげるから。はい、手を動かす!」
「はーい!」
 快活で明るいニアの声つられて、子どもたちも元気に返事をする。
 ニアは、ミトドリの二つ年下の実の妹であり、女性にしては身長もあり、兄に似て美人でもある。意志の強そうなつり目気味の目には、ミトドリと同じエメラルドグリーン色の瞳が輝き、鼻や口元のつくりもそっくりだ。
 しかし、兄とは対照的に、その髪型はボブヘアーで、前髪はさっと右で分けている。髪色は鮮やかな紅赤色で、まるで夏の日差しに照らされる花のようだ。
 加えて、兄のミトドリとは雰囲気が大分異なる。声にも表れる明朗快活さにハキハキサバサバした性格のニアは、ときに姉のようでもあり、母のようでもある。かくいうウタセも、ニアのことを姉のように慕っている。
 ニアが振り返る。
「調理場だっけ? 朝食なら早くに食べてたよね?」
「僕のじゃなくて、昨日の子、目を覚ましたから。薬をつくるついでにおかゆも、って」
「春の七草なら、このあいだ切らしちゃったけど」
「七草は使わないよ。うーん。あっ、ニア姉! 梅干しはある?」
「下の戸棚にあったはず」
「わかった、ありがとう!」
 ウタセは嬉しそうに笑い、お礼を言うと、あわただしく食堂の奥へ続く暖簾をくぐっていった。

 程なくして、梅がゆが完成した。
 最後に、ウタセは『仕上げ』を施した。
「〈セイヨウタンポポの花守・ウタセが祈るよ。〝誠実〟な僕の思いがどうかシノにとどきますように。〉」
 言葉に応じるように、ウタセの周囲の空気が一瞬だけ蒲公英色に輝く。
『きっととどきますよ』『ぼくらもおうえんします』『ウタセのちからになりたいです』
 どこからともなく聞こえてきた声にウタセは「ありがとう」と笑顔で応えた。
 それからウタセは手早く調理場を片付けて、入ってきた方とは別の、廊下に直接つながる出入口へと向かう。そして、来た道を戻り、保健室へと戻った。


 扉の開く音がして、慈乃は目を覚ました。
 次いで、カーテンの引かれる音がする。
 音の方に視線を向ければ、食器を載せた盆を持ったウタセがやってきたところだった。
「シノ、気分はどう?」
 少し眠ったからだろうか。眠る前よりも幾分か頭がすっきりした気がする。もっとも、意識が戻ったら戻ったで、入れ替わるように胸が重たくなるのだが……。
「……あまり」
「……そっか。あ、おかゆ作ってきたんだけど、食べられそうかな?」
 正直、何も口に入れる気はしない。しかし、生存本能か、空腹感だけははっきりと感じられた。
「少し、なら……」
「良かったぁ! そしたら、僕は薬をつくってきちゃうから。無理せず、ゆっくりでいいからね」
 ウタセは「はい」と言って、慈乃に盆を差し出した。慈乃が盆を受け取ったのを確認すると、ウタセは優しく笑って手を離し、再びカーテンの向こうへと行ってしまった。
 すぐに、カーテンの向こうで、がたがたカチャカチャ、音がする。
 慈乃は受け取った盆をぼんやりと眺める。盆の上に置かれた木製の椀には、できたての梅がゆがよそわれていた。
いただきます、と心の中で唱える。それから、添えられた木匙に、ためらいがちに手を伸ばす。木匙でかゆをすくって、ゆっくりと口に運んだ。
(おい、しい)
 一口、口に含んで、驚いた。
 食事を美味しいと感じたのは、いつぶりだろうか。
 父と二人で囲んだ食卓は決して豪華なものではなかったけれど、美味しいと感じていたように思う。食事を義務だと思うようになってからは、すっかり忘れてしまった感覚だった。
 根拠はないが、これを用意してくれたのはウタセなのだろうと、なんとなく思った。
 彼は、ただの義務感や責任感だけで慈乃の看病にあたっているのではない。慈乃を純粋に心配して、心から気にかけてくれているのだと、今なら素直に理解できた。
(きっと、ものすごく優しいひと、なのね)
 自分には不釣り合いな優しさだという思いが胸を支配する。しかし、それだけではない。本当に微かだが、心のどこかがあたたかくなったような気がした。
 そうして、椀の中のかゆが半分ほどなくなったころ、ウタセが戻ってきた。
「あっ、思ってたより食べてくれてる!」
 ウタセはにこにこと嬉しそうに笑いながら、側にある椅子に座った。
「梅がゆなんて久しぶりに作ったから、ちょっと不安だったんだよねー。あ、もちろん、味見はしたよ?」
(やっぱり、作ったのは、ウタセさんだったのね)
 ウタセの発言から、確信を得る。それと同時に、自然と言葉が口をついて出た。
「……その、ありがとう、ござい、ます」
 こわごわとウタセの顔を覗き見る。
ウタセは、ひどく驚いた顔をしていた。
「え……っと……」
 慈乃が何を続けたものかと狼狽えていると、先にウタセが呟いた。
「良かった、本当に……」
 そして、安堵した表情を見せた。
 よくわからないウタセの返答に、慈乃は戸惑いを隠せずにいた。
「もしかしたら、シノは、助けてほしくなんてなかったんじゃないかなって思ったりもしたんだ。看病も薬も、食事すら必要としていないのかもって。だから、ありがとうって言ってもらえるなんて思ってなかった」
 今度は慈乃が驚く番だった。
 ウタセは、慈乃が希死念慮の思いを抱いていたことに、やはりというか気が付いていた。
 しかし、今は不思議と、先ほどのような不快感はない。
(きっと、彼の想いが届いたから)
 今ばかりは、胸を支配する暗い感情を忘れられる気がした。
 そんなことを慈乃がひとり思っていると、ウタセが「それにね」と、なにやら続ける。
「シノがこうしてありがとうって言ってくれたことは、僕をなにより嬉しい気持ちにさせてくれたから。こちらこそ、ありがとう、だよ!」
 そう言ってウタセが見せた笑みは、慈乃が初めて見る彼の表情だった。
何の憂いもなく、眩しいほどに。無邪気な笑顔は、まるで小さな子どものようだった。

