277 / 454
第二〇話 過去と現在の狭間で
第二〇話 一二
しおりを挟む
そして、最後にトゥナとクルルのクラスにやって来た。シフトの関係でトゥナには会えなかったが、受付でクルルには会った。
「スタンプを集めて迷路を抜けるのよ。はい、カード」
クルルはスタンプカードを慈乃とウタセ、それぞれに差し出した。
「いってらっしゃい」
クルルの声を背に、ふたりは教室内の迷路へ足を踏み入れた。
段ボールで区切られた道に、紙テープや新聞紙の妨害工策など、薄暗い迷路はただ歩くだけでも一苦労だった。
(似てるわ……)
慈乃は過去の情景を重ねていた。この迷路や文化祭という状況は過去あった高校の文化祭に酷似しており、まさしく夢の続きのようだった。
そして思い出すのは自身の異端さだった。
親しい友人がいなかった慈乃にとって、協調性が求められる学校行事は苦痛の連続だった。そのせいで体育祭や文化祭、果ては授業のグループワークなど大の苦手だった。
苦い記憶が蘇ると同時に胸を襲うのは当時から抱えていた罪業感だった。
自分なんていない方がいいのではないか。だってそうしたら私はこんな思いをせずに、周りにだって迷惑をかけないで済むのだから。
できることならなんだって頑張ってきた。けれど人間関係を築くことだけはどうしても克服できなかった。いくら勉強ができたって、人間性が伴わなければ意味がない。そんな自分に失望し、幻滅した。……自分が、大嫌いだった。
(今だって本質は変わっていないのに、何を変われた気になっていたのよ。……私はいつまで過去に囚われ続けるの?)
ぐるぐると思考がめぐる。
学び家の皆を、家族を、疑いたいわけではないのに、一度猜疑心に囚われると何もかもが信じられなくなるような気がした。
慈乃を家族だと言って受け入れてくれたことは本心からのことであると信じたい。それなのにそんな保証はないのではないかと囁く声が聞こえてくる。
(だって私は、いつもいつも、輪に溶け込めない存在だったのだから……)
慈乃が完全に思考の沼にはまっていると、案じるような声が降ってきた。
「シノ? 顔色よくないけど、大丈夫?」
「大丈夫です」という言葉は声にならなかった。代わりに慈乃の頬を涙が伝う。
(困らせちゃいけないのに……。迷惑を、かけちゃ……。……嫌われたく、ない)
それでも慈乃の意思とは関係なしに、涙の滴が次から次へと零れ落ちる。
ウタセは驚いた顔をしたものの、そっと慈乃の腕を取ると出口を真っ直ぐ目指した。迷路を出る頃には慈乃の涙は止まり、落ち着きを取り戻したかのように見えた。
「今日は疲れちゃったよね。目的は達成したし、帰ろうか」
ウタセは学舎の正門、つまりは出口へ向かって歩き出した。腕を優しく引かれるまま、慈乃は黙って従った。その顔は蒼白だ。
「ねえ、シノ」
ウタセは前を見据えたまま、慈乃に呼びかけた。
「やっぱり、話してもらうわけにはいかないかな。シノが何に悩んでる……ううん、何を怖がってるのか」
「……」
「僕、このままシノのこと放っておけないよ。大事な家族だもの」
「……」
「シノ……」
こんなに困窮したウタセの声を聞くのは初めてのことかもしれない。それを他でもない自分がそうさせていると思うと申し訳なくなったが、今は何も語りたくなかった。
(シノも文化祭を楽しめてると思ってたのに、急にどうして?)
