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第三〇話 過去の面影
第三〇話 一一
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ウタセが新しく淹れてくれたカモミールティーを一口含むとほっと心が落ち着くのを感じた。
「なんだか不思議です」
「うん? 何が?」
はす向かいに座るウタセが軽く首を傾げる。慈乃はちらりとウタセを見上げてから、手元のマグカップに視線を戻した。淡く色づいた水面に自身の顔が映りこむ。思いのままに泣いた後だからか、それともこのお茶の効果なのか穏やかな顔をしていた。
「ウタくんはカモミールの花守ではないのに、このお茶を飲むとリラックスするのがわかるのです。なぜでしょう」
「そこはレゲ先生仕込みだからかな。花の効果を引き出す作り方や淹れ方があるんだって、教えてもらったんだよ」
「そうなのですね」
慈乃が頷きかけると「ああ、でも」とウタセは付け加えた。
「カモミールのお茶なら、シノにも効果的なものが簡単に淹れられると思うよ。なんて言ったってシノはカモミールの花守なわけだしね」
「はいはーい! あたし、シノの作ったカモミールのお菓子が食べてみたい!」
いたずらっぽく笑うウタセに続いて、ニアが慈乃の隣から元気な声をあげる。
「ニアちゃんにはリラックス効果なんていらないんじゃない~?」
「わたしもそう思うよ」
「オレも」
「ちょっとちょっと、みんなしてどういう意味⁉」
笑い声が響く中、そんなこともできるのかとウタセを見遣ると、ウタセはにっこり笑った。
「もちろん、できると思うよ。時間がある時に教えようか?」
「ぜひ、お願いしたいです……!」
自分の力が誰かの役に立つこと、自分にできることが増えるのは純粋に楽しみで、慈乃は間髪容れず頷き返した。そんな慈乃を見て、ウタセは笑みを深め、嬉しそうにしている。
(少し、子どもっぽかったかしら……?)
意識してしまうと頬が熱くなり、慈乃は隠すように手を当てた。ウタセはくすりと笑みをこぼすと「いいんじゃないかな」と言った。
「シノの考えることは前にも増してわかりやすくなったよね。はしゃぎすぎて恥ずかしいとかそんなところかな」
図星を指されて慈乃はますます頬を赤らめた。
(私ってそんなにわかりやすいかしら)
人形めいているとか鉄面皮だとか何を考えているかわからないなどとは何度も言われたことがあるが、まるで正反対のウタセの意見に慈乃は戸惑ってしまった。
「僕は、素直でいいなって思うよ。シノの美点だね」
「それは……、ウタくんだからそう思うだけでは……?」
他人の心の機微に敏いウタセだからこそ、そう評価できるのではないかと慈乃が控えめに主張すれば、意外にも話を聞いていたらしいスギナが「そうでもないんじゃね?」と声をあげた。
「確かにはじめの頃はよくわかんなかったけど、最近は結構わかるようになったと思うぜ。慣れもあるんだろうけど、シノも顔に出やすくなったよな」
「あ、やっぱりスギナもそう思う?」
理解者が現れたことに喜びを見せるウタセに、スギナは素っ気なく頷いた。それはスギナなりの照れ隠しで、本心からの言葉だったのだとわかった。
ウタセは前々から慈乃のことを「わかりやすい」と言っていたのでどこまで事実なのかわからないところがあったが、働き始めたころに「鉄面皮で何を考えているかわからない」と評したスギナまでウタセと同じことを言うのだったら、きっとその通りなのだろうと慈乃も納得した。
どうやら自分はいつの間にか感情だけでなく表情も取り戻していたらしい。そのことにようやく気づいたと同時に、自然と優しい微笑みがこぼれ落ちる。
微笑みに乗せた慈乃の想いはこの場の皆に届いただろうか。
皆一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに同じ温度の微笑みを返してくれた。