 その後は、穏やかで心地良い時間が流れた。
 残ったかゆを食べ進める慈乃の様子を伺いながら、ウタセがときおり話しかける。それに慈乃は相槌を打つ。
 ウタセは慈乃の反応に気を悪くすることもなく、終始楽しそうに話していた。
 慈乃も、ウタセのことを煩わしいとは思わず、安らかな心持ちで彼の話を聞いていた。

 ちょうど慈乃が椀の中身を完食したとき、ウタセが「そろそろかな」と言って、立ち上がる。
 急にどうしたのだろうと、慈乃はウタセの姿を目で追う。
 ウタセはカーテンを開け、そのまま、簡易台所で熱せられている鍋を見る。
 カーテンの先を、慈乃は初めて見た。
 カーテンに遮られ、全容は確認できないが、広い机がある。机上には、本や書類、筆記用具が整頓されて置かれている。
 向かいの壁際には簡易台所と、その隣には薬棚が設置してある。薬棚の上部はガラス戸になっていて、中が見える。救急箱や予備の治療道具がきれいに並べられている。
 そこまで見れば、小学生の頃によくお世話になった学校の保健室を彷彿とさせる。
 しかし、慈乃の知る保健室と大きく異なるのは、救急箱などの隣にずらりと並べられた瓶だった。中身は、色褪せた葉や干からびた根、果ては茶色い何か。
 まるで実験室のようにも思えてしまう。
 じっと瓶を注視していると、いつの間にやらウタセが木製の湯飲みを片手に戻ってきていた。
「ああ、あれが気になるの?」
 慈乃の視線をたどって、ウタセがちょっとおかしそうに笑う。そして、湯飲みを差し出す。
「これを飲めばわかるかもね」
「……これは?」
「薬だよ。さっき出来たから」
 なんだか嫌な予感がするが、薬だと言われてしまっては断るわけにもいかない。
 慈乃は湯飲みを受け取ると、中身に口をつける。
 野菜の青臭さと野草のえぐみに似た苦みが舌に広がる。後味は苦みを残しながらも、ほんのり甘かった。
 表情こそ変わらないものの、確かにまずいと思いながら、慈乃はなんとか飲み干した。
「…………」
「あはは、やっぱりまずいよね。今でこそなれちゃったけど、僕も最初飲んだときはまずいなって思ったよ」
 ここで目覚めたときに感じた匂い、怪しげな瓶の中身、そしてまずい煎じ薬。きっとこれは漢方薬の類なのだろう。
 ウタセは、椀や湯飲みを盆に載せ、立ち上がる。
「ご飯も食べたし、薬も飲んだし、後はよく寝ること! ちゃんと休んでね」
 慈乃が素直に頷いたのを見届けると、ウタセは安心した顔で微かに笑って、その場を後にした。
 ひとの気配がなくなり静かになった部屋で、慈乃はそっと目を瞑る。
 お腹が満たされたからか、薬が効き始めたからか、それともひとの優しさに触れて心があたためられたか。
 今度の眠りは、そっと優しく訪れた。


 慈乃は、夢もみないほど深い眠りに落ちていた。
 次に目が覚めたときには、新しい太陽が顔を出していた。
(朝……いえ、お昼前くらい?)
 カーテンを透かして入り込む陽光から、時間にあたりをつけてみる。
 ベッドの上で身を起こす。不思議と身体が軽くなったように感じた。
(体調が良くなったから?)
 首をひねっていると、扉の開閉音、次いでウタセの声がした。
「シノ、起きてる?」
 あまりのタイミングの良さに戸惑いつつも、慈乃は返事をした。
「あ……、はい」
 慈乃の返事を聞くと、ウタセがカーテンを引いてやってくる。
「おはよう、って言っても、もうお昼前なんだけどね。昨日よりは顔色は良さそうだけど、体調はどうかな?」
 昨日と変わらず、ウタセは柔らかい口調で問うてくる。
「良くなった、と、思います」
「本当? やっぱり花守になりかけてるからかな。適応が早いね」
 ウタセが感心したように呟いた。
「こっちの空気に慣れたら完全に良くなるはずだから……。この分だと明日までは安静かな」
「はい」
「あっ、お昼ご飯は食べられそう?」
 慈乃が頷くと、ウタセは「じゃあ、取ってくるね」と言って、部屋を出ていった。

 しばらくして戻ってきたウタセは、盆を二つ持っていて、一方を慈乃に差し出す。
 慈乃は小さく頭を下げて、盆を受け取った。
 盆の上には、まだ温かそうなおにぎりが二つと、豆腐とわかめの味噌汁、それにかぼちゃの煮物の小鉢が載せられていた。
「和食……」
 思わず慈乃が呟く。
 昨日と同じ椅子に腰かけたウタセが、顔を上げる。
「和食の方が食べやすい味かなって思って。あ、かぼちゃは苦手?」
「いえ、苦手では……。ただ、和食が食べられるとは、思っていなかったので……」
 それを聞いてウタセは「あー」と、納得したかのように声を漏らした。
「うん、まあ、珍しいといえば珍しいよ。そもそも和食を知ってるひともそんなにいないし、材料が揃わないこともよくあるし」
「そう、なんですね」
「僕もあんまり難しい和食は作れないしね」
 ウタセは苦笑する。
 和食事情がどうにしろ、慈乃にとってはウタセの気遣いこそが何より嬉しかった。
「そうそう、今日は僕も一緒に食べてもいいかな?」
 ウタセの提案に、慈乃は少し驚くも、拒否する理由も特にないと、首を縦に振る。
「良かった! それじゃ、冷めないうちに食べちゃおうか」
 ウタセの笑顔を合図に、食事が始まった。