ウタセには思い当たる節がなかった。文化祭で学び家の子ども達の学舎での頑張りに慈乃は目を輝かせており、ときおり笑顔をのぞかせるようになっていたはずだった。リンドウとは顔を合わせはしたが会話は交わさなかったし、特に問題がある言動もなかったと思う。慈乃に変化があったとすれば、ガザに会ったあたりなのだが、別段何をされたわけでもない。
ウタセには慈乃が落ち込む理由に皆目見当もつかなかった。
どうにかしてあげたい、笑っていてほしいと思うのに、どうしたら慈乃を助けられるのかわからない。それがひどくもどかしくて、自身の不甲斐なさを痛感していた。
(ただひとつわかることがあるとすれば)
ウタセは肩越しに慈乃を振り返り、つないだままの手に視線を移した。
(絶対にこの手を離しちゃいけないってことだ)
夕方になり少し強くなった風が丘を吹き抜ける。その秋風に慈乃がさらわれないよう、ウタセは慈乃の手を強く握り直した。
「スタンプを集めて迷路を抜けるのよ。はい、カード」
クルルはスタンプカードを慈乃とウタセ、それぞれに差し出した。
「いってらっしゃい」
クルルの声を背に、ふたりは教室内の迷路へ足を踏み入れた。
段ボールで区切られた道に、紙テープや新聞紙の妨害工策など、薄暗い迷路はただ歩くだけでも一苦労だった。
(似てるわ……)
慈乃は過去の情景を重ねていた。この迷路や文化祭という状況は過去あった高校の文化祭に酷似しており、まさしく夢の続きのようだった。
そして思い出すのは自身の異端さだった。
親しい友人がいなかった慈乃にとって、協調性が求められる学校行事は苦痛の連続だった。そのせいで体育祭や文化祭、果ては授業のグループワークなど大の苦手だった。
苦い記憶が蘇ると同時に胸を襲うのは当時から抱えていた罪業感だった。
自分なんていない方がいいのではないか。だってそうしたら私はこんな思いをせずに、周りにだって迷惑をかけないで済むのだから。
できることならなんだって頑張ってきた。けれど人間関係を築くことだけはどうしても克服できなかった。いくら勉強ができたって、人間性が伴わなければ意味がない。そんな自分に失望し、幻滅した。……自分が、大嫌いだった。
(今だって本質は変わっていないのに、何を変われた気になっていたのよ。……私はいつまで過去に囚われ続けるの?)
ぐるぐると思考がめぐる。
学び家の皆を、家族を、疑いたいわけではないのに、一度猜疑心に囚われると何もかもが信じられなくなるような気がした。
慈乃を家族だと言って受け入れてくれたことは本心からのことであると信じたい。それなのにそんな保証はないのではないかと囁く声が聞こえてくる。
(だって私は、いつもいつも、輪に溶け込めない存在だったのだから……)
慈乃が完全に思考の沼にはまっていると、案じるような声が降ってきた。
「シノ? 顔色よくないけど、大丈夫?」
「大丈夫です」という言葉は声にならなかった。代わりに慈乃の頬を涙が伝う。
(困らせちゃいけないのに……。迷惑を、かけちゃ……。……嫌われたく、ない)
それでも慈乃の意思とは関係なしに、涙の滴が次から次へと零れ落ちる。
ウタセは驚いた顔をしたものの、そっと慈乃の腕を取ると出口を真っ直ぐ目指した。迷路を出る頃には慈乃の涙は止まり、落ち着きを取り戻したかのように見えた。
「今日は疲れちゃったよね。目的は達成したし、帰ろうか」
ウタセは学舎の正門、つまりは出口へ向かって歩き出した。腕を優しく引かれるまま、慈乃は黙って従った。その顔は蒼白だ。
「ねえ、シノ」
ウタセは前を見据えたまま、慈乃に呼びかけた。
「やっぱり、話してもらうわけにはいかないかな。シノが何に悩んでる……ううん、何を怖がってるのか」
「……」
「僕、このままシノのこと放っておけないよ。大事な家族だもの」
「……」
「シノ……」
こんなに困窮したウタセの声を聞くのは初めてのことかもしれない。それを他でもない自分がそうさせていると思うと申し訳なくなったが、今は何も語りたくなかった。
(シノも文化祭を楽しめてると思ってたのに、急にどうして?)
ウタセには思い当たる節がなかった。文化祭で学び家の子ども達の学舎での頑張りに慈乃は目を輝かせており、ときおり笑顔をのぞかせるようになっていたはずだった。リンドウとは顔を合わせはしたが会話は交わさなかったし、特に問題がある言動もなかったと思う。慈乃に変化があったとすれば、ガザに会ったあたりなのだが、別段何をされたわけでもない。
ウタセには慈乃が落ち込む理由に皆目見当もつかなかった。
どうにかしてあげたい、笑っていてほしいと思うのに、どうしたら慈乃を助けられるのかわからない。それがひどくもどかしくて、自身の不甲斐なさを痛感していた。
(ただひとつわかることがあるとすれば)
ウタセは肩越しに慈乃を振り返り、つないだままの手に視線を移した。
(絶対にこの手を離しちゃいけないってことだ)
夕方になり少し強くなった風が丘を吹き抜ける。その秋風に慈乃がさらわれないよう、ウタセは慈乃の手を強く握り直した。
0
あなたにおすすめの小説
#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について
国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”
人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!
忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。
生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。
やがてリオは、
一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。
しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる