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第九話 花綻ぶ夏の夜
第九話 一
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「ねえ、シノ。次の休み、夏の花祭に行かない?」
園庭にある菜園の収穫作業を朝から手伝っていたら、ウタセに唐突に誘われた。
四日後は慈乃にとって初めての祭日だ。
祝祭日は一年を通して七日ある。日付は番地によって異なるが、その数と内容はどの番地も同じだということは以前に耳にしていた。
三番地では、正位一日が新年の始まりであり春の花祭でもあることから一年で一番派手な祭りが催されるらしい。しかし、九一日の夏の花祭、一八一日の秋の花祭、二七一日の冬の花祭も手が抜かれることはない。花祭は花の精や花の加護、ひいては花そのものに対して感謝を捧げる日だからだ。花を愛する民が疎かにするはずがない。
ちなみに、残りの三つの祝祭日は二四〇日の豊穣祭、二九五日の聖花祭、三四四日の言の葉の日である。
話には聞いていたもののいまいち実感が湧かない慈乃は、きょとんと首を傾げた。
「夏の花祭、ですか? 確か、祝祭日の……。夏でも催しがあるのですか?」
「あるある。三番地全体がお祭りみたいになるんだ」
その日は最低限の業務は午前中に済ませ、基本的に午後からは休みとなることは今日の朝礼でミトドリから聞いていた。
特に予定のない慈乃は頷きかけて、はたと疑問に思ってウタセに尋ねた。
「でも、私で良かったんですか?」
「ん? というと?」
ウタセは目をぱちくり瞬かせて、問いに問いで返す。
慈乃は躊躇いがちに口を開いた。
「私は、人混みはあまり得意ではありませんし、反応も薄いので……」
「僕がつまらないかもって? あはは、ないない。シノは優しいねぇ」
ウタセは一笑に付して、自信に満ちた目で慈乃を見つめる。
「そもそも誘ったのは僕だしね。大丈夫! シノが迷子にならないように気を付けるし、良い反応を引き出してみせるから! なんならシノの笑顔が見られるかもね」
「そ、うでしょうか……?」
さすがに期待しすぎな気もしたが、ウタセは楽しそうに笑うだけだった。
「そうなんです。ね、一緒に行こうよ」
以前にも似たようなやり取りがあったことが思い出される。
あれは花見のための買い出しで、休憩しようと誘われたとき。あのときもウタセに押されて了承したのだった。
やや強引なところもあるが、邪気のない笑みを見せられるとどうにも弱い。子どものように真っ直ぐな笑顔が、そっくりそのまま学び家の子ども達に重なるからかもしれない。
慈乃も誘われること自体は嫌ではなく、自分がいることで相手に迷惑がかかるのではないかという心配から、このように及び腰になっているだけなのだ。
その相手にあたるウタセは大丈夫だと断言しているし、それに断られるなんて微塵も想定いていないようなキラキラした目を慈乃に向けてくる。
慈乃は今度こそ、自分の意思で頷いた。
「では、お願いします。……楽しみ、ですね」
小さく本音を加えれば、ウタセはその顔に大輪の花を咲かせた。
園庭にある菜園の収穫作業を朝から手伝っていたら、ウタセに唐突に誘われた。
四日後は慈乃にとって初めての祭日だ。
祝祭日は一年を通して七日ある。日付は番地によって異なるが、その数と内容はどの番地も同じだということは以前に耳にしていた。
三番地では、正位一日が新年の始まりであり春の花祭でもあることから一年で一番派手な祭りが催されるらしい。しかし、九一日の夏の花祭、一八一日の秋の花祭、二七一日の冬の花祭も手が抜かれることはない。花祭は花の精や花の加護、ひいては花そのものに対して感謝を捧げる日だからだ。花を愛する民が疎かにするはずがない。
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話には聞いていたもののいまいち実感が湧かない慈乃は、きょとんと首を傾げた。
「夏の花祭、ですか? 確か、祝祭日の……。夏でも催しがあるのですか?」
「あるある。三番地全体がお祭りみたいになるんだ」
その日は最低限の業務は午前中に済ませ、基本的に午後からは休みとなることは今日の朝礼でミトドリから聞いていた。
特に予定のない慈乃は頷きかけて、はたと疑問に思ってウタセに尋ねた。
「でも、私で良かったんですか?」
「ん? というと?」
ウタセは目をぱちくり瞬かせて、問いに問いで返す。
慈乃は躊躇いがちに口を開いた。
「私は、人混みはあまり得意ではありませんし、反応も薄いので……」
「僕がつまらないかもって? あはは、ないない。シノは優しいねぇ」
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「そもそも誘ったのは僕だしね。大丈夫! シノが迷子にならないように気を付けるし、良い反応を引き出してみせるから! なんならシノの笑顔が見られるかもね」
「そ、うでしょうか……?」
さすがに期待しすぎな気もしたが、ウタセは楽しそうに笑うだけだった。
「そうなんです。ね、一緒に行こうよ」
以前にも似たようなやり取りがあったことが思い出される。
あれは花見のための買い出しで、休憩しようと誘われたとき。あのときもウタセに押されて了承したのだった。
やや強引なところもあるが、邪気のない笑みを見せられるとどうにも弱い。子どものように真っ直ぐな笑顔が、そっくりそのまま学び家の子ども達に重なるからかもしれない。
慈乃も誘われること自体は嫌ではなく、自分がいることで相手に迷惑がかかるのではないかという心配から、このように及び腰になっているだけなのだ。
その相手にあたるウタセは大丈夫だと断言しているし、それに断られるなんて微塵も想定いていないようなキラキラした目を慈乃に向けてくる。
慈乃は今度こそ、自分の意思で頷いた。
「では、お願いします。……楽しみ、ですね」
小さく本音を加えれば、ウタセはその顔に大輪の花を咲かせた。
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