「シノはきれいに食べてくれるから、作り手としては、やっぱり嬉しいな!」
 食事が落ち着くと、ふいにウタセがそんなことを言った。
 慈乃は一瞬だけ目をまるくした。しかし、すぐにいつもの人形めいた表情に戻って、相変わらずの感情ののらない声で、ぽつりと呟く。
「……そんなこと、言われたことが、ありません」
 ウタセは、意外そうな顔をして見せる。
「そうなの? 昨日のおかゆも米粒ひとつ残してなかったし、今日もきれいに平らげてくれたよね。少なくとも、僕のまわりにはあんまりいないなぁ」
 そして、ウタセはふわりと慈乃に笑いかけた。
 その言葉に、笑顔に、我知らず目を奪われる。
 眩しいけれど、目に痛いとは感じない。むしろ、包み込むような優しさと温かさを感じさせる彼の言動は、春の陽だまりそっくりだと改めて思った。
 惚ける慈乃を現実に引き戻したのは、昨日も聞いた男性の声。そして、若そうな女性の声だった。
「ウタ、いま大丈夫かい?」
「ちょうど時間ができたから、様子を見に来たわ」
「ミト兄、ニア姉」
 ウタセが声のした方を振り返る。
 慈乃は知らない声を聞いた瞬間、びくりと肩を震わせた。俯けた顔を強張らせ、無意識に両手を重ねて、握りしめる。
(こわい……)
 ウタセといる間は忘れていられた暗い感情が顔を出す。
 白い目。否定的な言葉。排他的な空気。
 大多数の人がそうだった。
 誰も彼もが信じられない。こわい、こわいこわい…………!
(だから居場所なんてない! 存在意義も価値も私にはな、)
 ふわり。
 自分の手しか映していなかった視界に、重ねるように置かれた誰かの手が映る。
 ウタセだった。
 真剣に、けれど柔らかく、ウタセは語りかける。
「シノの過去に何があったか、どうしてそんなに怯えているのか、僕は知らない。だけどね、ここにいるひと達は絶対にシノを傷つけないし、否定もしないよ」
 ウタセが自らの存在を主張するように、重ねた手に僅かに力をこめる。
「それに、僕がいるから。きっと、シノを守るって、約束するよ」
 慈乃はゆるゆると顔を上げる。
 瞬間、マリーゴールド色の瞳に吸い込まれる。真摯で凛とした眼差しは、しかし、慈乃と目が合ったことに気が付くと、すぐに彼らしい優しいものになった。
 慈乃が落ち着いた頃合いを見計らって、ウタセが「大丈夫そう?」と訊いてきた。
 慈乃は静かに頷いた。
 ウタセはそっと慈乃に微笑みかけてから、部屋の外へと声を掛ける。
「お待たせ。入っていいよ」
 ウタセの声に応じるように、扉の開く音がする。
「失礼するよ」
 穏やかな男性の声。
「調子はどう?」
 続いて、明朗な女性の声。
 カーテンを引いて現れたのは、艶やかな黒髪が美しい男性と、鮮やかな赤髪が目を引く女性だった。遠目からでもはっきりとわかる瞳の色は、二人とも輝くエメラルドグリーン色だ。
「もうお昼寝の時間だよね。今はスギナとツクシが見てるの?」
「ツクシが寝てなければね」
「スギナのことだ。そこは上手くやってくれているよ」
 ふいにウタセが振り返る。
「紹介するね。こっちがミト兄、それでこっちがニア姉」
 ウタセに『ミト兄』と手で示された男性が、慈乃に軽く会釈した。長い黒髪がさらりと揺れる。
「はじめまして。わたしはミトドリと言うんだ。話には聞いていたけれど、なるほど……。ひとまずは、安心したよ」
 そして、ミトドリは静かに微笑んだ。
 慈乃がどう返すべきか戸惑っていると、「こんにちは!」と明るい声が降ってきた。
「あたしはニア。ミト兄の妹よ。よろしくね、シノ!」
 はつらつとした彼女の雰囲気に、慈乃は半ば圧倒させられた。
(でも……、このひと達なら……)
 ウタセの大丈夫という言葉を思い出す。ちらりとウタセを見ると、微笑みながら頷いてくれた。それらに背を押されて、慈乃は顔を上げる。
「え、遠藤慈乃、です。……その、お世話に、なって、ます」
 ミトドリもニアも、嬉しそうに笑ってくれた。隣に座るウタセも、顔は見えなかったが、どこか嬉しそうにしているようだった。
(ここで出会うひと達は、私の出会ってきた人達とは、違うひとばかり……)
 まるで慈乃のなかの世界が、少しずつ塗り替えられていくような、不思議な感覚に陥る。
 ミトドリはウタセに顔を向けていた。
「ウタセは彼女にどこまで話したんだい?」
「一気に話しても、って思ったから必要最低限だよ。この世界のこととか、後はシノがここに来た理由とか」
「この学び家やフロリアのことは伝えてないんだね?」
「調子を見て言おうとしたんだよ。それこそ、まさに今ね」
 ウタセは視線を宙に彷徨わせると「でもま、ちょうどいいかな」とひとりごちた。
「ミト兄達がいた方が説明しやすいし、二人も時間あるでしょ?」
 水を向けられた二人は、「構わないよ」「もちろん」と各々返答する。
 そして、ウタセは慈乃に話を振った。
「そういうわけで、シノには昨日話せていなかったことがいくつかあるんだよね。いまから話そうと思うんだけど、いいかな」
 慈乃は首を縦に振った。
「まずは、この場所についてね。ここは『学び家』と言って、保護者をなくしたり、行き場を失ったりした子ども達の家なんだ。慈乃がいるこの部屋は保健室だよ」
 つまりは児童養護施設ということだろうか。慈乃は心の中で得心した。
「それで、ミト兄が家長、ニア姉が料理番で、僕は保健医を兼ねながら子ども達のお世話をしてるんだ。他にスギナとツクシっていう職員もいるよ」
 ミトドリが話を引き継ぐ。
「仕事柄、花守の加護が有用な部分も多くてね、職員の中ではわたし以外は皆、花守なんだ」
 ウタセとニアが頷く。
「僕はセイヨウタンポポの花守だよ」
「あたしはジニア、ヒャクニチソウって言った方がわかる? の花守」
「スギナとツクシは双子で、二人揃って初めて、スギナの花守なんだ」
 ミトドリが最後に付け加えた。
 そこで慈乃は首を傾げる。
 それに気づいたウタセが「わからないことがあった?」と尋ねてくる。
 慈乃はためらいがちに口を開いた。
「えっと……、スギナは、花とは言わないような、気が……。それなのに、『花守』と、いうのですね」
 ウタセ、ミトドリ、ニアがお互いに顔を見合わせる。
(何か、おかしなことを言ったかしら……)
 スギナといえば、春先によくみられる明るい黄緑色をした野草だと記憶している。それこそ、母がまだ生きていて、ピクニックに行ったときには、スギナで父と遊んだことを僅かながらに憶えている。相手にわからないように、たくさんある節を一つだけ抜いて、元の位置に挿し戻す。そして、どこが抜いた箇所かをあててもらう。父はあまり当てられず、慈乃や母によく笑われていた。そんな母は、慈乃にスギナとツクシは同じものなのよ、と教えてくれた。後に調べて知ったことだが、スギナの胞子茎をツクシと呼ぶのだという。
 温かな思い出を懐古する一方、やはり三人の態度には不安が煽られる。
 慈乃が何も言い出せないでいると、それをウタセが察したようで「ごめんね」と謝った。
「慈乃が指摘したことは間違ってはいないんだけど、僕達には当たり前過ぎて、ちょっとわからなかったんだ」
 ニアが続きを引き取る。
「そうそう。確かに咲かせるのも『花』って言うんだけど、草花も樹木もひっくるめたのも『花』って言うの」
「そう、なんですね……」
 顔にこそ表れないが、慈乃は内心驚いていた。これがカルチャーショックというものかもしれない。
「それから、シノは人間かもしれないって思ったから、一応この国の女神であるフロリアに、ミト兄が打診をもらってきたんだ」
 ウタセの発言を受けて、ミトドリが頷いて話し始める。
「フロリアは貴女のことを歓迎していた。それから好きに過ごしていいとも言っていた。貴女さえよければ、教会で面倒をみてもいいとも」
「教会、で……」
 昨日のウタセの語りを思い出す。あの内容がそのまま事実だとしたら、教会とは女神が住む場所。つまりは女神の傍で生活することを、女神直々に許可したということになるのでは……。
 慈乃はなんともいえない心もちになった。
 ミトドリが語るフロリアの印象は、慈乃にとっても悪いようには思えない。
 しかしながら、この場所を少なからず居心地よく感じている自分がいることにも気づいてしまう。
(こんなことを思うのは、初めて……)
 慈乃の心境とは対照的に、ニアはあっけらかんと言う。
「まっ、フロリアの言いそうなことよね」
「わたしもそう思う。彼女らしいというか」
 そんな中で、唯一、ウタセだけが浮かない顔をしていた。
 ウタセは何やら考え込んでいるようだった。そして、おもむろに顔を上げて、慈乃を見た。
「シノは、これからどうしたい?」
 それは、慈乃が向き合わずにきた問い。
 考えることが怖くて、目を逸らすことで逃げてきた未来への道。
「今も、ここに来たときと気持ちは変わってない?」
 ウタセの瞳に、いつかのときの悲しげな色がほんの僅かに混ざる。
 ウタセが言いたいのは「まだ死にたいと思うか」ということだろう。
 ここに来る前には、何度か死にたいと思ったことはあった。
 死にたくても死にきれなくて、弱い自分を呪った。
 自分の生きる世界が苦しくて、痛みを感じられないほどに心は傷ついていた。
 人はそう簡単には変われないと、諦めていた。
 捨てきれなかった、変わりたい、生きたいという思いを押し込めながら。
 慈乃の揺れる瞳を見つめて、ウタセが言葉を掛ける。
「僕はね、シノが生きたいって少しでも願うなら、それを助けたいって思ってるよ」
「な、んで、ですか……?」
 かすれた呟きが、慈乃の口からこぼれる。
「僕にも辛くて笑えない時期があったんだ。だけど、そんな僕を救ってくれた人がいた。その優しさに報いたいから、僕は救いを求める手は取ることに決めてるんだ」
 迷いのない口調でウタセが言いきった。その言葉は、彼の意志の強さと気高い精神の表れのようだった。
「それにね、シノの笑った顔を見てみたいなって」
 そう言って、ウタセはにっこり笑った。
(私は、どうしていきたいの?)
 そんな風に自問自答したのは、初めてだったかもしれない。
 どうしなければならないか、ではなく、どうしたいか。
 それは慈乃のなかの何かが、確実に変わり始めている証拠でもあった。
 まだ見ぬ自分に突き動かされて、思いが自然と言葉に変わる。
「わ、私、考えて、みたい、です。これから、私が……どうして、いきたいか」
 上げたばかりの産声は、どこか頼りなげで、迷いも感じられるけれど。
 それでも確かに、希望に満ちていた。


