カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第七話 運動会の応援へ

第七話 四

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ウタセとテオがほのぼのとした会話をする一方で、レヤとフィオは「次は次は⁉」とツクシの腕をつかんで揺する。ツクシは揺れる視界でプログラム用紙を一瞥すると「玉入れ~だよ~」と返答した。
 こちらも学年別対抗のようだ。メリルとテオ、ウルフィニは紅白関係なく、兄姉ごとに応援していた。
 皆、奮戦していて素晴らしかったが、特にガザ、サーヤ、スイセンには目を瞠るものがあった。コントロール抜群で、頭上の籠に吸い込まれるように玉が入っていくのだ。
 徒競走に続き、玉入れを観察していて、慈乃は学び家の子ども達の特性を新たに知った。
 ガザ、サーヤ、ヒイラギ、アヅは運動神経がいい。クルル、トゥナ、ライモも運動が得意そうだ。スイセンは運動神経がいいとか体育が得意というのではなく器用と形容した方がふさわしいだろう。タムやシキブは運動が苦手、ソラルはそもそも嫌いといった感じだ。
 個性が光る運動会に、慈乃も夢中になる。大声を出すのは苦手なので、心の中で応援した。
 カルリアのアナウンスで、次のプログラムは綱引きだと知らされる。
 いい勝負で、紅組が四勝、白組が五勝だった。
 午前中の最終種目である選手リレーの前に小休止が入る。
 そこにふらりとガザが現れた。
「ニア姉ちゃんいるー?」
 ニアが振り返って、にやりと笑った。
「ははあ。さてはニアお姉様のご加護をもらいに来たのね」
「そーゆーこと。今年が最後なんで、いっちょお願いしますっ!」
 そして肘をぶつけあったり、手を叩きあったり謎の儀式をしだした。
「あの、これは……?」
 奇妙な光景に、慈乃が隣に座るスギナに尋ねる。
「なんつーか、願掛け?」
「願掛け……」
 それでもいまいち読み込めない慈乃に、スギナは親切に解説を加えた。
「ガザは毎年リレー選手やってんだけど、その前にニアに必勝祈願しにくるんだ。ニアも学生時代の九年間はリレー選手のアンカーを務めてて、必ず勝利に導いたっていう伝説があるから。それからガザのすばしっこさはニア仕込み」
「ニアさん、すごいひとだったのですね……」
 儀式が終わると、ガザは「有終の美を飾ってやるぜ!」と意気揚々と持ち場に戻っていった。
 選手リレーは女子から始まった。
サーヤも選手だったらしい。バトンが渡ると女子からの黄色い声援が会場を席巻した。
「きゃー! サーヤ先輩、頑張ってー!」
「走っている姿もステキですっ!」
 保護者席からも力いっぱい応援する。
「いっけー、サーヤ!」
「サーヤお姉ちゃーん!」
 サーヤは一位を維持しながら、次の走者にバトンを受け渡した。
 そんなサーヤ達の奮戦の甲斐あって、女子の選手リレーは白組の勝利に終わった。

 午前中最後のプログラムとなる男子の選手リレーは、女子以上に見ごたえがあるらしく、スタート前から会場の熱気がすごかった。
 誰もが緊張して見守るなか、笛が鋭く鳴り響く。
 紅白一歩も譲らない大接戦で、実況の声も興奮に満ちる。
「まったく差がありません! バトンが第二走者に渡りました!」
 第三、第四とバトンが引き継がれていくに従って、児童生徒の歓声も大きくなっていく。白組の女団長の声と紅組の副団長の声が入り混じる。
 第六走者でやや遅れをとったのは紅組で、第七走者ではさらに差をつけられてしまった。そのまま、アンカーに入る。白組のアンカーは僅かに先を走っていた。
「まだ巻き返せる! ファイトー!」
 ニアが今日一番の激励を送る。
「ガザ―、頑張れー!」
「がんばれ……!」
 ウタセとウルフィニの声も微かに聞こえたが、すぐに大衆の大声援にかき消される。
 慈乃も手に汗を握った。
「フレッフレッ、団長!」
「ガザ、負けるなー!」
 児童生徒の応援席で、アヅが立ち上がって叫んでいた。
 席に戻りかけていたサーヤも足を止めて、リレーを見つめている。ガザは勝負相手の紅組だが、それを抜きにして勝利を願っているような真摯な眼差しだった。
 ガザはますます速度を上げていく。みるみる間に前を走る白組アンカーとの差を縮めると、ついに横に並び、あっという間に追い抜いた。
「紅組アンカーが白組アンカーを追い抜きました! 紅組、逆転です! 白組もまだ諦めないで!」
 実況とともに、会場の盛り上がりもピークに達する。
 白組アンカーも負けじと最後の力を振り絞る。開いた差が徐々に埋まっていく。
 ガザは脇目も振らず、前だけを見つめて、ひたすらに駆けた。
「紅組か、白組か⁉ まもなくゴールです!」
 白組アンカーが追いつく。
その直前で、ガザがゴールテープを切った。
「紅組! 紅組が勝利しました‼」
 ひと際大きい歓声があがる。競技場の周りから、ガザの友人達が飛び出してきた。
「すっげーよ、ガザ!」
「俺にアイスとジュースをおごらせてくれ!」
 苦しそうに膝に手を当ててかがむガザは背をバシバシ叩かれていたが、その一言に不敵な笑みを覗かせた。
「……はっ、言った、な。ぜってー、おごれよ」
「男に二言はないぜ!」
「団長~!」
 あっという間に人垣に埋もれるガザだったが、時折見えた晴れ晴れとした笑顔が印象的だった。
「自慢の弟子よ、まったく!」
「ニアちゃん仕込み最強だよね~。勝利の女神ならぬ勝利の男神誕生~」
「新たな伝説が打ち立てられたな」
 ニア達も喜びでいっぱいのようだ。
慈乃もつめていた息を吐き出すと、ようやく感動を味わえた。
会場の余韻はそのままに、お昼休憩の時間となった。

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