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第二一話 世界の色は奪われて
第二一話 一一
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そして高くなった太陽の光に揺り起こされるようにして、慈乃はそっと目を開けた。
「私……」
乾いた喉からはかすれた声しか出なかったが、それを耳聡く聞きつけたウタセが仕切りのカーテンの向こうからひょっこりと顔を出した。
「おはよう、シノ。調子はどう? 少しは良くなったかな?」
慈乃は自身が厨房で倒れたことを思い出した。そのときよりかは体調は落ち着いているように感じられる。上半身を起こした慈乃は小さく頷いた。
「良かった。食欲は?」
しばらく眠ったおかげで僅かではあるが食欲も戻ってきていた。
「少しだけなら……」
「わかった。今持ってくるね」
次にウタセが戻って来たときには、慈乃の分が取り分けられた今朝の食事とウタセが作ったのであろう薬湯がのった盆を手にしていた。
盆を受け取って手を合わせると、ウタセに勧められた通りにまず薬湯を口にした。ほのかな苦みが口中に広がる。
「補中益気湯って言ってね、気鬱によく効くんだよ」
「そうなんですね……」
慈乃は薬湯を飲み終えると、次に味噌汁の椀を手に取った。温め直されているのかほどよく温かい。一口飲むと不思議とほっとした。
その後も白米やおかずを順繰りに食べた。
お腹が満たされると慈乃はようやくひと心地ついた。今朝方ニアに言われた通り寝食がいかに大事か身をもって感じた。少しだけ頭の中の靄が晴れて、冷静になれた気がする。
慈乃が食後のお茶をすすりながらそんなことを考えていると、いよいよウタセが口を開いた。
「少しは落ち着いたかな」
「はい。ご迷惑をおかけしました……」
ウタセは「迷惑なんかじゃないよ」ときっぱりと否定した。
「家族なんだから。シノはもっと頼っていいんだよ」
「それは……」
慈乃にとって、誰かを頼るということは難しいことだった。思わず口ごもってしまう慈乃を前にしてウタセは困ったように笑った。
「シノがそういうことを苦手にしてるのはわかってるよ。だけどね、頼ってくれない方が寂しいよ」
慈乃にはいまいちぴんとこない感覚だった。
(誰かを頼ることは手を煩わせること。それは迷惑をかけるということではないの……?)
自分なんかのためにそんなことをさせるのは酷く申し訳ない気がした。どうしてウタセが寂しいというのか、慈乃にはわからない。
考え込んでしまった慈乃にウタセは寂しげな笑みを見せた。
「話したくないなら無理には聞かないよ。でも家族がいることは忘れないでね」
慈乃が頷くことでその話題は打ち切りとなった。
ウタセは「そうだ、伝言預かってるんだった」と独り言ちると、慈乃に向き直った。そこには先ほど垣間見せた寂しげな様子はない。
「ミト兄から。『シノはしばらく休みなさい』だって」
伝言を聞くなり慈乃は顔を青ざめさせた。シーツを掴む拳は小刻みに震えていた。
「そ、それは……私がちゃんと仕事をこなせていないから、ですか……?」
ウタセは目をまるくした後、慈乃に安心させるように微笑みかけた。
「違うよ、絶対に。慈乃は頑張ってたと思うよ。だけどちょっと頑張りすぎちゃったね」
見切りをつけられたわけではないとわかって、慈乃は小さく安堵の息を吐いた。
「今の慈乃がするべきことはしっかり休むこと。ね?」
ウタセは「何かあったら遠慮なく呼んでね」と言い残すと、空になった食器を持ってカーテンの向こうに姿を消した。
(……)
ひとりになった保健室で慈乃は必死に頭を働かせた。そうでもしないと勝手に思考が止まってしまうからだ。
(私だけこんな風に休んでいて本当にいいの?)