きっと皆にも届いたのだろう。
慈乃の「ありがとうございます」と「幸せです」という優しさに満ち溢れた感情が。
「なんだか不思議です」
「うん? 何が?」
はす向かいに座るウタセが軽く首を傾げる。慈乃はちらりとウタセを見上げてから、手元のマグカップに視線を戻した。淡く色づいた水面に自身の顔が映りこむ。思いのままに泣いた後だからか、それともこのお茶の効果なのか穏やかな顔をしていた。
「ウタくんはカモミールの花守ではないのに、このお茶を飲むとリラックスするのがわかるのです。なぜでしょう」
「そこはレゲ先生仕込みだからかな。花の効果を引き出す作り方や淹れ方があるんだって、教えてもらったんだよ」
「そうなのですね」
慈乃が頷きかけると「ああ、でも」とウタセは付け加えた。
「カモミールのお茶なら、シノにも効果的なものが簡単に淹れられると思うよ。なんて言ったってシノはカモミールの花守なわけだしね」
「はいはーい! あたし、シノの作ったカモミールのお菓子が食べてみたい!」
いたずらっぽく笑うウタセに続いて、ニアが慈乃の隣から元気な声をあげる。
「ニアちゃんにはリラックス効果なんていらないんじゃない~?」
「わたしもそう思うよ」
「オレも」
「ちょっとちょっと、みんなしてどういう意味⁉」
笑い声が響く中、そんなこともできるのかとウタセを見遣ると、ウタセはにっこり笑った。
「もちろん、できると思うよ。時間がある時に教えようか?」
「ぜひ、お願いしたいです……!」
自分の力が誰かの役に立つこと、自分にできることが増えるのは純粋に楽しみで、慈乃は間髪容れず頷き返した。そんな慈乃を見て、ウタセは笑みを深め、嬉しそうにしている。
(少し、子どもっぽかったかしら……?)
意識してしまうと頬が熱くなり、慈乃は隠すように手を当てた。ウタセはくすりと笑みをこぼすと「いいんじゃないかな」と言った。
「シノの考えることは前にも増してわかりやすくなったよね。はしゃぎすぎて恥ずかしいとかそんなところかな」
図星を指されて慈乃はますます頬を赤らめた。
(私ってそんなにわかりやすいかしら)
人形めいているとか鉄面皮だとか何を考えているかわからないなどとは何度も言われたことがあるが、まるで正反対のウタセの意見に慈乃は戸惑ってしまった。
「僕は、素直でいいなって思うよ。シノの美点だね」
「それは……、ウタくんだからそう思うだけでは……?」
他人の心の機微に敏いウタセだからこそ、そう評価できるのではないかと慈乃が控えめに主張すれば、意外にも話を聞いていたらしいスギナが「そうでもないんじゃね?」と声をあげた。
「確かにはじめの頃はよくわかんなかったけど、最近は結構わかるようになったと思うぜ。慣れもあるんだろうけど、シノも顔に出やすくなったよな」
「あ、やっぱりスギナもそう思う?」
理解者が現れたことに喜びを見せるウタセに、スギナは素っ気なく頷いた。それはスギナなりの照れ隠しで、本心からの言葉だったのだとわかった。
ウタセは前々から慈乃のことを「わかりやすい」と言っていたのでどこまで事実なのかわからないところがあったが、働き始めたころに「鉄面皮で何を考えているかわからない」と評したスギナまでウタセと同じことを言うのだったら、きっとその通りなのだろうと慈乃も納得した。
どうやら自分はいつの間にか感情だけでなく表情も取り戻していたらしい。そのことにようやく気づいたと同時に、自然と優しい微笑みがこぼれ落ちる。
微笑みに乗せた慈乃の想いはこの場の皆に届いただろうか。
皆一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに同じ温度の微笑みを返してくれた。
きっと皆にも届いたのだろう。
慈乃の「ありがとうございます」と「幸せです」という優しさに満ち溢れた感情が。
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