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1章~葛葉信の思惑~

悪の科学者とヒーローの些細な日常~ヒーロースーツではしゃぐ男子大学生~

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「はっず!この歳になってライダースーツとかはっず!」

アジトに到着したわしにさっそくヒーロー用のスーツが渡された。

日向に着てみろと言われて、いやだと言ったが、着るだけだから
という言葉にしぶしぶ了承する。

実はわしも個人的にこのスーツにはかなり興味があった。
黒色で伸縮性がある素材は、ゴムのようにも見えるが違うらしい。
宇宙人と戦うために新たに開発された素材で、
耐久性抜群で、深海の圧力にも耐えられる。
一体どんな素材なのだろうか。
根っからの科学者としての好奇心がうずいて止まらない。

「このハンドバンドつけて、それでこのボタン押すと」
「うわっ」

一瞬で自分の身にまとっていた衣服がヒーロースーツに変わっていた。

「あと上にガスマスクをつけて完了」
「あ、それは後付けなんやね」
「遠距離で戦闘する奴は必要ないからな、でも俺は基本的に近接で戦うから
毒まき散らす怪人に対しては必須なんだ」
「わしは顔隠せるからいいけど。これ結構ごつくてかっこええし」

一通り着替えを終え、ぐるぐると動きを確認する。
軽い。かなり動きやすい。
どうしてこんな薄い生地で怪人の重い一撃に耐えられるのだろうか。

「性能検査するけどいい?」
「えっ、何すんの?」
「俺が相手になるから、手合わせ」
「わし今まで武道とか、格闘技とかやったことないけど
これ、サンドバックにされるん?わし死ぬの?」
「戦闘時の自動操縦プログラムがあるから大丈夫だ」
「えっ、待って。すっご!そんなんあるん?」
「あぁ、俺は使わないけど。もともと剣道やってるし」

仮想空間と呼ばれる部屋に移動した。

「腕のところのボタンをピッて押せば、自動操縦プログラムが
作動するからやってみて」
「えっ?どこ?」
「ここってうわっ、急に押すなよ。危ねぇな」
「えっ、今のパンチで腕の筋肉死んだんやけど。
これだいじょうぶ?マジで大丈夫?」
「人間の身体能力の限界を引き出して戦わせるプログラムらしいから、
明日とか筋肉痛になるかもな」
「やめていい?」
「残念、もう止まらねぇんだよなぁ」

ぶんっと日向の拳が風を切る。
真っすぐに顔面に向かって飛んできたそれを、
顔面で受け止める寸前で躱す。
そのままわしの体は勝手にバク宙を3回行い、日向から距離を取る。
追ってきた日向に蹴りを入れた。
しかし、その衝撃で吹っ飛ぶかと思われた日向は
ぐっとわしの足を掴む。

「捕まえた」

足首を両手でぐっと握ると、瞬間、稲妻のような光が
日向の手から放たれた。

「いっ、あ゛っがぁっ!」

全身に痛みが走り、わしはその感覚に驚きその場に膝をつく。
ぐっ、ぐっと動こうとするが、そのたびに全身にびりびりと
しびれのような感覚が走り、動くことすらできない。

「大丈夫か?」

日向が慌ててこちらに駆け寄ってくる。

「痛ったい。まじ痛い。なんやこれ」
「俺の得意技」
「そうなん?前鎌持ってたやん」
「あれは囮用。戦う時あれをいったん手放して、
敵に武器がなくなったと油断させたところでこの電撃を放つと
簡単に仕留められるんだ」
「へ、へぇ。えげつない戦法やね。
それでどうして今そんな必殺技をわしに使ったんや。
なんかわしに恨みでもあるん?」
「いやなんか気分が乗ったから」
「こっわ。なんやこのサイコパス」

未だにびりびりとしびれて立てないわしに肩を貸して
日向が肩を貸して立たせてくれた。

「そういえばお仲間はいないん?」
「あいつらは基本的にここには来ないよ。各自でスーツ持って
怪人が現れたら手が空いている奴が現場に向かって戦う。
集まるのは月に一度のメンテナンスくらいか
それにここ支部だし。本部には人が在中しているけど。
ここは全部無人ロボットで管理されてる」
「あっさりしとるんやね」
「まぁこんなことしてるといつ狙われるかわかんねぇし」
「メンバーは日向が集めたん?」
「まぁ一応。戦闘員を選ぶ権限は俺に預けられている。
って言っても資質とかはあるけど俺が一緒に戦いたいと思ったやつを
選んでるだけだけど。お前にもいつか紹介できるといいな」
「この流れやとわしもメンバーになるん?まだ了承してないんやけど」
「もちろんお前も今日からヒーローの一員だ」
「まじで勝手に決めんなやぁ…」
「ほぼ俺が戦うから大丈夫だって。
そんなに頻繁に怪人が現れるわけじゃないし
お守りみたいなもんだと思ってればいいだろ」
「そんな簡単にこんな大切なもん渡してええん?」
「俺がお前にやりたいと思ったんだからいいだろ」

ため息しか出てこない。
もうなんやのこの子。
ほんまついていけんわ。

でもこんな日向との押し問答を好ましく感じている自分もいて、
自分自身に呆れてくる。
振り回されて楽しいとかどエムか。

日向といると色々な感情が無理矢理引きずり出される。
それは自分の中ではもう消えたと思っていたものなのに、
痛み、笑い、楽しい、苦しい、悲しい、うれしい。

ころころと零れる気持ちが、景色を彩っていく。
こんな日々が続くと思っていた。
馬鹿なことだ。
しかし、それはすぐに終わりを告げる。
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