 その後、ウタセ達は仕事に戻っていった。
 静かになった空間で、慈乃は自分に問いかけた。
(私が、この先やりたいことって、何かしら)
 例えば、しっかり大学に通い、卒業して、自立した生活を送ることだろうか。
(そもそも、元いた世界には戻れるの?)
 花守になりかけている自分が、人間界で生きていけるものなのか。なんとなく、母の最期が思い出された。
 それに、未練もない。
 大学も学費の都合がつく、無難なところを選んだ。明確な意志や目標があったわけではない。
 思い返すにつれ、如何に自分が生かされるままに生きてきたのかを思い知る。
(この世界でなら、どうだろう)
 未知の世界に、不安がないはずがない。
 ウタセ達は優しかったし、女神も歓迎しているようだが、そんなひと達ばかりではないだろう。
 世界が変わったところで、かつての繰り返しになることだってあるかもしれない。
(……そうよ、私自身が、変わらなくちゃ)
 いままでは躊躇っていたその一歩を、踏み出すことができるなら。
(他人任せはもう、やめたい。自分の意思で、決めたい)
 すぐには大きく変われないだろうし、今はまだ具体的に何をしたいのかもわからない。
 それでも、はっきりしたことがある。
(自分の居場所を、つくりたい。自分の存在意義を、証明したい。自分の価値を、探したい。この世界で、生きてみたい)
『きっとできるよ』『シノを応援するの』
 慈乃の思いに呼応するように、空気が優しく震えた。


