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第一一話 雨の休日
第一一話 六
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「えっと、座右の銘ですか……」
行き着いたマスの指示を受け、慈乃はじっと考える。座右の銘らしい格言などはないが、目標はあるなどとつらつら脳内で自問自答をしてから、ようやく口を開くに至った。
「座右の銘といえるほどではありませんが、ここで働く上での目標ならあるので、それを……」
そのように一言断ってから、言葉を続けた。
「私は学び家の家族の笑顔が好きで……、それを見たいから頑張ろうと思うのです。私がこのようなことを言っても説得力に欠けるとは思いますが、でも、それが目標でもあり支えでもあります」
胸の内では何度も繰り返してきた思いも、こうして誰かに話すことは初めてだった。
当初に比べれば感情を表に出せるようになってきたとはいえ、まだまだ喜怒哀楽がはっきり表現できるとはいいがたい。ろくに笑顔も見せられない自分が皆の笑顔を見たいというのもおかしな話だと自覚しつつも、その思いは心からのものだと伝わったらいいと慈乃は内心ひっそりと願った。
果たして、その思いは届いたようだ。
ニアの「シノらしくていい目標ね」という言葉を筆頭に、タム以下の面々も相槌を打つ。そのどれもが肯定的だった。
「そんなシノにいいことを教えてあげる」
ニアはいたずらっぽく笑って、慈乃の顔を覗き込んだ。表情に反して、エメラルドグリーン色の瞳はひどく真剣味を帯びている。慈乃は吸い込まれるようにして、その瞳を見つめ返した。
「その目標を達成する近道は、やっぱりシノ自身が笑うこと」
わかっていると口を開きかけた慈乃を「それはシノが言ったような消極的な理由じゃなくて」と言ってニアは遮った。
「笑顔には笑顔で応えたくなるものでしょ。シノがみんなを想うように、みんなだってそう思ってるはず。そこを思い違ったらダメ」
ニアの目に浮かぶ意思は、真っ直ぐで、のみこまれそうなほどに強い。まるで慈乃の目標を応援しているようにも、自分で自分を蔑む卑屈な思考を叱られているようにも思える瞳に、濁りは一切ない。
慈乃には眩しすぎるほどの視線をなんとか受け止め、「善処、します……」とだけ返した。
ニアは穴の開きそうなほどに慈乃をじっくり見た後、にこりと笑った。
「わかったならよろしい」
その笑顔でやはり叱られていたのだと悟る。
癖づいた卑屈な思考回路はそう簡単には直せないが、以後はもっと気を付けるようにしようと慈乃はそっと心に決めた。
行き着いたマスの指示を受け、慈乃はじっと考える。座右の銘らしい格言などはないが、目標はあるなどとつらつら脳内で自問自答をしてから、ようやく口を開くに至った。
「座右の銘といえるほどではありませんが、ここで働く上での目標ならあるので、それを……」
そのように一言断ってから、言葉を続けた。
「私は学び家の家族の笑顔が好きで……、それを見たいから頑張ろうと思うのです。私がこのようなことを言っても説得力に欠けるとは思いますが、でも、それが目標でもあり支えでもあります」
胸の内では何度も繰り返してきた思いも、こうして誰かに話すことは初めてだった。
当初に比べれば感情を表に出せるようになってきたとはいえ、まだまだ喜怒哀楽がはっきり表現できるとはいいがたい。ろくに笑顔も見せられない自分が皆の笑顔を見たいというのもおかしな話だと自覚しつつも、その思いは心からのものだと伝わったらいいと慈乃は内心ひっそりと願った。
果たして、その思いは届いたようだ。
ニアの「シノらしくていい目標ね」という言葉を筆頭に、タム以下の面々も相槌を打つ。そのどれもが肯定的だった。
「そんなシノにいいことを教えてあげる」
ニアはいたずらっぽく笑って、慈乃の顔を覗き込んだ。表情に反して、エメラルドグリーン色の瞳はひどく真剣味を帯びている。慈乃は吸い込まれるようにして、その瞳を見つめ返した。
「その目標を達成する近道は、やっぱりシノ自身が笑うこと」
わかっていると口を開きかけた慈乃を「それはシノが言ったような消極的な理由じゃなくて」と言ってニアは遮った。
「笑顔には笑顔で応えたくなるものでしょ。シノがみんなを想うように、みんなだってそう思ってるはず。そこを思い違ったらダメ」
ニアの目に浮かぶ意思は、真っ直ぐで、のみこまれそうなほどに強い。まるで慈乃の目標を応援しているようにも、自分で自分を蔑む卑屈な思考を叱られているようにも思える瞳に、濁りは一切ない。
慈乃には眩しすぎるほどの視線をなんとか受け止め、「善処、します……」とだけ返した。
ニアは穴の開きそうなほどに慈乃をじっくり見た後、にこりと笑った。
「わかったならよろしい」
その笑顔でやはり叱られていたのだと悟る。
癖づいた卑屈な思考回路はそう簡単には直せないが、以後はもっと気を付けるようにしようと慈乃はそっと心に決めた。
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