カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第一〇話 日常の一幕

第一〇話 一〇

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 昼食後、窓越しに空を見上げた。灰色の雲は変わらず空のほとんどを占めているが、雲間からうっすらと光が射している。雨の気配は遠のいていた。
「おそといきたい」
 慈乃の隣で同じように空を見ていたウルフィニが、慈乃の袖を軽く引いた。
「午後なら出られるかもしれませんね。ツクシくんに訊いてみましょうか」
 ツクシはレヤとフィオと共に戦隊ごっこをしていた。慈乃が園庭に出る旨を伝えると、了解した。
「ボク達はここで戦ってるよ~。ホノちゃんとメリルちゃん、テオくんにも外行くか訊いてみてね~」
 ホノ達は色紙をちぎって、画用紙に貼っていた。
「ウルくんと外に行こうかと思うんです。三人はどうしますか」
「ぼくもいきたいな」
「メリルも」
「ふたりもいくならわたしもいくわ」
 慈乃は片付けを手伝い、四人を引き連れて外へと出た。

 玄関を出たとたん、湿気を含んだ重たい空気が肌にまとわりついた。ときおり吹く風がまだ爽やかさを残しているのが救いだ。まだ梅雨にはなっていないけれど、梅雨入りするのももう間もなくだと予感させた。
 ウルフィニがぼんやりしている慈乃の手を引っ張った。テオも慈乃を待っていて、ホノとメリルは手をつないで目の前の花壇に駆け寄っている。
「シノ姉、いこ?」
「そうですね」
 我にかえった慈乃はゆっくりと歩き出す。先で待っていたテオに手を差し出すと、テオも喜んでその手を取った。
「何を見ているのですか」
 慈乃に話しかけられたメリルとホノが振り向いた。
「アジサイだよ」
「今が時期ですものね」
 季節の移り変わりに伴って、花壇はまた違った顔を覗かせていた。
 梅雨を目前に控えた花壇には、アジサイ、デルフィニウム、アガパンサス、バーベナ、ペチュニア、サルビア、ケイトウなどが咲き誇っている。
 アジサイは白色、青紫色といった涼しげな色が多く、花弁に見える萼はシンプルな一重のようなものだけでなく、華やかさのある八重のようなものもあった。
 デルフィニウムはまさに盛りで、一週間後にはその姿が拝めなくなるほど満開の花をつけていた。ウルフィニと同じ薄花色と花色のものもあれば、明るい紫色や薄い桃色のものもあった。品種もまばらに花がつくものと茎を覆うようにこんもり花をつけるものがあるようだ。
 デルフィニウムと同じくらいの草丈で隣に咲くのはアガパンサスだ。藤色の花の集まりが一等目を惹く。
 バーベナは地を覆うように生長していた。赤みがかった紫色と青みの強い紫色は。遠目から見ると紫色の絨毯のようだった。
 六番地ほど豪勢ではないが、ここにもペチュニアが植えられている。桃色の花をいくつか咲かせているものの、多くは蕾のままだった。一斉に開花したらさぞ美しいことだろう。
 サルビアも夏を待ち遠しく思っているかのように、緑色の葉を茂らせている。ぽつりぽつりと咲く花は、夏の暑さにぴったりの燃えるような赤色だった。これから蕾を増やし、花開いていくのだろう。なんだか夏が楽しみになってくる。
 ケイトウは単色ではなく、いくつもの色を選んで植えているようだった。赤色、朱色、橙色、黄色、黄緑色と胸が弾むような明るい色が揃っている。今目立って咲いている花は寒色が多いが、ケイトウがあることで花壇を賑やかしているように見えた。
 他にも花はあったが、雑然とした印象は受けない。配色はもちろん、開花時期や草丈なども考慮されているからだ。花壇の手入れはずっとミトドリとニアとウタセの三人でやっているらしい。子ども達や慈乃も植え替えの手伝いはするが、指揮を執っていたのはやはりその三人だった。
 彼らの計算されたセンスに感じ入りながら、慈乃も花壇を観察する。
 花は美しいが、そこにカタツムリやカエルはいないと思うと僅かな寂しさが胸をかすめた。そういった生物を好んでいるわけでも得意なわけでもないが、それもまた季節を彩る一要素だと思うからだ。
 慈乃がひとりで物思いに耽っていると、テオが「みてみて」と慈乃に呼びかけた。促されるまま視線を向けた慈乃は目の前の光景に言葉を失った。
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