 翌日。
 二日間で十分に休めたからか、その日は朝日の眩しさに目が覚めた。
 ウタセの見立て通り、体調はすっかり元通りに、あるいは以前よりも良くなったようにすら感じていた。
 保健室内の設備は自由に使って良いと言われていたので、慈乃は最低限の身支度を整えるべくベッドから起き上がった。
 洗面台で顔を洗い、頭を上げる。正面の鏡には見慣れたようで、しかしいつもとはどこか異なる自分の姿があった。
(あ、髪が……)
 よくよく観察しなければ気が付かなったかもしれない。
 慈乃の髪色はもともと色素の薄い猫柳色だったが、今はそれよりもやや淡い色合いに変化していた。
(これも、花守の影響かしら……)

 ある程度の身支度を済ませると、やることがなくなった。
 今日までは大事をとって安静にと、昨日ウタセに言われたこともある。しかし、それ以上に、自分のこれからの在り方を考えなければ、やることすら決められないのだ。
 この世界で生きたい、自分を変えたいと決意したものの、具体的なことは何一つ定まっていない。
 時間もあることだし、今日一日、それについて考えるのがいいかもしれないと、慈乃が一日の予定を決めようとしたところで、保健室の扉が開いた。
 現れたのは、腕に小さな女の子を抱えたウタセだった。
 開けたままだったカーテン越しに、ウタセと目が合った。
 ウタセは珍しく困ったような顔をしていた。

 その後、女の子を慈乃の二つ隣のベッドに落ち着かせてきたウタセは、一度保健室から出ていった。次に戻ってきたときには、二人分の朝食を手に携えていた。
 二人で朝食を摂る。今朝は野菜の豆乳スープとパンだった。
 その間に、ウタセが今朝の出来事を聞かせてくれた。

 先ほどもちらと見えたが、長い紅色の髪を持った女の子は名をメリルといい、齢はまだ五歳だという。唯一の肉親であった母親を失ったことで、二か月前にこの学び家にやった来た。
 メリルは悪夢をよく見るらしい。そのため、寝るのをひどく怖がっていた。
 昨夜もなんとかニアが寝かしつけたものの、今朝がた急に目が覚めたと思ったら、激しく泣き出したという。
 そこで呼び出されたウタセは、睡眠薬を処方し、メリルを休ませるために保健室にやって来た、というのが数十分前のことである。

「普段はいい子なんだけど、悪夢を見るとひどく取り乱すんだ」
 苦い顔をして、ウタセが呟いた。
「本当は薬に頼るんじゃなくて、心の問題を解決しなくちゃとは、わかってはいるんだけど……、ね」
 心の在り様は難しい。それを身をもって知っている慈乃は、ただ黙って頷いた。
 ウタセは、慈乃の食事が終わった頃合いを見計らって、食器を持って立ち上がる。
「僕もときどき様子を見に来るけど……」
 一瞬、考えるような素振りを見せると、ウタセはこう言い置いた。
「シノさえ良ければ、メリルの話し相手になってくれると嬉しいな」

 借りた鉛筆と紙に、慈乃はこれからどうしたいか、何を考えているかを思いつくままに書き留めていた。
 そこには短文や単語に加え、ちょっとしたイラストも描かれていた。
 自分の干支は卯だからと、なんとはなしにウサギを描いたのだった。特に深い意味はない。
(そういえば、ここに来てから動物を見てない……。ペットとか、飼ってるのかしら)
 慈乃の通っていた幼稚園ではウサギにハムスター、インコにカメを飼っていた。
 おぼろげな記憶をなぞっていると、ふいに物音がした。次いで、カーテンが引かれる音。
 まさかと思い、慈乃が向けた視線の先には、案の定メリルが立っていた。両腕でぬいぐるみを抱えていた。
 メリルはこちらを振り向くと、驚いたのか固まってしまった。
(まあ、そうよね)
 自宅に突然知らないひとが現れたようなものだ。メリルの反応は当然といえた。
 慈乃が事情を話そうと口を開くより先に、意外にもメリルの方から声を掛けてきた。
「こ、こんにちは」
 髪と同色の、透き通った瞳が慈乃をまっすぐにみつめる。
 慈乃は少し気後れしながらも「こんにちは」と挨拶を返した。
 メリルはとてとてと慈乃のもとへやってくると、慈乃の顔と手元の紙を交互に見た。それから首を小さく傾げて、「お姉ちゃん、だあれ?」と訊いてきた。
 覗き込まれた瞳を逸らすのも憚られて、慈乃はそのまま自己紹介をした。
「数日前からお世話になっています、慈乃です」
 にこりともできない自分にほとほと嫌気が差すけれど、メリルの方は不思議そうな顔をしただけで、そのことについてはあまり気にしていないようだった。
「メリルは、メリルっていうの。えっと、よろしくおねがいします……?」
「はい、よろしくお願いします」
 使い慣れない言葉なのだろう。メリルの様子に、なんとなく心が和らぐ。
 メリルは、慈乃の腰かけるベッドによじ登ると、そのまま慈乃の隣に座った。そして、紙に描かれたウサギの絵を指して、「これなに?」と尋ねてきた。
「これは、ウサギ、ですよ」
 慈乃が答えれば、メリルはますます疑問に思ったようだった。
「うさぎって、なに?」
「小さい動物です。……見たことはありませんか?」
 慈乃が戸惑いながら訊き返すと、メリルは「どうぶつ?」と呟いて、首を傾げてしまった。
(動物を知らないの? ……そんなことって、ある?)
 世界が違えば常識も違うということだろうか。どう説明すべきか逡巡する慈乃の目に、メリルが抱えてきたぬいぐるみが映った。
 二、三十センチほどの大きさの黄色いぬいぐるみにはは丸い顔につぶらな目鼻の装飾、笑った口には牙の刺繍が施されていた。さらには、猫のような耳と、頭部の外周を覆うふさふさのたてがみ、胴体には先端がふっさりとした長い尾。加えて首には赤いリボンが結わえられていた。
(ライオン、よね……?)
 ライオンだと確信して、慈乃は説明を試みる。
「メリル……ちゃんの持っている、そのぬいぐるみも、動物のひとつで、ライオン、と言うんですよ」
「? これはタンポポオバケだよ?」
「タンポポ……? え?」
「ウタお兄ちゃんがつくってくれたの」
「え、でも、耳とかしっぽが……」
「みんな、タンポポオバケっていってるよ」
「…………」
 慈乃が混乱している様を、メリルはきょとんと見つめた後、急に身を乗り出してきた。
「メリルにはよくわからないけど、シノお姉ちゃんは、どうぶつ、をしってるの?」
「え、はい……」
「そしたら、メリルにおしえて!」
 好奇心に満ちた目で請われれば、断るという選択肢はないように思えた。

