カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第二二話 答えの在り処

第二二話 九

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見覚えのある『花畑』には純白の花が咲き誇っている。その中央に二人の子どもの姿を見つけた。
 一人は猫柳色の長髪をもつ女の子。もう一人は栗色の髪をした男の子。
 男の子は膝を抱えて泣いていた。女の子は狼狽えていたが、やがてはっと何かを閃いたらしく、男の子の肩を叩いた。
「なかないで。そうだ、おきにいりのおはなしをきかせてあげる。そしたらわらってくれるかな」
男の子がゆるゆると顔を上げる。
「おかあさんがつくったおはなしなんだよ。わたし、このおはなしをきくといやなことがあってもかなしくなくなるの」
 女の子は物語を紡ぎ出した。
「『たびのさきに』」
いつしか涙が止まった男の子は、女の子の語りを夢中になってきいていた。
「……『「こんなせかいで いきていくことは できないよ」 テルルは いいました。 「こんなせかいだから いきてみようよ」 フレレは びっくりしました。「なんで そんなことが いえるの」 すると テルルは わらいました。「だって こうして せかいを しった わたしたちなら なにかを かえることが できるかもしれないよ」」
 女の子は歌うように語る。
「「できないよ」 「まだ やってもいないのに わからないよ」 フレレは たびに でたときのことを おもいだしました。さいしょは たびにでるなんて できないと おもっていたこと。しかし、テルルは ゆめを かなえたのです。テルルといっしょなら もしかしたら かなしいせかいを かえることが できるかもしれない。フレレは テルルを しんじることにしました。ふたりの たびは まだ はじまった ばかりです。 おしまい』」
 女の子は達成感を露わに、男の子を振り返った。
「どうだった?」
「……いいお話だね。うん、僕は好きだよ」
 そして男の子は微笑んだ。
「それに君の優しい気持ちが嬉しかった」
 女の子に初めて見せた笑みは、春の陽だまりのような柔らかで温かなものだった。
「……! わらってくれた!」
 男の子は目をまるくすると「本当だ……」と半ば呆然としたように呟いた。女の子が心配そうに「だいじょうぶ?」と男の子の顔を覗きこむ。
「……悲しいことばっかりあって、僕、ずっと笑えなかったんだ。笑えないことも悲しくて……」
「そうなの?」
「うん。でも、君のおかげでまた笑えるようになったよ。君の優しさに助けられたんだ」
 「ありがとう」と言う男の子の栗色の瞳は希望の光に満ち溢れていた。
 慈乃は俯瞰して彼らの様子を見守っていた。
(忘れていたけれど……これは過去の光景だわ)
 幼いころの記憶は全体的に朧げだが、母が亡くなった前後は特に記憶があやふやだった。この夢の光景は母が亡くなる一年前くらいのものだった。
 当時の慈乃も誰かの笑顔を見ることが好きだった。両親にはもちろん笑っていてほしかったし、偶然出会った男の子にも泣くよりは笑っていてほしかった。
(私って笑顔が好きなのね。今も昔も)
 今しがた垣間見た男の子の笑顔が思い出される。
(そういえば、誰かに似ていたような……)
 思い出すよりも前に、慈乃の意識は夢から現実へと引き上げられた。
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