こうなったのも自己管理ができなかった結果ではないのか。頑張らなければ、働かなければと義務感は訴えてくるのに、意思や欲が伴わない。身体はまるでいうことをきかなかった。
(頑張らないといけないのに、頑張れない……。……情けない、悔しい)
考え出すと止まらなくなって、目の奥が熱を持った。昨晩も泣き通しだったので、目が痛かったが、そんなことは関係なしにじわりと涙が溢れてくる。それが余計に慈乃を惨めな気持ちにさせた。
気持ちの整理がつかないまま、ただ泣くことしかできない自分が嫌で嫌で仕方なかった。
『シノ、泣かないで~』『僕達はずっと側にいるのに……』『どうしたら声が届くのかな~』
慈乃を想う声は音になり果て、届けたい言葉は形を成さず空気に溶け消えた。
「私……」
乾いた喉からはかすれた声しか出なかったが、それを耳聡く聞きつけたウタセが仕切りのカーテンの向こうからひょっこりと顔を出した。
「おはよう、シノ。調子はどう? 少しは良くなったかな?」
慈乃は自身が厨房で倒れたことを思い出した。そのときよりかは体調は落ち着いているように感じられる。上半身を起こした慈乃は小さく頷いた。
「良かった。食欲は?」
しばらく眠ったおかげで僅かではあるが食欲も戻ってきていた。
「少しだけなら……」
「わかった。今持ってくるね」
次にウタセが戻って来たときには、慈乃の分が取り分けられた今朝の食事とウタセが作ったのであろう薬湯がのった盆を手にしていた。
盆を受け取って手を合わせると、ウタセに勧められた通りにまず薬湯を口にした。ほのかな苦みが口中に広がる。
「補中益気湯って言ってね、気鬱によく効くんだよ」
「そうなんですね……」
慈乃は薬湯を飲み終えると、次に味噌汁の椀を手に取った。温め直されているのかほどよく温かい。一口飲むと不思議とほっとした。
その後も白米やおかずを順繰りに食べた。
お腹が満たされると慈乃はようやくひと心地ついた。今朝方ニアに言われた通り寝食がいかに大事か身をもって感じた。少しだけ頭の中の靄が晴れて、冷静になれた気がする。
慈乃が食後のお茶をすすりながらそんなことを考えていると、いよいよウタセが口を開いた。
「少しは落ち着いたかな」
「はい。ご迷惑をおかけしました……」
ウタセは「迷惑なんかじゃないよ」ときっぱりと否定した。
「家族なんだから。シノはもっと頼っていいんだよ」
「それは……」
慈乃にとって、誰かを頼るということは難しいことだった。思わず口ごもってしまう慈乃を前にしてウタセは困ったように笑った。
「シノがそういうことを苦手にしてるのはわかってるよ。だけどね、頼ってくれない方が寂しいよ」
慈乃にはいまいちぴんとこない感覚だった。
(誰かを頼ることは手を煩わせること。それは迷惑をかけるということではないの……?)
自分なんかのためにそんなことをさせるのは酷く申し訳ない気がした。どうしてウタセが寂しいというのか、慈乃にはわからない。
考え込んでしまった慈乃にウタセは寂しげな笑みを見せた。
「話したくないなら無理には聞かないよ。でも家族がいることは忘れないでね」
慈乃が頷くことでその話題は打ち切りとなった。
ウタセは「そうだ、伝言預かってるんだった」と独り言ちると、慈乃に向き直った。そこには先ほど垣間見せた寂しげな様子はない。
「ミト兄から。『シノはしばらく休みなさい』だって」
伝言を聞くなり慈乃は顔を青ざめさせた。シーツを掴む拳は小刻みに震えていた。
「そ、それは……私がちゃんと仕事をこなせていないから、ですか……?」
ウタセは目をまるくした後、慈乃に安心させるように微笑みかけた。
「違うよ、絶対に。慈乃は頑張ってたと思うよ。だけどちょっと頑張りすぎちゃったね」
見切りをつけられたわけではないとわかって、慈乃は小さく安堵の息を吐いた。
「今の慈乃がするべきことはしっかり休むこと。ね?」
ウタセは「何かあったら遠慮なく呼んでね」と言い残すと、空になった食器を持ってカーテンの向こうに姿を消した。
(……)
ひとりになった保健室で慈乃は必死に頭を働かせた。そうでもしないと勝手に思考が止まってしまうからだ。
(私だけこんな風に休んでいて本当にいいの?)
こうなったのも自己管理ができなかった結果ではないのか。頑張らなければ、働かなければと義務感は訴えてくるのに、意思や欲が伴わない。身体はまるでいうことをきかなかった。
(頑張らないといけないのに、頑張れない……。……情けない、悔しい)
考え出すと止まらなくなって、目の奥が熱を持った。昨晩も泣き通しだったので、目が痛かったが、そんなことは関係なしにじわりと涙が溢れてくる。それが余計に慈乃を惨めな気持ちにさせた。
気持ちの整理がつかないまま、ただ泣くことしかできない自分が嫌で嫌で仕方なかった。
『シノ、泣かないで~』『僕達はずっと側にいるのに……』『どうしたら声が届くのかな~』
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