 動物について話したり、絵を描いたりしているうちに、気が付けば時計の長針が一回りするところであった。
 メリルははしゃぎすぎたのか、睡眠不足からか、うつらうつらとしていた。
「眠いですか?」
「う~ん……」
「そうしたら、ベッドに戻りましょう」
「ん~……」
 メリルの返事が怪しくなってきたので、慈乃は彼女を抱き上げると、二つ隣のベッドに運んでいった。そっと横たえさせ、布団を掛ける。
 メリルが寝息を立て始めたのを見届けて、慈乃はその場を離れようと踵をかえす。しかし、背後から跳ね起きる音が聞こえたことで、驚いて振り返った。
「っ…………、お母さぁん……!」
 そこには先刻の笑顔が嘘のように、ぼろぼろと涙をこぼすメリルの姿があった。
「メリルちゃ……」
「お母さん、どこにいるの……っ? いつになったらあえる? どうしてっ、しんじゃ……、うぅ……! うあぁぁぁんっ!」
 メリルの様子は、見ていてあまりにも痛々しくて。
 それなのに、上手い言葉一つ出てこないのが悔しくて。
 もどかしさを感じながらも、慈乃はこんなとき自分は母にどうしてもらっていたかを、必死に思い出そうとした。
 ぼんやりとした記憶の中に、母との思い出を見つける。

「おかあさん……」
 怖い夢を見て、目が覚めてしまった。しかし、また悪夢の続きを見てしまうのではとおもうと、再び寝つくことができなかった。
 幼い慈乃は布団を出ると、リビングにいる母のもとへ向かった。
「こんな時間にどうしたの?」
「いやなゆめをみたの」
「あらあら、怖かったわねぇ。お母さんも一緒に寝てあげるから、お布団に戻ろうか」
 母の優しい微笑みに幾分か安堵した慈乃は、素直に頷いた。
 母は、ふんわりと包み込むように小さな慈乃の手を取った。そして、柔らかい子守唄の調子に合わせて、慈乃の手を撫でさすってくれた。
 そうして眠った日には、優しい夢を見た。

(……何も、しないよりは……!)
 記憶の中の母の姿を真似てみる。
 ぎこちないながらもメリルの手を取り、何度も聴いた子守唄を口ずさむ。
 どうかメリルちゃんの心が少しでも穏やかになりますように。
そう願いながら、歌に合わせて、手を撫でる。
 慈乃の想いが届いたのか、次第にメリルは落ち着いてきた。そして、ポツリと「そのおうた」と口にした。
「そのおうた、お母さんのといっしょ、だった」
 それから、メリルはまだ涙のにじんだ目で慈乃を見つめると、花がほころぶように笑った。
「ありがとう、やさしいお姉ちゃん」
 やがて、メリルは安らかな寝息を立て始めた。
 今度こそ、跳び起きないのを確認して、腰かけていたベッドから立ち上がる。
「きっと、いい夢を……」
 祈るような、慈しむような気持ちで、穏やかな寝顔に向かって慈乃はそっと呟いた。

 メリルが寝ついて少しして、ウタセが慌てたようにやって来た。
「メリルの泣き声が聞こえてきたけど、大丈夫⁉」
 白衣も着ず、朝よりくたびれたようにも見えるウタセは、子ども達と遊んでいたのか、遊ばれていたのか。ともあれ、急いで駆けつけてくれたことは伝わってきた。
「あ、はい。つい先ほど、眠ったばかりです」
 書きつけていた紙から顔を上げた慈乃が淡々と返答する。
 ウタセは拍子抜けとも、安堵ともつかない表情をして、その場で脱力した。
「レヤもフィオもなかなか離してくれなくて、すぐに来られなくてごめんね。シノがメリルの面倒をみてくれたの?」
「はい。動物を、しらないみたいで……。教えてほしいと、言われました」
 そういって、慈乃は一枚の紙を見せる。
 ウタセが近寄って見てみると、そこにはウサギやライオン、イヌにネコなど可愛らしいイラストが描かれていた。
「うわー、懐かしいなぁ! っていうか、シノって絵が上手いんだね」
「……そう、ですか?」
「うん、絵心があるね」
 ウタセはにこにこと言う。お世辞ではなく、本心なのだろう。
「そういえば……」
 慈乃の小さな呟きを聞き逃がすことなく、ウタセが「うん?」と反応を示す。
「ここでは、ペットとかは、飼っていない、のですか?」
 ウタセはその質問に「あー」と、視線を宙に彷徨わせてから、苦笑まじりに答えた。
「この世界には、動物が存在しないんだよね。つまりは、動物っていう概念がないの」
「へ……?」
 衝撃の事実に、慈乃の頭が追い付かない。思わず漏れ出た呟きは、なんとも間抜けなものだった。
「動物はいないけど、そういう形をした、花の加護が可視化したものならいるんだよ。顔とかはなくて影みたいなんだけど、透明でキラキラしててきれいなんだ。シノにも見てほしいなぁ……、あ、これ何?」
 ウタセが鳥の絵を指す。
「それは……ハシビロコウ、です……。一応」
 うろ覚えで描いたので、あまり似ているという自信はない。ウタセは「強そー」などと感想をもらしていた。
「あ。あとは……」
 ウタセの視線が、絵から慈乃へと移る。
「タンポポオバケ? のことを、聞いたの、ですが、あれは……」
「そうなんだよ! あれでライオンのつもりで作ったのに、オバケはないよね!」
「あぁ、やっぱり、ライオンだったの、ですね」
「誰にもわかってもらえないと思ってたから、嬉しいなぁ!」
 ウタセの心底から嬉しそうにする様に、慈乃は微笑ましい気持ちになる。実際に微笑みこそしなかったが、慈乃の表情が僅かに緩んだことにウタセだけは気づいたようだった。そんなウタセはいっそう笑みを深めた。しかし、すぐに何かを思い出したように「あ」と小さく声をあげる。
「メリル、泣いてなかったの?」
「いえ、一時間くらい、話しているうちに、眠たそうにしていたので……、ベッドに連れて、行きました。そうしたら、急に、泣き出して……」
「じゃあ、なだめたのはシノ?」
「私が歌った、子守唄が、彼女の母親のものと同じ、と言われました。ありがとう、と笑ってくれたのが、……嬉しかった」
 その話を聞いて、ウタセは瞠目した。
 メリルがすんなり寝ついたことも、慈乃が嬉しいと語ったことも。
「そっか。うん、そうだね」
 ウタセはふわりと優しい笑みを浮かべた。

