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第六話 優しい昔話
第六話 九
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翌日。
学び家の皆は、毎年花見を行うという近所の桜並木のもとへとやってきていた。
真っ青に澄んだ空に、薄桃色の花びらがひらりひらりと優雅に舞う。
サクラが植わっているのは土手の上で、そこから河原を見下ろせば、一面がナノハナによる黄色の絨毯だった。河原を流れる透き通った水が、春の日射しを眩しく照り返す。
真っ先に河原に下りていくレヤとフィオに、茣蓙を持ったツクシも続く。トゥナとソラルが顔を見合わせて「勝手に行かないのー!」「危ないですよ」と言って後を追った。
彼らの後ろ姿を微笑んで見守っていたミトドリが、残る皆を振り返る。
「わたし達も行くとしようか」
待ってましたと言わんばかりに、ホノがクルルの手を引っ張った。
「クル姉、行こ!」
「わかったから、引っ張らないで」
クルルは苦笑しながらも、ホノに手を引かれるまま河原に向かう。
「うっし! アヅ、競走しようぜ」
「ガザ、茣蓙持ってんじゃん」
「ハンデだよ、ハンデ。こんくらいなきゃ、オレが勝つに決まってんだろ。んなの競走になんねえじゃん」
「むかつくー! 絶対勝つし!」
「バカなの? 怪我しそー」
「カルリアお姉ちゃーん」
「はーい。今行くよー」
駆け下りていくガザとアヅに呆れた視線を送るカルリアだったが、メリルに呼ばれて、こちらはゆっくり河原に下りて行った。
慈乃も弁当の包みを持って、子ども達の後に続いた。
茣蓙を敷いたり、食事の準備をしたりしていると、土手の上の方から数人の話し声が聴こえてくる。
「おっ、来た来た。おーい、アウィルー!」
ニアが手を大きく振って呼びかけると、そのグループはこちらにやって来た。
「ニア姉、久しぶりっす!」
アウィルに続いて、彼と同い年くらいの女性がくすくすと笑う。
「お姉ちゃん、相変わらず声大きいんだから」
それに対して呆れた視線を送ったのは、一七、八歳くらいの少年だ。
「ソニア姉さんだってひとのこと言えないでしょ」
「ハツくんは余計なこと言わないでー!」
「はいはい、アウィルもソニアもハツも元気そうで何より」
ニアと彼らの話し声を聞きつけた子ども達がわらわらと集まる。
「ハツだ! 二年ぶりじゃねえ?」
「ガザ。お前は相変わらず年上への敬意が足りないな」
「そんなんいまさらだし」
「開き直るな」
ガザは軽いデコピンをお見舞いされていた。
「ウィルに聞いてた通りだ! ツクシくんとスギナくんもいるー!」
ソニアは、ツクシとスギナを見つけると、駆け寄り、髪をわしゃわしゃとかき乱す。
スギナは言うまでもなく迷惑そうな顔をして逃げようとしていたが、ツクシは珍しくはにかんでいた。
「新顔も何人かいるんだねぇ」
落ち着いたソニアが、メリルやツユ、そして慈乃達数人を見回して言った。
それから、ずっとスギナの腕に抱えられていた男の子の手をつんとつつくと「なんていうんでちゅかー?」と問いかける。
男の子はきょとんとソニアの顔を見つめ返した。
代わりにスギナが答える。
「フユ。まだ四か月にもなってない」
「うわぁ、ちっちゃー!」
「うるせぇ……」
スギナはげんなりした顔をしていた。
ソニアは気にした風でもなく、落ち着きなく新顔の子ども達に挨拶していく。最後に慈乃の前に立った。
「あなたも初めましての子だ! 年長さん?」
どうやら職員だと認識されていないらしい。
慈乃が「いえ……」と困惑気味に返すと、ソニアははっとしたように目を見開いた。
「ってことは、あなたがウワサのシノさん!」
「う、うわさ……?」
持ち前の人見知りと完全に気後れしてしまっていることから、ろくな対応ができない。目を回している慈乃に助け舟を出したのはウタセだった。
「ソニアはいったん落ち着こうね」
「ウタ兄さん! 久しぶり!」
「はい、久しぶり。これでも食べててね」
そう言ってポケットから出した飴をソニアに差し出す。ソニアも素直に飴を口に含むと、それで大人しくなった。
「シノも飴食べる?」
「い、いえ……。少しは、冷静になりました……」
「この子はソニア。シノやウィルと同い年で、学び家出身。サンダーソニアの花守でもあるんだよ」
飴を口内で転がしながら、ソニアは首をぶんぶん縦に振る。よろしくということらしい。
「よろしくお願いします。シノ、です。今年から、学び家で働かせていただいています」
慈乃がぺこりと頭を下げると、ソニアがすかさず右手を出す。おずおずと差し出した慈乃の右手をひったくるように握ると、ソニアは上下に激しく振った。
