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第三〇話 過去の面影
第三〇話 九
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「僕はシノの話が聞きたいな」
一転して、ウタセは柔らかに慈乃に笑いかけた。話題を転換したかったのもあるだろうが、その言葉もまたウタセの本心なのだと慈乃にはわかった。
「私の、ですか。でも……」
言い淀む慈乃の顔に翳が落ちるも、一瞬のことだった。叔父一家に厄介になっていたときのことを全く思い出さなかったといえば噓になるが、それ以上に今の慈乃の胸の内は温かい思い出に満ち溢れていたからだ。
俯けかけていた顔を上げる。そこに昏さはなく、ただ優しい微笑みがあった。
過去のことをこうして穏やかな気持ちで語れるようになる日が来るなんて以前なら想像もできなかった。
一体何から話そうか、迷いながらも慈乃はぽつりぽつりと語りだした。
両親と慈乃の三人家族だったこと、天気のいい日には家族揃ってよく散歩にでかけたこと、お弁当を持ってお花見をしたこと、母はカモミールが好きで一緒になって種を蒔いたこと、母亡きあとも父と素朴ながらも心安らぐ生活をしていたこと。
父や母とともに生きてきた時間は、慈乃にとって優しくて安心できるものだった。
それがこの場の皆にも伝わったのだろう。五人とも慈乃の話に耳を傾けては、穏やかな顔をしていた。
この先も話そうかどうか迷う。きっと聞いていて気持ちの良いものではないと思うから。
突然黙り込んだ慈乃に、ウタセが心配そうな声で問いかける。
「シノ、どうしたの?」
(それでも……)
正体のわからない自分を快く受け入れて、たくさんの感情を教えて、過去に立ち向かう勇気をくれたこのひとたちには、慈乃の過去を伝える必要があると思った。
隠し事はしたくない。自分のことを知ってほしい。
慈乃は強い決意を瞳に浮かべてウタセに大丈夫だとひとつ頷くと、ゆっくり口を開いた。
「ここからは聞いていて楽しい話ではないと思います。だけれど……、私は皆さんにはそれを知っていてほしいと。身勝手にも、そう思うのです。……聞いてくださいますか?」
一転して、ウタセは柔らかに慈乃に笑いかけた。話題を転換したかったのもあるだろうが、その言葉もまたウタセの本心なのだと慈乃にはわかった。
「私の、ですか。でも……」
言い淀む慈乃の顔に翳が落ちるも、一瞬のことだった。叔父一家に厄介になっていたときのことを全く思い出さなかったといえば噓になるが、それ以上に今の慈乃の胸の内は温かい思い出に満ち溢れていたからだ。
俯けかけていた顔を上げる。そこに昏さはなく、ただ優しい微笑みがあった。
過去のことをこうして穏やかな気持ちで語れるようになる日が来るなんて以前なら想像もできなかった。
一体何から話そうか、迷いながらも慈乃はぽつりぽつりと語りだした。
両親と慈乃の三人家族だったこと、天気のいい日には家族揃ってよく散歩にでかけたこと、お弁当を持ってお花見をしたこと、母はカモミールが好きで一緒になって種を蒔いたこと、母亡きあとも父と素朴ながらも心安らぐ生活をしていたこと。
父や母とともに生きてきた時間は、慈乃にとって優しくて安心できるものだった。
それがこの場の皆にも伝わったのだろう。五人とも慈乃の話に耳を傾けては、穏やかな顔をしていた。
この先も話そうかどうか迷う。きっと聞いていて気持ちの良いものではないと思うから。
突然黙り込んだ慈乃に、ウタセが心配そうな声で問いかける。
「シノ、どうしたの?」
(それでも……)
正体のわからない自分を快く受け入れて、たくさんの感情を教えて、過去に立ち向かう勇気をくれたこのひとたちには、慈乃の過去を伝える必要があると思った。
隠し事はしたくない。自分のことを知ってほしい。
慈乃は強い決意を瞳に浮かべてウタセに大丈夫だとひとつ頷くと、ゆっくり口を開いた。
「ここからは聞いていて楽しい話ではないと思います。だけれど……、私は皆さんにはそれを知っていてほしいと。身勝手にも、そう思うのです。……聞いてくださいますか?」
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