 ウタセが仕事に戻ると、保健室は微かに聞こえるメリルの寝息と慈乃の立てる物音だけになった。遠くからは楽しそうな笑い声が響いていた。
 慈乃の指先が触れた紙から、かさりと音が立つ。
 目を落とせば、思考のメモ書きとは別の紙に描いた動物の絵がそこにはあった。
 それを眺めていると、メリルの笑顔やウタセとの会話を思い出した。
(小さな子には、避けられると思っていたのに……)
 予想に反して、メリルは楽し気に慈乃とのやりとりに興じていた。
 なにより、偶然だったとはいえ子守唄が同じだと、ありがとうと、ほっとしたような顔でそう言われたことが印象に残っていた。
(こんな私でも……、まだ誰かを笑顔にすることができるなんて、思いもしなかったわ)
 そして、ウタセに事の次第を説明したとき。自分でも驚くほど、饒舌だったと思う。「嬉しかった」と、素直な感情をこぼしたことなど、いつ以来だろうか。
(誰かの笑顔を喜べる感情が、私にも、あったのね)
 昨日、ウタセが慈乃に言った「それにね、シノの笑った顔を見てみたいなって」という言葉。今なら彼の心情が、少しだけ理解できるような気がした。
 確かな出会いに、些細なきっかけと、小さな笑顔。
(私が求めるものは、この、先に……)
紙面を埋める動物のイラストをそっとなでる。それは、どんな短文や言葉の羅列よりも、慈乃のこれからを映し出していた。

 忘れがたく思ったメリルの笑顔を、記憶を頼りに描き残していたら、すぐ側から女の子の声がした。
「すごいすごい! メリルでしょ!」
 はっと我に返り、声のする方を向けば、タンポポオバケを連れたメリルが紙を覗き込んでいた。
 この距離で気づかないなんて、どれだけ集中していたのか。
 恥ずかしさを誤魔化しながら、慈乃はメリルに隣に座るよう勧めた。
「よく、眠れましたか?」
「うん。お母さんとあそぶゆめをみたよ」
 メリルの横顔は穏やかで、それでいて満足そうでもあった。
 メリルが振り向く。
「シノお姉ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
 その顔は、感謝と嬉しさに彩られていた。
「……どういたしまして」
 どう返すべきかわからなくて、無難な言葉を選んだ。もっと何かなかったのかと、渋い気持ちになった。
 メリルは、そんな慈乃の乏しい表情をじっとみつめる。
「お姉ちゃんは、にこにこきらい?」
「え?」
「メリルとおはなし、たのしくない?」
 途端にメリルの表情が不満げになる。
 慈乃は慌てて否定した。
「そんなことない、です……! ただ、笑え、なくて……。 その……、ごめん、なさい……」
「たのしいのに、にこにこできないの?」
 慈乃は静かに頷いた。
 メリルはなにやら考え込むと、はっとしたように再度慈乃を振り返る。
「メリルががんばったら、お姉ちゃんはにこにこなる?」
「それ、は……」
 メリルの期待と不安の入り混じった瞳を前にして、慈乃に否定などできるはずもない。「……かも、しれません」と慈乃は曖昧な返答をしたが、メリルはそれで安心したらしい。
「じゃあねー、はい、これあげる」
 得意げな笑みとともに差し出されたのは、タンポポオバケだった。
「え、でもこれ……メリルちゃんの、大事なものでは……」
 保健室に来てから、手放すところを見ていない。きっとメリルにとっては宝物のようなものでは、と慈乃が受け取れずにいると、メリルは「メリルには、もうだいじょうぶになったから」と言った。
「『大丈夫』?」
 いまいち意味がわからず慈乃が繰り返せば、メリルは「うん」とひとつ頷く。
「これね、ウタお兄ちゃんがつくってくれたっていったでしょ。 まほうがかかってるんだって、お兄ちゃんいってたの」
「魔法、ですか」
「メリルがここにきたばっかりのとき、ずっとないてたの。そしたら、お兄ちゃんがタンポポオバケをくれてね、『この子はメリルを笑わせる魔法がかけてあるんだよ』って」
 彼らしい、と思いつつ、慈乃は相づちを打つ。
「そしたらね、すごいんだよ! おともだちもできたし、たのしくなった。にこにこも増えたんだ!」
 メリルは、子どもらしい屈託のない笑みを浮かべていた。
「それは、すごい、ですね」
「うん、すごい! このこがいれば、にこにこなる! だからね、メリルにはもういらなくて、お姉ちゃんにあげるの。あとね、またこわいゆめをみても、お姉ちゃんがいればだいじょうぶだから。お姉ちゃんに、もらってほしいの!」
 ぐっと、押し付けられるように、ぬいぐるみを差し出される。躊躇いが払拭されたわけではなかったが、メリルの必死な様子に根負けして、慈乃はぬいぐるみを受け取った。
「ありがとう。きっと、大事にしますね」
「うん、だいじにしてねー」
 メリルは満面の笑みをその顔いっぱいに広げると、慈乃の左腕に飛びついてきた。
「わっ」
 突然のことに慈乃がバランスを崩しかけるも、メリルは気にした風でもなく「ねえねえ、またどうぶつのおえかきして!」とねだってきた。
 くすぐったい気持ちになりながら、慈乃はもらったぬいぐるみを傍らに置くと、代わりに鉛筆と紙を持ち直して絵を描き始めた。