「同い年がよっぽど嬉しいんだね」
「そ、そうなんですね……」
それにしても感情に素直な女性だ。慈乃とは正反対な性格のようだが、不思議と苦手には感じなかった。
学び家の皆は、毎年花見を行うという近所の桜並木のもとへとやってきていた。
真っ青に澄んだ空に、薄桃色の花びらがひらりひらりと優雅に舞う。
サクラが植わっているのは土手の上で、そこから河原を見下ろせば、一面がナノハナによる黄色の絨毯だった。河原を流れる透き通った水が、春の日射しを眩しく照り返す。
真っ先に河原に下りていくレヤとフィオに、茣蓙を持ったツクシも続く。トゥナとソラルが顔を見合わせて「勝手に行かないのー!」「危ないですよ」と言って後を追った。
彼らの後ろ姿を微笑んで見守っていたミトドリが、残る皆を振り返る。
「わたし達も行くとしようか」
待ってましたと言わんばかりに、ホノがクルルの手を引っ張った。
「クル姉、行こ!」
「わかったから、引っ張らないで」
クルルは苦笑しながらも、ホノに手を引かれるまま河原に向かう。
「うっし! アヅ、競走しようぜ」
「ガザ、茣蓙持ってんじゃん」
「ハンデだよ、ハンデ。こんくらいなきゃ、オレが勝つに決まってんだろ。んなの競走になんねえじゃん」
「むかつくー! 絶対勝つし!」
「バカなの? 怪我しそー」
「カルリアお姉ちゃーん」
「はーい。今行くよー」
駆け下りていくガザとアヅに呆れた視線を送るカルリアだったが、メリルに呼ばれて、こちらはゆっくり河原に下りて行った。
慈乃も弁当の包みを持って、子ども達の後に続いた。
茣蓙を敷いたり、食事の準備をしたりしていると、土手の上の方から数人の話し声が聴こえてくる。
「おっ、来た来た。おーい、アウィルー!」
ニアが手を大きく振って呼びかけると、そのグループはこちらにやって来た。
「ニア姉、久しぶりっす!」
アウィルに続いて、彼と同い年くらいの女性がくすくすと笑う。
「お姉ちゃん、相変わらず声大きいんだから」
それに対して呆れた視線を送ったのは、一七、八歳くらいの少年だ。
「ソニア姉さんだってひとのこと言えないでしょ」
「ハツくんは余計なこと言わないでー!」
「はいはい、アウィルもソニアもハツも元気そうで何より」
ニアと彼らの話し声を聞きつけた子ども達がわらわらと集まる。
「ハツだ! 二年ぶりじゃねえ?」
「ガザ。お前は相変わらず年上への敬意が足りないな」
「そんなんいまさらだし」
「開き直るな」
ガザは軽いデコピンをお見舞いされていた。
「ウィルに聞いてた通りだ! ツクシくんとスギナくんもいるー!」
ソニアは、ツクシとスギナを見つけると、駆け寄り、髪をわしゃわしゃとかき乱す。
スギナは言うまでもなく迷惑そうな顔をして逃げようとしていたが、ツクシは珍しくはにかんでいた。
「新顔も何人かいるんだねぇ」
落ち着いたソニアが、メリルやツユ、そして慈乃達数人を見回して言った。
それから、ずっとスギナの腕に抱えられていた男の子の手をつんとつつくと「なんていうんでちゅかー?」と問いかける。
男の子はきょとんとソニアの顔を見つめ返した。
代わりにスギナが答える。
「フユ。まだ四か月にもなってない」
「うわぁ、ちっちゃー!」
「うるせぇ……」
スギナはげんなりした顔をしていた。
ソニアは気にした風でもなく、落ち着きなく新顔の子ども達に挨拶していく。最後に慈乃の前に立った。
「あなたも初めましての子だ! 年長さん?」
どうやら職員だと認識されていないらしい。
慈乃が「いえ……」と困惑気味に返すと、ソニアははっとしたように目を見開いた。
「ってことは、あなたがウワサのシノさん!」
「う、うわさ……?」
持ち前の人見知りと完全に気後れしてしまっていることから、ろくな対応ができない。目を回している慈乃に助け舟を出したのはウタセだった。
「ソニアはいったん落ち着こうね」
「ウタ兄さん! 久しぶり!」
「はい、久しぶり。これでも食べててね」
そう言ってポケットから出した飴をソニアに差し出す。ソニアも素直に飴を口に含むと、それで大人しくなった。
「シノも飴食べる?」
「い、いえ……。少しは、冷静になりました……」
「この子はソニア。シノやウィルと同い年で、学び家出身。サンダーソニアの花守でもあるんだよ」
飴を口内で転がしながら、ソニアは首をぶんぶん縦に振る。よろしくということらしい。
「よろしくお願いします。シノ、です。今年から、学び家で働かせていただいています」
慈乃がぺこりと頭を下げると、ソニアがすかさず右手を出す。おずおずと差し出した慈乃の右手をひったくるように握ると、ソニアは上下に激しく振った。
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