 二人して絵を描いていると、扉の開閉音がして、昼食を持ったウタセが現れた。盆の上には三人分の食事が載っていた。
「すっかり仲良しさんだねー」
「いいでしょー」
 ほのぼのとした会話をしながらも、ウタセはてきぱきと食事の準備を整えていく。慈乃も片付けを始めた。
「シノお姉ちゃんすごいんだよ。おえかきじょうずだし、あとメリルのしらないじもみせてもらったの」
「メリルちゃんも、上手に描けてましたよ」
「ほめられちゃった!」
「そうなんだ。後で僕にも見せてね」
「いいよー」
 そうこうしている間に、準備を終えたようだ。
「いただきます」と三人で声をそろえてから、食事を始めた。

 賑やかな昼食の時間を終えると、メリルはまた眠ってしまった。ウタセは「子どもらしいよね」と表情を緩めて言った後、ベッドに寝かせにメリルを運んで行った。
 ウタセは戻ってくるなり傍らの椅子に座ると、「絵をみせてもらってもいいかな」と訊いてきた。慈乃は頷き、数枚の紙を差し出す。
「へぇ、本当に上手だね」
 メリルの描いた絵を見て、ウタセは目を細めた。
「あ、これってキリンかな。隣のは……なんて言ったっけ、パンダ? 魚もいるね」
 次々に紙を繰っていたウタセの手が、ふと止まる。
「これ……、シノが描いたの?」
「え? ……あっ!」
 ウタセの手元を見れば、メリルの笑顔がこちらを向いていた。間違いなく慈乃が描いたものだった。片付けのときに仕分けし損ねたのだろう。他人に見せるつもりで描いたものではなかったのだが。
 羞恥に何も言えないでいると、ウタセが呟きをもらした。
「あの子は、こんな風にも笑えたんだね」
 慈愛に満ちた眼差しで、紙面のメリルのそっとなでる。そして、ウタセは顔を上げた。
「シノはさ、メリルと話してみてどう思った?」
「どう……? 笑顔が、印象的でした」
「シノ自身は何か感じた?」
「嬉しかった、です。笑ってくれたことも、……笑ってほしいと、言われたことも」
「笑ってほしい?」
 目をまるくしたウタセに、慈乃はウタセが去った後の出来事を話して聞かせた。
「メリルがそんなことを……。タンポポオバケも卒業かぁ」
「本当に、良かったの、でしょうか。大事にしていたの、では……」
 やはり不安に思って、もともとの贈り主であるウタセに確認してみる。しかし、ウタセは迷いなく言い切った。
「今度はシノがその子を大事にしてあげてね。メリルも僕も、そう思ってるんだよ」
 柔らかい微笑みに、慈乃は今度こそ安心した。そして、それに後押しされるように決意を固めると、口を開く。
「……私、思ったんです。こんな私でも、誰かを、笑顔にできるんだ、そのことを、喜べる感情が、私にもまだ、あるんだ、って。……その先を、見てみたいって」
 視線をウタセに合わせる。ウタセは真剣な眼差しで、慈乃の話を聞いていた。
「私が、これからどうしたいか、その、答えです。ここで、もっと、子ども達の笑顔を、みてみたい、です」
「それは、ここで働きたいってこと?」
 いつになく硬いウタセの声音に、慈乃は一瞬怯みそうになる。しかし、今ばかりはと自分に檄を飛ばした。
「はい。ここまで、お世話になっておきながら、その上、雇ってほしいなんて、厚かましい、のは重々、承知して、います。ですが……」
「そうじゃなくて。シノはもといた世界に帰りたいとは思わないの? もしかしたら、二度と戻れなくなるかもしれないんだよ」
 迷惑そうな顔をされるかもしれないと覚悟していたのに、実際に目に映ったのは心配げなウタセの顔だった。
「シノはずっとここじゃない世界で生きてきた。そこがシノにとって優しくない世界だとしても、その事実は変わらない。残してきたものが、あるんじゃないの?」
「そうだと、しても。私が、変わりたいと思ったのも、生きたいと願ったのも、ここ、です。ここが、私にとっての生の象徴なら、いた世界は、……死の、象徴です。未練なんて、あるはず、ありません」
 慈乃の固い意志を聞き届けると、ウタセは安心したようにふっと笑った。
「シノがそう決めたなら、僕はそれを助けるだけだよ」
「迷惑だとは、思わないの、ですか」
「思わないよ。言ったでしょ、救いを求める手は取ることに決めてるって。まだシノの笑ったところも見てないし。それにね」
 ウタセはいたずらが成功した子どものような、彼にしては珍しい笑みを浮かべる。
「そうなったらいいなって思ってたから」
 そうして、手を差し出した。
「これからよろしくね、シノ」
「え、経営者は、ミトドリさんでは……」
 ウタセに話したのも、ミトドリに話を通してもらおうとしてのことだったが、慈乃の目論見は見事に外れた。
「ミト兄とは話してあったんだよ。もし、シノがここで働きたいって言ってきたら、歓迎しようって」
「……予知、ですか……」
 慈乃が呆気にとられたと言わんばかりに呟けば、ウタセは「僕、ひとを見る目には自信があるんだよ?」などと本気とも冗談ともつかないことを言ってきた。
「午前中にメリルをなだめたって聞いて、もしかしたらと思ったんだ。それでその話をしたら、女性職員も欲しかったところだし、ミト兄も、それからニア姉も、そうなったらいいねって。だから、はい!」
 そう言って、ウタセは再び手を差し出す。
 今度は慈乃も戸惑わなかった。差し出された手を握る。ウタセは優しく握り返すと「改めて、これからよろしくね、シノ」と笑った。
「はい。よろしく、お願いします」
 どこからか、優しい音色が聴こえた気がした。
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